News 2001年11月14日 11:50 PM 更新

ソニー・安藤国威社長が語る「反Microsoft連合」の真意

「現状ではMSやIntelとはPC分野以外で手を組みたくない」「Palmを買うほど,Palm OSに固執してはいない」――COMDEXで基調講演を行ったソニーの安藤社長はその後,記者懇談会に臨んだが,そこでも過激な発言がポンポンと飛び出した。

 COMDEX/Fall初日のキーノートスピーチを担当したソニー社長兼COOの安藤国威氏は,記者との懇談会の席上でPC中心に発展してきた企業とは異なる立場にあることを,あらためて強調した。

 ソニーはこれまでも,Microsoftやインテルが作ってきたPCの世界を「PCドメイン」と表現してきたが,これから始まるワイヤレスネットワーク技術を基盤とした新しいデジタルデバイスの世界では,PCはいくつものドメインの内のひとつでしかない。

 安藤氏は基調講演の中で,相互運用性を高めるために,グローバル企業との提携を行っていくと話した。AOL,ノキアとの提携は,その第一段階でしかない。ここで言う相互運用性とは何なのか?

 「ユーザーインターフェイスやワイヤレス,そしてネットワークのコネクティビティを高め,すべてのデジタルデバイスがシームレスに接続され,簡単に利用できなければならない。そのためにはワールドワイドでナンバーワンの企業と提携していく必要がある。日本でSo-netを使ってネットワーク化を行うだけでは,ワールドワイドで製品を展開していくことはできない。ノキアとは携帯電話端末では競合しているが,そうした一面だけを見てはいけない」

 そして提携の先にあるのが,ユビキタス バリュー ネットワークというわけだ。その理想を実現するための基盤作りを急ぐ背景には,PC中心に組み立てられたネットワークに対する強い不満があると思われる。

 「ハードウェアの開発はどんどん競争すべきだ。しかし,ネットワークとサービスに連携したデジタルデバイスの新しい利用形態を作り出していくためには,バックエンドのネットワークやミドルウェア開発で提携を進め,すべてがうまく繋がらなければならない。MicrosoftはPCのOSを持っているが,彼らはあくまでPCドメインの企業だ。ワールドワイドで,もっと広範な製品のプラットフォームは誰が牽引するのか。それはソニーしかないと思っている」

 ソニーの言うPCドメインの製品とユビキタス バリュー ネットワークに繋がる製品の違いは,ユーザーインターフェイスに関する考え方の違いとなって現れている。基調講演で披露した新感覚ユーザーインターフェイスのFEELコンセプトに,それが強く現れている。

 このFEELでは“近付く”“触れる”“腕を振る”といったジェスチャーで,ワイヤレス技術を使った情報の交換を行うことができる。何でもかんでも,高解像のディスプレイと高機能なボタン類で解決するPCとの違いは明白だ。

 「FEELに関しては,家電メーカーとして蓄積してきた既存の様々な技術を組み合わせることで作りあげようとしている。中でもワイヤレスネットワークのコネクティビティは,技術的にも難しい問題だ。近づいたり,触ったりすることでワイヤレス接続を行うことで,デバイス探索などで無駄に電力を消費する必要もない」

 「これまでPCドメインの中で,長く進化してきたアイコンによるGUIは,考え方としてもう古い。しかし,一方の家電に関しても,たくさんのリモコンが混在し,統一されておらず,信じられないぐらい使いにくい。これは,今まで閉じたボックスとして家電品を開発し,それぞれに良いものを追求してきたためだ。しかし,ネットワークですべてのデバイスが接続されるようになれば,そこに新しいユーザーインターフェイスが生まれる」

 そうした中,今後重要性が特に高まると考えられるのが,ハードディスクだという。

 「ハードディスクは,ほとんどすべての家電品に搭載されるようになるだろう。情報の蓄積をどのように行うのかは最重要課題だ。ネットワーク上でユニバーサルに利用できる家庭向けのストレージサーバも必要となる」

 FEELのデモンストレーションの中では,CLIEを媒介としてPC間の連携を行うものもあった。しかし,現在のPalm OS搭載機はエンターテイメントをうたうには,あまりにデバイスとしての能力が低い。いっそのこと,Palmを買ってしまえばいいのではないか?

 「Palmを買うほど,Palm OSに固執してはいない。ARMへの移行が1年半も遅れていることは問題だが,移行が行われれば能力は今の40倍にまで引き上げられる。MicrosoftのPocketPCは標準の機能が多すぎて,あまりにもファットなことが難点だ。また,ロイヤリティがあまりに高い。PC的になんでも詰め込んでしまえ的な発想は,こうしたデバイスになじまない」

 さらに安藤氏は続ける。

 「MicrosoftもOSとOfficeという黒字部門だけではなく,多くの事業に手を広げて赤字部門が増ている。特にXboxは苦労するのではないか。我々としてはMicrosoftがXboxを手がけることには大賛成だ」

 「ハードウェアメーカーがいかに苦労して製品を生みだしていくかを,MicrosoftやIntelは根本的な部分で理解していない。MicrosoftにはXboxでその難しさを思い知って欲しい。その結果,彼らが彼ら自身のビジネスモデルの問題に気付き,考え直すきっかけになればいいと思う。今のままでは,両社とPC以外の分野では手を組みたくない」

 「たとえばiPAQはどうだろうか?確かに最初は売れていたが,Microsoftの論理の元で利益を出すことは難しい。儲かっていなければ,ビジネスは失速する」

 ここまで言い切っられてしまうと,世間一般に言われる“Microsoftに背を向けるソニー”という構図をステレオタイプに想像してしまうが,安藤氏は異なる視点を持っているようだ。

 「Microsoftが失敗し,企業規模が小さくなってしまえばいい,などということは全く考えていない。我々は,Microsoftと互角の立場で,互いに好きなことが言い合えるいい関係にあると思う。Microsoftが弱くなることが望ましいのではなく,オープンで相互運用性の高いネットワークの技術基盤を作ることが重要というだけだ」

 「たとえば,.NETとMicrosoft Passportの世界に行かない方がいいというのは,我々の業界では共通の認識だと思っている。そした相互運用に関する重要な基盤を1社に明け渡し,その会社が独裁することがあってはならない」

 これまでネットワークは,PCだけのものだった。しかし,デジタルデバイスの能力が向上し,相互の接続性が向上してくれば,PCだけの論理で物事を進めることは好ましくない。ネットワークに接続されるデバイスは,それぞれ能力も,使われる場所も,使われる場面も,すべて異なるものばかりだ。それらに「中心」となるものはない。

 安藤氏は「お化けのようなプロセッサパワーを持つのはPCだけでいいが,だからといってPCが中心ではない。たとえばPCがそのパワーを使ってAIBOにメールの内容をしゃべらせてもいい」と話す。

 これをMicrosoftやインテルの視点で考えれば,PCこそがすべての情報を処理するコントロールセンターとなる。しかし,見方を変えればユーザーに接するのはAIBOであり,エンドユーザーから見ればAIBOに対して付加価値が見える。

 何が中心なのかが問題ではなく,それぞれが役割を果たし,相互に結びつくことが重要というわけだ。そのためには相互運用性が確保されいなければならず,業界は基盤技術の支配者を望んでいない。

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[本田雅一, ITmedia]

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