News 2001年10月11日 06:22 PM 更新

Linux搭載の腕時計型コンピュータ「WatchPad」

日本IBMとシチズン時計が,Linuxを搭載した腕時計型コンピュータ「WatchPad 1.5」を開発した。OSにLinuxを採用している点や,Bluetoothによる通信機能,本人認証を行う指紋センサーなどが特徴となっている。

 日本IBMとシチズン時計は10月11日,Linuxを搭載した腕時計型のコンピュータの試作機「WatchPad 1.5」を開発したと発表した。IBMの研究開発部門であるIBMリサーチと,シチズン時計の技術開発部門の協業によるもの。OSにLinuxを採用している点や,Bluetoothによる通信機能,本人認証を行う指紋センサーなどが特徴となっている。


腕時計型のコンピュータ「WatchPad」

 IBMリサーチは,昨年10月のLinuxWorld(10月31日の記事参照)や,今年3月のCeBIT(3月24日の記事参照)などで,Linux搭載の腕時計型コンピュータを参考出展している。

 実は,この時のモデルが第1世代のWatchPadでバージョン“1”に当たるのだが,当時はWatchPadの名称は使われず「Linuxウオッチ」と呼ばれていた。理由は「この時の試作機はハンドメイドによるもので,世界に2つしかなかった」(日本IBM)ため。つまり,本当にプロトタイプだったので,あえてWatchPadの名称を使わなかったのだという。

 今回発表したWatchPadはバージョン“1.5”。第2世代ではないが,“1”よりは製品版に近いものに仕上がっている。

 ボディは直線を生かしたいわゆる“IBMっぽい”デザインとなっている。近未来的なイメージだが,少々無骨さが感じられるのも否めない。実はシチズン時計がデザインした別バージョンもあるということ。腕時計の専業メーカーが作るWatchPadもぜひ見てみたいものだ。シチズンデザインのモデルも,近日中に公開される予定だという。


直線を生かしたIBM風デザイン。大きさも含めて,女性が装着すると無骨感は否めない

 ボディサイズは,46(幅)×65(奥行き)×16(高さ)ミリで,重さは43グラム。「試作機なので決して触れないで下さい」と念を押されたので,実際に装着することはできなかったが,スペックで見ると,普通の腕時計と比べるとやや大きいものの,重さは腕時計としては軽い部類だ。メタル製の腕時計が150グラム前後であることを考えると,装着していて重さで疲れるということはなさそうだ。

 通信機能としてBluetoothモジュールを内蔵するほか,IrDAやRS-232C(クレードル経由)もサポートする。通信モジュールは本体上部とバンド部に埋め込まれている。Bluetoothのバージョンは1.1で,音声通信に対応している。


WatchPadの上部に各種通信モジュールを内蔵している

 これら通信機能を使って,プレゼンテーションのリモコン操作に使ったり,PCに近づくとイベントが始まるといった応用が可能となる。会場ではWatchPadでサーバを操作し,英文が翻訳サーバを経由して日本語に翻訳され,Bluetoothを介して腕時計にまで届けられるというデモンストレーションが行われた。


発表会のプレゼン操作は,WatchPadの通信機能を使って行われた

 WatchPad 1.5は,Linuxの最新カーネルとなるバージョン2.4を採用している。Linuxベースによる開発のメリットは「ライセンスフリーなのでローコストで搭載できる。また,世界中のトッププログラマがLinuxに携わっているので,最も信頼性が高くセキュアなOSだといえる」(日本IBM)。

 会場では,Linuxのブート画面を表示するデモが行われたが,ブート時の8×8ピクセルの文字になるとWatchPadの画面では小さすぎて判読が難しい。「実際の操作画面では,MicrowindowsによるGUIを使うのでもっと見やすくなる」(同社)。


Linuxのブート画面。8×8ピクセルの文字は,さすがに読めない

 今回発表されたWatchPadは,画面にタッチパネルを内蔵した反射型のモノクロ液晶を採用しており,解像度はQVGA(320×240ピクセル)となっている。昨年10月のLinuxWorldや今年3月のCeBITで出展されたものは,液晶に有機ELを使い,VGA(640×480ピクセル)の解像度を持っていた。

 液晶が変更されたことについて,日本IBM東京基礎研究所の上條昇氏は「昨年のLinuxウォッチは,展示会用に輝度や明るさを稼ぐために実験的に有機ELを使った。あれでは,バッテリがすぐに無くなってしまう。解像度の変更は,腕時計にVGAは過剰スペックということが分かったため」と語る。モノクロLCDへの変更など省電力設計によって,「稼働時間は約1日半と実用レベルに近づいた」(同氏)。


液晶はモノクロLCDを採用。省電力に貢献している

 32ビットのRISCプロセッサを採用しており,8MバイトDRAMと16MバイトのフラッシュROMを搭載する。プロセッサはIBMのPowerPCではなく,第1世代モデルと同じくARM系のプロセッサを使っているという。「将来的にはPowerPCの採用も検討している」(日本IBM)。

 入力はタッチパネルやボタンのほか,親指でコントロールできる時計のリューズを応用した入力装置を持つ。「時計のリューズ方式のメリットは,感覚的な操作ができるほかボタン方式に比べて防水性に優れている点がある」(シチズン時計)。

 また,腕の動きに反応する加速度センサーも装備している。発表会場では,WatchPadを上下に振ると,液晶に表示されたLinuxペンギンが手を振るというデモンストレーションが行われた。

 本体の下部には,指紋センサーを装備している。この部分に指を当てることで指紋による本人認証ができ,PCの所有者照合などに利用できる。


親指で感覚的な操作ができるリューズ。本体下部の指紋センサー

 気になるのは,製品化の見通しと価格だが,まだ研究段階ということで,価格や発売時期は未定とのコメントだった。だが,「コストは,WorkPadの最上位モデルと同じぐらいかかっている」(日本IBM)というから,材料費だけで5万円前後というところだろうか。


WatchPadの分解写真。腕時計の大きさに実にさまざまなパーツが組み込まれていることが分かる

 WatchPadの主な仕様は以下の通り。

製品名 WatchPad 1.5
サイズ 46(幅)×65(奥行き)×16(高さ)ミリ
重さ 43グラム(本体のみ)
CPU 32ビットRISCプロセッサ(ARM系18〜74MHz)
表示装置 モノクロLCD(320×240ピクセル)
メモリ DRAM(8Mバイト),フラッシュメモリ(16Mバイト)
入力機能 タッチパネル,リューズ・スイッチ,ボタン
通信機能 Bluetooth(Ver 1.1音声対応),IrDA(Ver1.2)RS-232C(クレードル経由)
電源 充電式リチウムイオン電池
駆動電圧 2.5〜3ボルト
稼働時間 約1.5日
その他 スピーカー,マイク,バイブレーター,指紋センサー,加速度センサー
OS Linux カーネル・Ver 2.4
GUI Microwindows
Bluetoothスタック IBM BlueDrekar

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[西坂真人, ITmedia]

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