News 2002年2月27日 10:09 PM 更新

テラバイトHDDからWatchPadまで――先進技術も楽しい「IBMフォーラム 2002」

日本IBMが27日から3月1日まで開催している「IBMフォーラム 2002」では,テラバイトHDDを可能にするストレージ技術や最先端の半導体技術,腕時計型コンピュータ「WatchPad」など,同社の先進テクノロジーが紹介されている。

 日本アイ・ビー・エムが2月27日から3月1日の3日間で開催している「IBMフォーラム 2002」。次世代のe-ビジネスソリューションが多数展示されている会場の一角では,同社の半導体/実装/ストレージ/ディスプレイなどの生産技術やモバイル,Web分野での先進テクノロジーが紹介されている。


「IBMフォーラム 2002」

パンチカードが復活?テラバイトHDDを可能にする「Millipede」

 会場でまず目を引いたのは,ストレージ技術を紹介するコーナー。次世代の記録方式として「Millipede」が紹介されていた。「磁気を使った現在の記録方式とは全く違う」(同社)というその仕組みは,極小の針のようなセンサーアームでシリコン上に生成されたポリマーの穴で「0」「1」のデータを読み書きするという,大昔にコンピュータの情報記録に使われていた“パンチカード”が再来したようなシステムだ。研究開発は,IBMのチューリッヒ研究所が行っている。


パンチカードのように,穴でデータを読み書きするMillipede

 Millipedeの仕組みはこうだ。先端温度を500〜700度に熱した針でポリマーに40ナノメートルほどの穴を開けることで書き込みを行う。一方,読み出しは,穴の開かない程度に針の先端を熱すると穴のところで電気抵抗値が変化,それを針の先端にあるセンサーで検出するのだ。

 磁気を使った従来の記録方式では,高密度化による「熱ゆらぎ」問題などから100Gビット/平方インチが記録密度の限界と言われていた。現在,HDDの記録密度は同社の2.5インチタイプで34Gビット/平方インチとなっている。

 それがMillipedeでは,現在の20倍以上の記録密度となる800Gビット/平方インチまで理論上可能となるという。「実際には,回転式で複数枚構造という現在のHDDのメカニズムがそのまま応用できるかどうか分からないが,この記録密度でHDDを作ると,2.5インチで800G〜1テラバイトという大容量が可能という計算になる」(同社)。

 ただし,弱点もある。HDDは容量とともにデータ転送速度も重要となるが,メカニカルなシステムのMillipedeは,書き込みで100Kビット/秒,読み出しで数Mビット/秒と現在のHDDにも及ばないデータ転送速度となってしまうのだ。

 しかしMillipedeでは,複数のヘッド(針)で同時に読み書きするマルチアレイ方式で,転送速度の遅さをカバーしていくという。「現在は,32×32の針を置いたシステムでのテストが行われている」(同社)。


複数のヘッド(針)で同時に読み書きすることで転送速度の遅さをカバー

 ナノレベルの微細な位置決めが可能なシステムの開発や,コスト,メディア素材の問題など,克服しなければならない課題はたくさんあるが,「いずれにしても2005年をめどに製品化をめざしている」(同社)という“本気”のテクノロジーだ。

 Millipedeの隣では,同社の最先端半導体テクノロジーが紹介されていた。

 抵抗値は低いもののシリコンとの相性が悪いため半導体には不向きとされていた「銅」の配線に成功した「銅配線技術」を始め,SOI(Sillicon on insulator)やLow-K(低誘電率絶縁体),シリコン・ゲルマニウムといった材料の革新によって高速化や省電力化を実現してきた同社。会場では,それら革新的な材料を使ったウェハーが展示され,さらに「ストレイド・シリコン」や「ダブル・ゲート・トランジスタ」といった次世代技術の紹介も行われていた。

 「2テラHzの動作が可能となるダブル・ゲート・トランジスタは5〜10年後に可能となる技術だが,ストレイド・シリコンは来年の後半には登場する」(同社)。


銅配線やSOI,シリコン・ゲルマニウムなど革新的な材料を使ったウェハーが展示

WatchPad,IBMは後方支援?

 最近は同社テクノロジーの代表格として各種展示会には必ず登場する<Linux搭載の腕時計型コンピュータ「WatchPad」も,来場者の注目を集めていた。


来場者の注目を集めるWatchPad

 会場では,Bluetooth通信機能と加速度センサーを使って,WatchPadを装着した腕を振る動作でパワーポイントの画像が切り替わっていくというデモンストレーションや,内蔵の指紋センサーを使った個人認証システムの紹介が行われていた。


WatchPad内蔵の指紋センサーを使った個人認証システム

 このWatchPadは,同社とシチズン時計との協業によって開発されているが,製品化の予定はあるのだろうか。同社に尋ねたところ「シチズン時計では製品化を検討しているようだが,IBMでは今のところ製品としてリリースする予定はない。当社は,シチズンがリリースするWatchPadにさまざまなソリューションを提供していく」との答えが返ってきた。つまり,直線を生かした“いかにもIBMっぽい”デザインのWatchPadは,市場には登場しない可能性が高いのだ。少し残念。

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[西坂真人, ITmedia]

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