News 2001年10月5日 09:28 PM 更新

Pocket PC 2002は,PDA市場を大化けさせられるか?

正式発表された「Pocket PC 2002」。VPNのサポートなどビジネス用途での使い勝手が向上している。今回より参入を果たした東芝,NEC,富士通が,企業市場の開拓を狙っているのは明確だが,“収穫期”は本当に訪れるのだろうか?

 手のひらサイズのPDAと言えば,かつてはPalmの独壇場であった。それに戦いを挑む「Palm-size PC」は,常にPDAとしての使いやすさがなっていないと批判され続けたものだ。

 それが昨年,米国でCompaq Computerが「iPAQ Pocket PC」を発売してからというもの,状況は大きく変化してきている。日本市場においても,、当初はパーソナルユーザーを中心に売れていたiPAQが,企業向け案件を中心に出荷数を伸ばしているという。

 10月5日に発表された「Pocket PC 2002」を,マイクロソフトの阿多親市社長は,「A Better Pocket PC,The Best Device for the Enterprise,The Most Connected PDA」という3つの要素を持つプラットフォームだと紹介した。

 個人の興味を惹くという意味では,「A Better Pocket PC」という部分が重要だが,より広い市場に向けたビジネスにも使えるプラットフォームとしては,後ろの2つがカギになる。

 Pocket PC 2002は,強固なパスワード,パスワードのタイムアウト設定,アンチウィルスインターフェイスの提供といった,これまでのPDAが備えてこなかったPCレベルのセキュリティ機能は当然として,VPNクライアントやPDAからのネットワークフォルダの参照もできるようになった。

 これまで,PDAだけを持ち出しても,企業ネットワークにインターネット経由でログオンして,サーバ上にあるドキュメントを取り出せなかった。それを考えると,Pocket PC 2002は,PCと似た操作性を持つ“手のひらPDA”から,PCと同じリソースへアクセスできる“PDAプラットフォーム”へと変貌を遂げたと言える。

 さらに,接続性の面でも改善が図られ,社内ネットワークへのアクセス,インターネットへのアクセスなど,その場の状況に応じて最適な接続形態を自動認識し,異なるネットワーク設定が適用されるようになっているという。

 また,オブジェクト交換フォーマットの標準である「OBEX」をサポートし,赤外線インターフェイス経由で他デバイスとのデータ交換も行える(発表会ではNTTドコモの503iシリーズと電話帳データの交換するデモンストレーションも披露された)。ActiveSyncも4.0へとバージョンアップされ,接続したPCをゲートウェイとしてネットワークにアクセスするデスクトップパススルー機能を利用可能だ。

 「PocketOutlook」や「Pocket Internet Explorer」といった搭載アプリの機能強化も図られた。Pocket Outlookは動作が軽快になり,受信トレイのサブフォルダの同期,会議開催依頼への承諾,HTMLメールの閲覧,音声によるメール返信,頻繁に利用する文章の登録といった機能が加わり,実用性が大きく向上している。Pocket IEは,HTMLのほか,XML,JavaScriptのほか,WAPやcHTMLといった携帯電話向けのコンテンツにもアクセスできる。

 従来は,OutlookとIEの名が与えられながらも,本格的にビジネスクライアントとして利用することを想定すると力不足を感じるソフトウェアだった。しかし,今回の改良で(PDA用にカスタマイズの必要性はあるが)企業ソリューションの一部としてPocket PCを利用する場合にも対応できるだけの最低限の機能は備えたという印象である。

 インスタントメッセージングクライアントのMSNメッセンジャーが装備されたことも,ワイヤレスネットワークを活用したPDAの応用を考える上で重要な機能追加だろう(MSNメッセンジャーサービスはインターネット上でサービスされているが,Exchange用のリアルタイムコミュニケーションプラットフォームとして企業内でも利用できる)。

収穫の時は来るか?

 もっとも,こうしうた機能アップは,Pocket PC 2002 を搭載するPDAに,さらに大きなリソースを要求し,結局さらに強力なハードウェアの登場を待たなければならないという懸念もある。しかし,マイクロソフトは今回のPocket PCから,ハードウェアプラットフォームに使われるプロセッサアーキテクチャをARMに絞り,徹底的にチューニングを施している。

 発表会場では,コンパックコンピュータのiPAQ担当者が日本語版 Pocket PC 2002を搭載するアップグレードした現行iPAQのベータ版,および米国で本日発表された新iPAQ(H3700/H3800)を見せてくれた,実際に触れてみたが,いずれも軽快な動きを見せていた。


現行のiPAQ(H3630)に日本語版 Pocket PC 2002 をインストールしたもの。バージョンアップ後も軽快なレスポンスは変わらない。既存ユーザー向けのアップグレードプログラムも本日から受け付け,11月下旬には発送されるという


米国で発表された新iPAQ(H3700)。SDスロットを備えるほか,液晶パネルが6万5000色拡張されている。中央のカーソル機能付きスイッチも操作性が大きく改善されていた。バッテリ容量も若干増えているようだ。このほかBluetooth内蔵のH3800シリーズも発表されている。国内での発売は年内が目標

 特にPocket Outlookは,従来のクライアントよりも軽快なほどである。ただし,ソフトウェアの規模が大きくなったため,RAM容量は最低32Mバイト以上が推奨スペックとなっている。

 むろん,実際にこのプラットフォーム上で開発を行ってみなければ,どこまで使える製品になるのかは分からない。しかし,従来から参入していたカシオ,コンパック,ヒューレット・パッカードに加え,東芝,NEC,ならびに富士通が,Pocket PC 2002に照準を当てて参入してきたことを考えれば,企業向けに大きく市場拡大を見込んでいると考えるのが妥当だ。

 「現在のPDA市場には,われわれのようなメーカーが魅力を感じる場所ではない」と話すNECソリューション執行役員常務の富田克一氏の言葉が印象的だ。「しかし,市場調査会社の予想を裏切る大化けを期待している。企業向けソリューションを提供すべく準備を進めている」(同氏)

 ただ,Pocket PC関連ベンダーが,蒔いた“種”の刈り取りを行えるのは,Pocket PC 2002 が作り出す市場ではなく,その先にある「.NET」プラットフォームで構築された環境だろう。果たして収穫期は本当に訪れるのか?

 簡単に予測はできないが,少なくともPocket PC 2002の市場に名を連ねたベンダーたちは,その時が来ると考えているようだ。

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[本田雅一, ITmedia]

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