News:COMDEX総括 2001年11月17日 03:12 AM 更新

COMDEX総括:神の声は誰の耳に聞こえたのか?(1)

10数年に渡って業界を牽引してきたGates氏は,Tablet PCにコンピュータの未来を見た。ソニーの安藤氏が繰り広げたのは,それとはまったく異なる話だった。ワイヤレス,高速プロセッサ……。神の声を本当に聞き,正しく捉えていたのは,果たして誰だったのか。

 COMDEX/Fall 2001を3日目まで取材して日本へと帰る飛行機の中。熱心に日本語を勉強する初老の外国人男性と隣り合わせになった。20年前に一度勉強したという日本語のテキストを引っ張り出し「すっかり忘れているので再勉強しているが,社会人30年生の身には少々難しいね」と話す彼は,米国海兵隊准将で在沖海兵隊バトラー基地司令官という肩書きを持つ生粋の軍人だった。

 中東での緊張の中,賢明に日本語を勉強しているのは,現地の言葉でなければ分かり合えないことがあるからだと話す。東京に暮らす筆者が沖縄の基地問題に意見を出すことはできないが,中傷メール事件,放火事件などの渦中,6カ月前に赴任してから,対話の中で,自分自身の言葉で自らの立場を説明したいと話す姿勢は,真剣なものだと捉えることができた。

本当にTablet PCが次の技術革新なのか

 相手の声を聞き,自らの言葉で話しかける。当たり前のことだが,何事にも通ずるコミュニケーションの基本だ。しかし,Tablet PCにおいては,Bill Gates氏がユーザーとのコミュニケーションを大切にしていないように見えてしまう。

 ユーザビリティテストを重視した開発を行う同社のソフトウェア製品と同じように,Tablet PCに関しても「単なる技術者の自己満足」ではなく,ユーザーニーズと利用形態に即したコンセプトで作っているのではないのか? いや,そうならば現時点で登場するとは考えにくい。

 昨年のCOMDEX/Fallでお披露目され,今年さらに具体的な姿となって登場したTablet PCは,いよいよ来年登場する予定だ。COMDEX/Fallでは数多くのTablet PC試作機が登場し,Bill Gates氏もこれからの10年を担う新技術になると確信しているようだ。

 業界関係者の反応は様々だ。TransmetaのJim Chapman上級副社長は「今年のCOMDEXは,確かに規模の小さいものだったが,Bill Gates氏が強く推薦していたTablet PCが新しい技術革新を呼び起こすと思う。ワイヤレス,小型軽量,長時間バッテリ駆動といった要素は揃いつつある。モバイルの利用形態を考えた時,ペンが使えるメリットは大きい」と話し,Tablet PCの成功には疑いはないとしている。今回聞くことができた,唯一のポジティブな意見である。

 たいていの関係者は,Tablet PCの機能に興味を持ってはいる。また,Microsoftが強く推進しているのだから,そのうち良くなるだろうとも言う。しかし,それがエンドユーザーのニーズにマッチした製品であると積極的に発言する者はほとんどいない。

 おそらくゲイツ氏が頭の中に思い描いているTablet PCは,今回のCOMDEX/Fallでデモされたようなものではないのだろう。技術の進化はこの10年でノートPCを実用的なビジネスツールにまで引き上げた。

 これから生まれるTablet PCも,10年後には想像もできないほど進化した製品になっているに違いない。ただし,それがユーザーに望まれた製品だったらばの話だ。これは技術的優位性の話ではないのだから。

 しかし私はGates氏ほど頭が良くないせいか,どうしてもTablet PCの利用形態というものが思い浮かばない。確かにWindows XP Tablet Editionには,これまでのペンコンピュータにはない便利な機能が満載されている。技術的には面白いと思うのだが,Tablet PCが今の半分以下の重さになって,速度や文字認識精度も向上し,バッテリも1日中充電しなくていいぐらいに長持ちしたとしても,あまり魅力的には感じないだろう。

 おそらくその頃には,それだけの技術を投入した新世代のノートPCを使いたいと思う。もちろん重量もコストもアドオンされないならば,の話だが。

 もっとも,こんなことを書いていると,数年後に検索エンジンで探されて「コイツは先の見えない馬鹿だったね」と言われているかもしれない。今までGates氏のビジョンは業界を引っ張ってきた。今回も牽引役になるに違いない。

 Gates氏のことだ,きっと多くのユーザーリサーチを元に次世代のプラットフォームについて研究しているに違いない。私は先の見えない愚か者といったところだろう。しかし,そう言われるとしても,現時点においては賛同できるところがないのも事実である。

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