News 2002年1月9日 11:59 PM 更新

Microsoftの「Mira」とは,一体何か?

CESの基調講演でBill Gates氏が紹介した新しいディスプレイのコンセプトモデル「Mira」。だが,その実体が今ひとつよくわからない。答えを求めてMicrosoftのブースやプレスルームを訪ねてみたのだが……。

 「Consumer Electronics Show(CES)2002」の基調講演で,チーフソフトウェアアーキテクトのBill Gates氏が紹介した,新しいディスプレイのコンセプトモデル「Mira」と,メディアファイルにアクセスするためのユーザーインターフェイス「Freestyle」を求め,Microsoftのブースとプレスルームを訪れてみた。

 しかし,Freestyleのデモを目にすることはできても,Miraの実体を見つけることはできない。いったいMiraとは何なのか? その実体は,どうやらWindows CEベースで動作するターミナルクライアントのようだ。

「FreestyleとMiraは無関係」とFreestyle担当者

 MicrosoftのブースでFreestyleを見つけるのは簡単だ。特徴的なフルスクリーンのシンプルなユーザーインターフェイスで,ほぼ事前情報通りの機能を駆使して,様々なメディアを扱うことができる。ユーザーは写真,音楽,動画などのメディアデータを,現在のWindows XPよりも簡単に扱い,そしてネットワークの中で共有することができるのだ。

 見た目のデザインもこなれており,良くできた家電製品のような見せ方をしている。

 前日にあったGates氏の基調講演では,FreestyleはPCではなくテレビ画面やMiraの上で利用されていた。だが,テレビで見られることや,Miraの上で利用できることといった,実際に操作するハードウェアの部分は,Freestyleとは全く関係がない,と担当者は話す。

 では,Microsoftの提供する様々なマルチメディアを扱う製品のユーザーインターフェイスを「Freestyleに収斂させようとしているのか?」と問うてみると,これも答えは「No」だという。

 ずっと先の将来のことはわからないとしながら「Freestyleは,強力なプロセッサと大容量のメモリ,ハードディスクを搭載するWindows XPマシンのために作られたソフトウェアであり,このユーザーインターフェイスがMicrosoftの他プラットフォームで採用されるわけではない」との話だった。


Windows XP上で動作しているFreestyle。通常はフルスクリーンで利用する。他のプラットフォームでこのUIが利用できるわけではない

 つまり(Gates氏かどのようにプレゼンテーションしたかは別にして),担当者レベルではあくまでWindows XPの機能を拡張するモジュールでしかないというわけだ。リリース時期などは未定だが,将来はWindows XP用にダウンロードモジュールとして提供されるだろうとしている。

 また,Microsoftの担当者はFreestyleとMiraは別々の部署で,別々のコンセプトから生まれたものだとも付け加えた。Freestyleは見た目が家電ライクなGUIだが,機能的にはWindows XPの拡張されたシェルが持つ,音楽ファイルの属性管理やジャケット写真の機能などを統合し,現行のWindows XPではAPIしか存在しないテレビチューナやビデオエンコーダなどのハードウェア活用などを統合したものなのだ。つまり,あくまで「PCだけの世界」のものなのである。

Miraの本質は何か?

 では,Miraの本質とは何か?

 Microsoftブース内でMiraの展示について聞いても,「eHOMEのコンセプトを展示しているスペースにある」と言われ,行ってみると「いや,Windows CE.NETのコーナーだ」といった具合。ほとんどたらい回し状態だった。インフォメーション受付では「よくわからないのでMicrosoftのプレス向けスペースに行ってくれ」という答え?が返ってきたが,そのプレスルームには資料しか存在しなかった。

 Gates氏は昨日の講演で「これはキーボードの前に座っていなくてもPCを使えるようにするデバイス。どこからでもリモートでWindowsにアクセスできる」と話していた。だが,画面に映されていたのはFreestyleのユーザーインターフェイスだけだった。コンセプトを示したムービーではWindows XPらしきものが動作していたが,Tablet PCのような複雑なデバイスではない。

 Gates氏は,これがTermminal Serviceを利用したものだとは講演の中で話さなかったが,結局のところ,事前情報でMiraを紹介した記事が,もっともMiraの本質を表していたことになる(1月7日の記事参照)。Miraとは,Termminal Service機能を持つタブレット型デバイス以外の何ものでもない。

 会場にもプレスルームにも,テクノロジーの詳細について語ってくれる担当者がいなかったため,プレスリリースの内容から推測するしかないが,通常のTermminal ServiceやWindows XPのリモートデスクトップ機能と異なる点は,ユーザーがシームレスにWindows XPマシンとMiraの間を行き来できることだろう。だが,この小さな違いはユーザー体験の大きな違いへとつながる。

 ユーザーが普段利用しているWindows XPマシンのディスプレイ(Mira)を取り外すと,その場でワイヤレスLANを通じて自動的にWindows XPへとリモートデスクトップで接続される。そして,そのままWindows XPの機能(おそらくは将来のFreestyle)を用いて写真や音楽を楽しんだり,Windows XPのUniversal Plug and Playを通じて家庭内のデバイスのリモコンにしたりすることができる。

 もちろん,無線LANの帯域が広くなれば,手元のMiraでPCに内蔵されたテレビ機能を利用することもできるだろう。現在,Terminal Serviceの技術にはビデオ転送を行うためのプロトコルがないが,これを追加し無線LANが高速化することで,ビデオ映像の転送も不可能ではない。

 また,Freestyleの担当者が,開発の過程でMiraとは全く無関係と話していたように,Microsoftが今後開発するeHOME関連のWindows向け機能は,(たとえMiraを意識したものでなくとも)すべてMira上で利用可能になる。

 Miraの本質はビジネス向けステーショナリグッズとしてPCを利用するTablet PCとは全く異なるが,家庭内の無線LANが届く範囲内で,PC機能にワイヤレスの自由を与えるという点では同じだ。

Miraは取り外し可能なディスプレイだけのものではない?

 Gates氏は昨日の講演で,プロセッサがあらゆる場所に入り込むようになると話した。その答えのひとつがMiraであり,ディスプレイにインテリジェント性を持たせることで,Windows XPに新しい付加価値を作り出し,ユーザーはWindowsの機能を家庭内のどこでも利用可能になる。

 家庭内に強力なWindows XPマシンがひとつあれば,その機能を様々な場所で,様々なユーザーが利用できる。家庭内ネットワークの中でのPCの価値を高めることで自社が提供するプラットフォーム(Windows)の価値をも高めることができるだろう。

 ただ,Miraの本質をPCのパワーを利用する機会を増やすデバイスとして捉えるなら,今後は同様のコンセプトで多くのコンセプトモデルが登場する可能性がある。たとえば,HDTVの中にMiraと同じ機能を組み込めば,リビングのテレビでWindowsの機能を利用可能になる。またキッチンの中にPCを置かなくとも,どこかにディスプレイさえ置いておくだけでいい。


キッチンでのデモ。上部にあるディスプレイはiceboxというキッチン向けCEデバイス。TerminalでWindowsとつながれば,手元のPCもいらなくなる。デモでは冷蔵庫を開けっ放しにしていると,.NETアラート経由で警告メッセージを受け取ることもできる

 それぞれ利用のスタイルが異なるため,細かい機能のカスタマイズは必要になるだろう。だが,Miraの技術的なスキームは,そのまま家庭内の様々な場所に応用可能だ。デバイスのコストが十分に低くなれば,それは決して非現実的な話ではない。

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[本田雅一, ITmedia]

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