News 2001年10月25日 07:35 PM 更新

トヨタ&ソニーのITカー「pod」を徹底解剖!(2)

 podは,センターコンソールにあるメインディスプレイでドライバーのテクニックを評価し,初級〜上級で判定する。例えば,急発進・急加速を繰り返し,“カックンブレーキ”を連発した場合は「初級」。反対に,スムーズな運転を心がけた場合には,拍手のアイコンが表示され上級者だと認められる。

 さらに運転手だけでなく,同乗者ともコミュニケーションが図れるように,各席に備え付けられている液晶ディスプレイにも,初級の場合は泣き顔のアイコンが,上級の場合には喜んだ顔のアイコンが表示される仕組みになっている。

 「一回免許を取ると,運転を習う機会がない。podみたいなクルマがあれば,常に運転技術向上を図れる」(トヨタ担当者)。


運転がヘタクソだと写真のように涙のアイコンが表示される。なお液晶ディスプレイは7型ワイドVGAで,光学式のタッチパネル機能を備える。このほか,音声認識機能やCCDカメラ,メモリースティックスロットも装備し,簡易PCといったところ

 彼女や家族とドライブに出かけて,初級などと評価されたら面子丸つぶれである。だが,いくら慎重に運転しても,podの目から逃れることはできない。

 なぜなら,podは,運転上達度を測るだけでなく,「あせり度」を計測する機能も備えているのだ。あせり度とは,運転時の脈拍や発汗データを基に,ドライバーがどれぐらい“てんぱっているか”を示すためのもの。日頃から脈拍や発汗に関するデータを蓄積しておき,その乖離度を調べるわけだ。

 では,運転の上手い(と思い込んでいる)ドライバーが,初級と判定され,あせり度もかなりのものだったら,どうするのだろうか。まずないだろうが,クレームをつけられるかもしれない。

 トヨタの担当者によれば,基準となるデータをインプットしたのは,「かなりの腕前のテストドライバー。かなり走り込んでデータを取った」とのこと。信頼性は抜群のようだ。

 誤解のないように説明すると,別にpodはドライバーを陥れようとしているわけではない。すべて,ドライバーに安全運転をしてもらうための気配りなのである。

衝撃その4:ミニpodの秘密

 ところで,podのキーになるミニpodだが,詳細を説明しよう。実は,これはただのキーではない。オーナーの趣味嗜好を記憶するというpodの成長システムを支える重要な役割を担っているのだ。

 例えば,自宅のPCで音楽を聴いたり,映像を観たりする。そのとき,ミニpodは裏側で曲名や映画の題名を記憶している。さらに,インターネットの検索ワードも覚えることができ,オーナーの嗜好を完全に把握するという。

 ミニpodは無線機能を備えているので,データを車内サーバに送信することができる。そして,運転中に「あせり度」が上がってきた場合には,お気に入りのリラックスソングを,自動的に再生してくれるのだ。当然,ここまで気が利くようになるには,相当使い込まなければならない。

 またミニpodをクレードルに装着して,PCに接続すると,ディスプレイには,運転が下手だと泣き出す例のアイコンが表示される。そう,あのアイコンは,ミニpodの中にいるエージェントを具現化したものだったのだ。

運転に文句をつける嫌なやつかと思ったら,ご主人様のためにせっせと働くエージェントだったのだ

 さらに,感情も持っている。PCに装着したままミニpod本体を叩いたりすると怒り顔になる。また,ミニpodはPCに繋がなくても,それ自体で感情を表現する。叩いたり突っついたりすると,激しく光を放って振動する。「生きているという感触を,ミニpodでは伝えたかった」(ソニー担当者)。

さて,実用化の見込みは?

 あるトヨタの担当者は,「ミニpodを社内で持ち歩いていると“なに玩具で遊んでいるんだ!”と怒られる」と漏らす。「ソニーとのコラボレーションによって,エンタテインメント分野についていろいろと学ぶことがあった。自動車産業がこのような状態のなか,新しい価値を生み出すことは重要なことだ」(同担当者)。

会場に集まった報道関係者に大きな衝撃を与えたpod

 なおトヨタによれば,podはあくまでコンセプトカーであり,このまま製品化されることはまずないという。ただ,この担当者は,「それぞれの機能を実現している要素技術は,実用化の域にある。ひとつひつを抽出して,製品に盛り込んでいく可能性は十分にある」と説明する。

 時代のかなり先を行くpod。未来の自動車といえば,ハイブリッドや燃料電池で動く低公害カーばかりが注目されるが,一服の清涼剤として,こんな和めるクルマがあってもいいではないか。

 高速道路で後ろからあおってくるクルマが,目をつり上げて起こった顔をしていれば,笑って道をゆずりたくなるというもの。クルマ同士が,電波で交信するようになれば,クラクションを鳴らした鳴らさないなとどいう,つまらないトラブルもなくなるだろう。

 機関車トーマスよろしく,なんとかこのままpodを製品化してもらいたいものだ。まずは原付でもいいから。

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[, 中村琢磨, ITmedia]