News:ウェストコースト通信 2001年11月6日 05:12 PM 更新

ウェストコースト通信:炭疽菌騒動がもたらしたIT生活の日常化

米国はテロへの警戒で相変わらず騒然とした状況だが,炭疽菌感染への不安から,郵便物からメールへのシフトが急速に進んでいる。IT導入がなかなか進まなかった層も,今回のことを契機にオンライン化を受け入れており,ITの日常化は一連の騒動の思わぬ副産物になっている。

 先日,今季初めてのまとまった雨が降った。いよいよ冬の到来を感じさせる。ここサンフランシスコは,夏には朝の霧以外は青い空ばかりが広がるが,11月から3月頃に掛けて雨の多い日が続く。

 サンフランシスコ市内からは,北に向かって太平洋沿いにゴールデンゲートブリッジが,そして東に向かってサンフランシスコ湾をまたぐようにベイブリッジが架かっている。ウェストコーストのシンボル的な存在として,日本人にもお馴染みの橋だ。10月29日に連邦政府が発したテロ攻撃再発の警告につづき,カリフォルニア州のDavis知事は,先日これら2つの橋も含めたカリフォルニアの橋が,テロリストの標的となっていると具体名を挙げて警告した。

 テロのターゲットとされた期間の初日に当たる11月2日朝のラッシュ時には,サンフランシスコ市内に向かう両橋の通行量は,ベイブリッジが8パーセント,ゴールデンゲートブリッジが6.5パーセント,それぞれ通常より減少した。橋を渡る代わりに,フェリーや地下鉄を利用する客が大幅に増加した。また一方で,ネットを使って自宅から仕事をする人も増えている。

 偶然ではあるが,デービス知事の警告を受けたこのベイブリッジのたもとに,筆者は住んでいる。前の通りは,橋の下を横切るためセキュリティ上の理由で一般車両は通行止め。そして目の前には大きな郵便局。炭疽菌騒動も広まる中,なんだか標的に囲まれているような暮らしだ。


ベイブリッジもテロの標的に?

 郵便局の集配トラックを見ていると,郵便物を扱う職員はマスクに手袋という出で立ちだ。いつもは,"United States Postal Service"のマークをつけたトラックだが,多くは脇を星条旗に塗り替えている。炭疽菌のテロにも屈しないぞ,という強い意思表示が感じられる。

 この炭疽菌の被害が次々と拡大する中,一般の郵便の減少に伴って,電子メールの利用が増えている。サンフランシスコに本社をおくCritical Pathの推計によると9月11日以来,25パーセントほど,電子メールの利用が増えていると言う(サンフランシスコ・クロニクル紙による)。

 もちろん炭疽菌の影響ばかりではないだろうが,この生物テロへの恐怖が郵便よりも電子メールという傾向に拍車を掛けていることは否めない。「Snail mailよりe-mail」という掛け声だ。Snail mailというのは,カタツムリのように遅いメールということで,電子メールに対して普通郵便のことを指す。ここ数年でごく一般的に使われるようになった言葉だ。

 炭疽菌騒動で,ダイレクトメール会社などは大きな影響を受けている。想像に難くないだろうが,どこから届いたのかわからないような,郵便物には皆警戒している。そのため,電子メールでのダイレクトメールに切り替えたり,場合によっては郵便でダイレクトメールを送る旨のお知らせを電子メールで送ってから郵便を送るなど知恵を絞らざるを得ない。

 その一方で,思わぬ効果を発揮している場合もある。これまで金融機関などは,コスト削減と効率化のために顧客をオフラインの世界からオンラインに誘導すべく努力してきたが,顧客向けの情報提供のためにまだまだオフラインの手段に頼らざるを得ないことが多かった。

 しかし,現在の郵便に対する人々の警戒心は,逆に顧客をオンラインに誘導する好機ともとれる。人々は,物理的に配達される郵便よりも電子的に届けられる情報の方が,今の状況では安心できるからだ。

 今回の一連のテロは,期せずしてITがもたらしたコミュニケーションの手段としての革命を,実践的に考える機会となっている。もちろん,このような機会がテロや戦争という形で,現実のものとして突きつけられるのは,愉快なことであろうはずはない。しかしながら,いずれの日にか歴史として今を振り返ったとき,IT革命が,一時の大変動という革命から人々の日常へと移行した重要な転換点ととらえられるのかもしれない。

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[小田康之, ITmedia]

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