News 2001年8月29日 06:18 PM 更新

モバイル向け新プロセッサ「Banias」とは,どんなものか?

IntelがIDF 2001初日にお披露目をしたBaniasは,モバイル市場に対する同社の切り札とも言えるプロセッサだ。詳細は未だベールに包まれているが,現在入手可能な情報から,その姿を描き出してみた。

 IntelはIntel Developer Forum Fall 2001の初日,モバイル専用に新規開発されたプロセッサ「Banias」と,SMT(Simultaneous Multi Threading)技術を実装したサーバ向けプロセッサ「Foster」をお披露目した。Baniasは2003年前半,FosterはXeonの名称で2002年中に市場に投入される。

 いずれも,クロック周波数以外の部分に付加価値を求めた製品として注目される新プロセッサだ。中でもエンドユーザー向けのBaniasについて,現在わかっている情報をまとめてみた。

 この記事は,Baniasの詳細発表前の段階に,その時点で判明している事柄に推測を交えた形でまとめたものです。発表後,Baniasの解説ビデオを含めた記事を別途掲載しております。動作の仕組み等については,そちらの記事=ビデオで見るモバイル専用プロセッサ「Banias」の仕組みもご参照ください。

消費電力の上昇に歯止めをかけるBanias

 これまでのプロセッサは,世代を重ねるごとに高速にはなってきたものの,パフォーマンスと同時に消費電力も上昇を続けてきた。一般に半導体のダイサイズが小さくなれば消費電力は小さくなるため,製造プロセスが進化することで一時的には消費電力が下がることもある。

 しかし,近年のプロセッサはトランジスタ数が激増し,クロック周波数も驚くほど向上している。過去を振り返っても,歴代のx86プロセッサは世代を重ねるごとに消費電力を増してきた。

 そこで技術の進化を単純な処理能力の向上に割り当てるのではなく,今日実現されているプロセッサの高性能を維持しながら,進化の方向を消費電力低減に向けて開発したのがBaniasだ。バッテリ持続時間を延ばし,熱設計電力(TDP)を引き下げて薄型・小型化を実現しつつ,パフォーマンスを犠牲にしないというコンセプトである。


これまで高速化と共に上昇してきた消費電力だが,Baniasではパフォーマンスレベルを落とすことなく,技術的な進化により消費電力を下げていくアプローチを採用したという

 こうしたプロセッサが登場する背景には,ユーザーニーズの多様化があると考えられる。x86プロセッサは机の上にある大きなパソコンの頭脳,というステレオタイプなイメージでは括ることができなくなってきた。

 プロセッサは薄型軽量のノートPCを出先で駆動する頭脳であったり,インターネット上のWebサーバを支える頭脳であったりと,さまざまな利用環境で使われている。利用環境が異なれば,ユーザーニーズもそれに合わせて多様化するものだ。単に安くて速いプロセッサというだけでは,すべてのユーザーニーズに対して最適解を出すことは難しい。

 Baniasは外出先でPCを利用している,あるいは利用したいと考えているユーザーには福音となるだろう。同様のコンセプトでマーケティングが行われている製品に,TransmetaのCrusoeがある。Crusoeはパフォーマンス面でPentium IIIを相手に苦戦しているものの,小型軽量のノートPCでは一定の評価を受け,Intel製プロセッサの消費電力向上で消えかけた小型PCの火を守った。

 Baniasのパフォーマンスを犠牲にせずに低消費電力化を図れるという看板に偽りがなければ,モバイル市場を盛り上げる刺激剤の役目を果たすだろう。それだけのインパクトがある製品になるはずだ。

依然として謎の内部アーキテクチャ

 期待されるBaniasだが,詳細なアーキテクチャについては,まだIntelは堅く口を閉ざしている。Intelが提示しているキーワードは3つ――1つは「Aggressive Clock Gating」,もう1つは「Special Size Techniques」,最後が「Micro Ops Fusion」だ。前者2つは消費電力低減を目的としたもの,最後の1つはクロック当たりの処理可能な命令数(IPC)向上を目的としたものと推察される。

 Aggressive Clock Gatingでは,プロセッサ内部の各種ユニットを細かく分割し,それぞれ独立してクロックの停止を行う技術のようだ。このようなアプローチはチップの消費電力を下げるための技術として一般的なものだが,Aggressive Clock Gatingではその名の通り,より積極的に無駄なくクロック制御を行うことで,無用な電力の消費を抑える。

 Special Size Techniquesは,各種ユニットの配置や回路設計,シリコンへの実装などを最適化することで,ダイサイズを極限まで小さくしていることを意味している。通常では,パフォーマンス向上(クロック周波数)のスケーラビリティを確保するために,ある程度,実装面積を犠牲にしながら設計する部分でも,消費電力面でのメリットのほうを考慮して,ダイ設計を行ったものだろう。

 ここまではベーシックな技術を突き詰めることで,省電力化を目指したものだが,最後のMicro Ops Fusionは興味深い。基調講演では,命令の流れを模式化したアニメーションに最小限の説明を加えただけなので,詳細は想像するほかない。

 通常のx86プロセッサでは,命令デコーダでx86命令をRISCライクなμOPs(Micro Ops)へと分解され,それが命令バッファへと蓄えられてから並列実行できる組み合わせを選んで複数の実行ユニットに振り分けられる。

 しかしBaniasでは,命令デコーダは2つのx86命令を組み合わせ,ひとつの塊として命令バッファへと送られ,実行ユニットへと引き渡されるというアニメーションになっていた。

 2つのx86命令を組み合わせた塊こそが,このアーキテクチャのミソのようだ。あらかじめ同時実行できるx86命令のペアを選択し,それを4つのμOPs命令を組み合わせたVLIW命令へと変換して,実行ユニットに引き渡しているように見える。

 省電力を狙ったプロセッサであるため,おそらくクロック当たりのパフォーマンスを向上させつつ,クロック周波数は抑えめになると予想されるが,すべてはベールの中だ。

 なお,動作電圧に合わせてクロック周波数を動的に変更するメカニズムはもちろん搭載しているが,対応チップセット,パイプラインの構成,動作クロック周波数など,ほとんどの仕様は公開できないという。

 ただ,Baniasのコンセプトでは使用時の平均消費電力を引き下げるというアプローチだけでなく,TDPを引き下げるためにさまざまな技術が投入されている。BaniasがターゲットとするノートPCのセグメントは,高性能モデルから小型PCまで幅広いものになるとのことだが,特にTDPが製品のきょう体パッケージに強く影響する薄型・小型のノートPCに対して,良いソリューションとなり得ると考えられる。

関連記事
▼ 特集:IDF Fall 2001
▼ Intel,ノートPCへの考古学的新アプローチ
▼ Intel,プロセッサの新並列処理技術を明日発表へ
▼ Intel,Timnaの提供計画を中止
▼ Intel,ポストPC時代に向けた戦略を披露

[本田雅一, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.