News 2002年1月25日 11:20 PM 更新

次世代通信データは成層圏から降ってくる?――高高度飛行体のシンポジウムが開催

成層圏を浮遊することができる“高高度飛行体”に関するシンポジウムが開催された。今夏,日本でも高高度飛行体を使った成層圏通信システムの実証実験がスタートし,IMT-2000やデジタル放送,ブロードバンド通信の中継実験が行われるという。

 青空の下,ノートPCを開いてインターネット上の動画コンテンツを楽しむ。ただし,そこはアクセスポイントなどあるはずもない,携帯電話も圏外の田舎の野原だ。ふと見上げると,はるか上空に飛行船がプカリプカリと浮かんでいる――。

 これは,気象条件が安定している“成層圏”に通信機材/観測センサを搭載した無人の飛行船やソーラープレーンを滞空させ,通信・放送サービスの中継局や観測・監視システムなどに利用するという「成層圏プラットフォーム構想」が実現したときの1シーンだ。

 成層圏(上空20キロ付近)を浮遊することができる“高高度飛行体”に関する最新の研究内容や課題や利用法を話し合うシンポジウムが,1月25日にハイパーメディアコンソーシアムの主催で行われた。

 高高度飛行体については,昨年11月にハイパーメディアコンソーシアムが開催した研究会でその詳細が語られている(2001年11月13日の記事を参照)。

 成層圏付近に滞空できる高高度飛行体としては,現在のところ「飛行船」「ソーラープレーン」「ジェット機」の3種類が考えられている。この中で,現時点ですでに成層圏の無人飛行に成功しているのはソーラープレーン型だ。

 米国AeroVironment社が開発を進めている高高度飛行体「Helios」は,昨年8月13日の飛行試験で地上9万6500フィート(約30キロメートル)の飛行を成功させている。


高度30キロメートルの成層圏無人飛行に成功したHelios

 シンポジウムでは,AeroVironment社アジア・太平洋地区部長のMatthew.Kobayashi氏から高高度飛行体Heliosの最新状況が紹介された。

 「昨年のテロ事件後に高高度飛行体が注目を浴びるようになり,災害時のモニタリング,軍事利用,軍隊の配備状況のモニタリングなどに使えないかといった公共性の高い問い合わせが増えている」と語るKobayashi氏。現在,Heliosプロジェクトでは,軽量で長時間利用が可能な再生型燃料電池の開発を行っているという。2003年までは再生型燃料電池の搭載に力を注ぎ,2003年の夏には4日間昼夜連続滞空飛行を目指している。

 Heliosは,NASAからの技術援助も受けている国家プロジェクト。開発予算として1994〜2000年に8400万ドルの援助を受けている。また2001〜2003年には,新たに3300万ドルの予算提供を受けることも決定している。ただし,NASAからの予算だけでは足りずにAeroVironment社が使った開発予算の累計は3500万ドルに及んでいるという。

 「今後は,日米政府同士の協力が必要。政府や関連団体と連携して,2005年までには実用化していきたい」(Kobayashi氏)。

 このAeroVironment社の協力を得て,日本での成層圏通信システムの実証実験が今年の夏に行われる。

 通信総合研究所(CRL)横須賀無線通信研究センターの三浦龍氏によると,今年5〜6月にHeliosの前身となった高高度飛行体「Pathfinder Plus」を使って,ハワイのカウアイ島上空で高度20キロメートルの成層圏に滞空しながらの通信実験を行い,その後7〜9月にかけて国内でジェット機やヘリコプターを使った実証実験を実施するという。

 Pathfinder Plusを使った成層圏滞空飛行では,IMT-2000(2GHz帯)やデジタル放送(UHF帯)の中継実験を行い,ヘリコプターを使った高度3〜4キロメートルの滞空飛行では,Ka帯(31/21GHz)およびミリ波帯(47/44GHz)を使ったブロードバンド通信の実証実験を行う。


今年夏に行われる成層圏プラットフォームを利用した通信システムの実証実験

 日本では10数年前より成層圏プラットフォームの研究が行われていたが,当初から日本での高高度飛行体のプラットフォームとしては,飛行船が候補となっていた。飛行船はソーラープレーンに比べて多くの機材を積載することができ,中継局として重要となる定点滞空精度も良いのが特徴だ。計画では,全長250メートルとタイタニック号よりも大きな飛行船が使われるという。

 「成層圏環境との親和性を考えると,将来的には飛行船形式が最も有望。しかし現実には成層圏に到達した飛行船はいまだに登場していない。ソーラープレーンのような代替プラットフォームでとにかく事前実証実験を行い,世界初の成層圏中継実験に成功することで成層圏プラットフォームの有効性を国内・海外に実証するのが目的」(三浦氏)。


各国でも飛行船の研究が盛んだが全てCG。成層圏に到達した飛行船は登場していない

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[西坂真人, ITmedia]

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