News 2002年3月7日 10:51 PM 更新

新しい画像記録規格「Exif 2.2」とエプソンの「PIM II」――その関係は?

新しい画像記録規格「Exif 2.2」が,2月20日に行われた電子情報技術産業協会において審議が完了し,業界標準に向けて始動した。その矢先となる3月6日,セイコーエプソンが独自の画像記録技術「PRINT Image Matching」の機能強化版を発表したことが,業界にちょっとした波紋を投じている。

 3月6日にセイコーエプソンが発表した独自の画像記録技術「PRINT Image Matching(PIM)」の機能強化版「PIM II」が,業界にちょっとした波紋を投じている。(3月6日の記事を参照)

 というのも,PIM II発表のわずか2週間前となる2月20日に,電子情報技術産業協会(JEITA)において,新しい画像記録規格「Exif 2.2」のJEITA規格としての審議が完了したばかりだったからだ。

 現在,ほとんどのデジタルカメラは,JEITAの前身となる日本電子工業振興協会(JEIDA)が提案して国際標準規格となった「Exif 2.1」というフォーマットを利用している。Exif 2.1では,画像以外に撮影日時やシャッタースピード,絞りといった撮影情報を付加することができる。この撮影情報を利用して,さらに画像印刷時のクオリティ向上が簡単にできるようにしたのが,今回のExif 2.2だ。

 Exif 2.2に対応したデジタルカメラで撮影した画像には,撮影条件や撮影シーンといった情報が共通の項目で記録される。このデータを,Exif Print対応ソフトなどを介してプリンタに伝えることで,デジタルカメラのメーカーを問わず,撮影時の状況により忠実な,撮影者のイメージ通りの印刷が行えるというわけだ。

 この新規格は,昨年夏より日本写真機工業会(JCIA)が中心となって技術検討が進められていた。技術審議には,国内メーカーを中心に23社が参加しており,事実上の業界標準となるものとみられている。JEITAおよびJCIAでは,このExif 2.2に「Exif Print」という愛称をつけ,ユーザーへの普及促進を図る方針だ。


Exif 2.2の愛称は「Exif Print」

 一方,エプソンが提唱するPIMは,Exifの属性タグ(メーカーノート)を利用して,画像データに“どのように印刷してほしいか”という情報を付加する。この画像データを,対応ソフトと対応プリンタの組み合わせで出力すると,埋め込まれたタグの指示に従って画像を最適化しながら印刷するわけだ。

 今回発表された機能強化版のPIM IIでは,Exif内のメーカーノートを利用することなく設定が可能となっており,さらに従来のPIMにはなかった「ノイズ除去機能」や「撮影シーンカスタム設定」といった設定項目を追加。「デジカメ画像情報をより綿密に反映できる」(同社)ようになった。

似ているようで違う「Exif 2.2とPIMの思想」

 このように,Exif 2.2とPIMのコンセプトは“一見”非常に似通っている。そしてExif 2.2の方は,デジカメの画像記録規格として標準化されようとしている矢先だった。それだけに,PIM新バージョンとExif2.2がどのような関係にあるのか,ユーザーとしては大いに気になるところだ。

 この件についてJCIAに尋ねたところ,Exif 2.2規格策定の中心メンバーであるJCIA技術担当部長の大川元一氏は「Exif 2.2とPIMの思想は根本的に違うもの」と説明する。

 Exif 2.2とPIMの最大の相違点は,前者がオープンな規格であるのに対して,後者はエプソン製プリンタを前提としていることだ。デジカメメーカーに対してはオープンな姿勢をとるPIMだが,プリンタメーカーにはクローズドな規格。「PhotoshopがPIMをサポートしたことで,他メーカーのプリンタでも印字可能になっている」(エプソン)とはいうものの,基本的にはエプソン製プリンタ向けのフォーマット規格である。

 「プリンタの性能を十分に発揮するために,デジカメ側のコマンド体系を充実させてほしいという要求からPIMが生まれたという思想は正しかったが,撮影情報を,誰もが使えるようなオープンなタグに書き込むのではなく,“メーカーノート”の部分に入れてしまったという点で,標準規格にはなりえなかった」(大川氏)。

 メーカーノートは,デジカメメーカーが自社機器の記録のために使うプライベートな情報記録エリア。これをPIMでは拡大解釈し,プリンタへの制御コマンドをメーカーノートに入れ,コマンドのやり取りを行っている。

 「デジカメ側からいろんなコマンドを与えるのだが,例えばA社のデジカメだったらA社の言語で記述してあり,B社ならB社固有の言語で記述される。つまり,100社あったら,100社の言葉をそれぞれ理解して対応しますというのがPIMの発想。この方法だと,オープンスタンダードな規格になりえない」(大川氏)。

 新バージョンのPIM IIではこの点が見直され,Exif内のメーカーノートを利用することなくコマンド設定ができるように改善されていることからも,メーカーノートを利用したこと自体やや無理があったことは否めない。

 このようなExif 2.2とPIMの相違点についてエプソン側は「Exif規格は,あくまでカメラとしての規格。そのため,Exif情報になりうるのは,カメラの撮影情報にとどまる。PIMのようなプリンタを直接制御する情報は,Exif情報に馴染みにくかったものと考える」との見解を示している。

 Exif 2.2では,デジカメが保有するあらゆる情報を,できるだけ多く,それも業界標準の言語として保存しておくという発想で仕様が策定されている。「標準の言語でストアしておけば,プリンタだろうがラボ機器だろうが,言語を解釈する機能さえ持っていれば,撮影情報を出力機器側で自由に使うことができる」(大川氏)。

 JCIAでは,Exif 2.2に盛り込む撮影情報の仕様を,デジカメメーカーを対象にホームページ上で公募。それをたたき台にして23社の技術審議メンバーがフォーマットを策定してきた。この23社にはエプソンも名を連ねている。

 大川氏は個人的な意見として「技術審議部会では,とにかくいい画像を作るのに本当に必要な撮影情報はなにかを追求してきた。エプソンも“PIMよりいいものができればそれに変えます”といっていただけに,PIM IIの発表は“寝耳に水”」と驚きを隠せない様子だ。(なお,エプソン側は「“PIMよりいいものができればそれに変える”といった」とする大川氏のコメントに対して「そんなことを言ったことはない」と否定している)。

 今回の件に対してエプソン側は「デジタルカメラとプリンタ間で情報伝達をすることで,連携を強め,よりよいプリントを得るというPIMの理念がきっかけとなり,Exif2.2が制定された。また2001年3月から,当社は賛同メーカーと共にユーザーに対しPIMの機能を提供してきたので,提案メーカーとしてその機能を維持・発展する責任があると考え,そのためにはベースとなるExif2.2と併せてPIM IIも必要であるという結論に達した」とコメントしている。

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関連リンク
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[西坂真人, ITmedia]

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