News 2002年2月28日 11:23 PM 更新

残るのはブランドだけか?──ソニーがアイワを完全子会社化

ソニーが経営再建中のアイワを完全子会社化する。子会社化された後も,アイワはリストラを継続し,“ブランド”以外には何も残らないほどに,その身を削るようだ。ソニーの安藤社長は将来的に「吸収合併も視野にないわけではない」と話す。

 既報の通り,ソニーが経営再建中のアイワを株式交換により完全子会社化すると発表した。


ソニーの安藤社長(右)とアイワの森本社長(左)

 子会社後もアイワブランドは継続するものの,「さらに痛みを伴う改革を断行」(アイワ森本昌義社長)する計画で,実質的に,ソニーの一事業部門程度の規模になる見込み。さらに,ソニーの安藤国威社長は,「当面はアイワブランドの再構築,ならびにソニーブランドとの統合を進めるが,(将来的には)吸収合併も視野に入れていないわけではない」と話す。

残るのはブランドだけ

 アイワの筆頭株主であるソニーは,2001年1月に同社執行役員だった森本氏をアイワ新社長として送り込み,アイワの経営再建を支援してきた。同社長は,固定費用の圧縮や不採算商品群の削減などのリストラ策を講じ,アイワの独立経営維持を目指してきたが,「市場環境の悪化,ならびにメガディーラーと手を組んで攻勢をかけてくる韓国,中国メーカーとの競争により,損失が予想以上に拡大した」(森本社長)。

 このため,自己資本が100億円を割り込むまでに毀損。再建費用として融資を申し入れていた銀行からも「非常に厳しい条件」(森本社長)しか示されなかった。リストラを実行しようにも,「使える資金がほとんどなかった」(同)という。

 ただ,独自経営の道を諦めたのは,資金的な問題だけが原因ではない。森本社長はアイワのエンジニアについて,「デジタルやネットワーク関連の製品が開発できるエンジニアが,両手の数ほどもいない」と嘆く。「仮に,この危機を乗り越えたとしても,今後,価値ある製品を作り続けていくことは困難だと判断した」(同社長)。

 今後アイワは,安藤社長の「もっとスリムに」という要求通り,200億〜300億円を投じて徹底した経営の効率化を進める。具体的には,1200名の社員を3分の2以下に削減し,連結固定費を3分の1程度に圧縮する。また,販売/生産については,ソニーのサプライチェーンマネジメントシステム「EMSC」に乗り換えるほか,間接部門はソニーにアウトソースすることになる。

 さらに,アイワの最後の砦とも言える開発/設計部門についても「ソニーとのバランスによって減らしていく」(森本社長)と,厳しくメスを入れる方針だ。まさに聖域なき構造改革である。ここまでやれば,アイワに残るのは,もはやブランド名だけと言ってもいいかもしれない。

「アイワブランドをブランド再構築の引き金に」

 もっとも,ソニーにしてみればアイワブランドさえあれば問題はない。安藤社長が「アイワブランドの取込みを引き金に,ソニー全体のブランドを再構築する」と話すように,ソニーがアイワに期待するのは,そのブランド力である。アイワブランドを手に入れることで,ソニーブランドでは従来は手を出せなかった低価格路線の製品を投入し,勢いにのある韓国や中国メーカーに対抗していく考えである。

 さらに安藤社長はアイワ製品が中南米で強いことを挙げ,「ソニー製品は全世界規模で開発を行っており,特定地域向けにピンポイントで製品を投入するのは難しい。アイワブランドならそれができる」(安藤社長)と,アイワブランド取込みのメリットを説明する。

 

 また,ソニーブランド全体の再構築について,ソニーの出井伸之会長兼CEO(最高経営責任者)は,「アイワブランドがあることで,横のブランド展開が可能になる」と話す。「トヨタのレクサスみたいなもの」(同会長)。

 ソニーとアイワが資本関係を持ったのは1969年のこと。製品ラインアップが重複していてもAV業界が右肩上がりで成長している時は問題なかった。しかし「この10年,AV業界はほとんど成長していない」(森本社長)状況では,ソニーとアイワが競合しても,切磋琢磨どころか,むしろ,デメリットのほうが目立つようになってしまった。

 アイワとソニーの歴史を,出井社長はこう振り返った。

 「ソニー社内に,BEAT AIWAプロジェクトなどというものがあった時代もあるほど,ソニーとアイワは競合関係にあった。実際, 2社をあわせるとAV機器ではかなり高いシェアを持っていた。アイワに問題があっても,子会社化することは市場の独占につながるのではとも考えた。だが,それは思い上がりだったのかもしれない」(出井会長)。

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[中村琢磨,ITmedia]

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