News 2002年2月9日 00:38 AM 更新

ファイル交換ソフト“狂騒曲”(1)

ファイル交換ソフト「ファイルローグ」がサービスを発表するやいなや,音楽業界が過敏とも言える反応を見せた。コンテンツ流通量は「WinMX」の足下にも及ばないが,このファイル交換ソフトの登場により,音楽業界のファイル交換ソフト対策は一気に加速し始めた。

 先月29日,音楽業界はファイル交換ソフト「ファイルローグ」を提供する日本MMOを相手取り,違法なMP3ファイルの交換を中止するよう東京地裁に仮処分命令の申請を行った。「ファイル交換ソフトに国内初の司法判断が下る」──翌日の新聞にはそんな見出しが踊ったのは,記憶に新しい。

 ところが,その後になって,ファイル交換ソフトを提供する日本MMOの法的責任について,メディアであまり論じられることはなかった。どちらかというと,“論じる必要すらない”といった雰囲気で,「なぜ,このタイミングで日本でNapster型のサービスをやるのか?」「調査不足ではないか?」という疑問の声も聞こえてくる。

 その理由は,もちろん,米Napsterの判例があるからだ。オランダでも裁判所がファイル交換ソフト提供のKazaに対し,著作権侵害の楽曲データの交換を中止するよう命令を下した。つまり,ファイル交換ソフトの提供者が法的責任を追及されるというのは,世界的な流れとなっている。

 それでも,「日本では判例がないじゃないか」と反論があるかもしれないが,日本は著作権保護に関しては先進国の部類に入るのだ。

 例えば,ファイル交換ソフト「WinMX」のユーザーが逮捕された際に広く知られるようになった「送信可能化権」。これを侵害,つまり無許諾で著作権侵害のファイルをアップロードすると違法になる。先進国で同権利を定めたのは日本が初。また,文化庁著作権課長の岡本薫氏は,「米国でNapster合法性論争を招いたのは,送信可能化権を定めていなかったから」と指摘する(アップロードだけでは違法だとする法律がないのだから当然のことだ)。

 さらに,2000年の著作権法改正では,インターネットを利用した著作権侵害行為対策として,「原告が損害額を詳細に計算できない場合に,裁判所が具体的事情を考慮して額の認定を行える」という制度を導入した。ファイル交換ソフトなどで大量に楽曲がやり取りされた場合,被害額の計算は非常に困難になる。そこで,原告は「違法行為が行われている」ということを立証しさえすればいいと定めたのだ。「非常に重要な改正だった」(岡本氏)というほどの効果を持つ。

 これらの話は,全て,ファイル交換ソフトを使って違法行為を行ったユーザーに関する話であって,サービス事業者の責任を直接的に問うものではない。ただ,日本が著作権法に関して先進的(もちろん,革新的という意味ではない)である以上,米国と同様の判断が下されるという意見も,説得力を持つ。

音楽CDの売り上げが減った?

 ファイルローグという,ネイティブで日本語に対応したファイル交換ソフトの登場に関して,音楽業界は過剰に反応した。Napsterの脅威を目の当たりにしただけに,国内での普及を未然に防ぎたいという思いが強かったのか,とにかく音楽業界は“ファイルローグ潰し”に躍起になっている(もちろん,日本MMOの松田道人社長が日経産業新聞で音楽業界を挑発したことも大いに関係していると思われるが)。

 何しろ,サービスを開始する前から,日本MMOにサービス内容を見直すよう内容証明を送りつけるほど。これは,ファイル交換ソフトそのものが,違法ソフトだと見なしているようなものだ。事実,社団法人レコード協会の富塚勇会長はファイルローグをして「違法性を前提にしたサービス」と断言している。WinMXユーザーが逮捕された後でも,「ファイル交換ソフト自体は違法ではなく,ファイルローグはまだ調査するほどの規模ではない」と静観を決め込んだコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)とは対照的だった。

 ただ,著作権者・著作隣接権者の既得権益を保護するという大義名分を掲げる音楽業界だが,勢い余ったか,その主張にはちょっと“?”な部分も見受けられる。

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