News 2002年3月25日 10:54 PM 更新

速攻レビュー――「PM-4000PX」が創造する新しいインクジェットプリンタの「楽しみ方」(1)

エプソンの新しいインクジェットプリンタ「PM-4000PX」は,顔料系の非常にユニークなインクシステムを採用。耐光性や耐水性に優れ,モノクロプリントが美しいなど,これまでの写真画質インクジェットプリンタと一線を画する楽しみ方を提供してくれる。

 エプソンから登場したインクジェットプリンタの新製品「PM-850PT」と「PM-4000PX」。テストを行うために両機種を使い始めたハズなのだが,テストを通り越して週末の間どっぷりとハマり続けてしまった。

 2万9800円の実売価格で,ロール紙オートカッターまで標準装備したダイレクトプリント機能付きのPM-850PTも,もちろん簡単・便利にデジタル写真のプリントを楽しみたいユーザーにピッタリの製品だが,それ以上にPM-4000PXの楽しさにまいってしまったのだ。

 いったい,何がそんなに楽しいのか。短いレポートだけでは語り尽くせぬ部分もあるが,従来のカラーインクジェットプリンタと比較しながらA3ノビ対応の写真画質プリンタPM-4000PXの魅力を紹介しよう。

スペックだけでは語り尽くせぬPM-4000PX

 PM-4000PXのスペックだけを見れば,昨年末にヒット商品となったPM-950CをA3サイズに対応させ,若干の機能を付け足したもの――そう見えるだろう。残念なことに写真印刷の速度ではキヤノン製プリンタに及ばないし,他社同等機と比較すると筐体サイズも大きい。L版カット紙をフチなし最高画質で印刷すると5分15秒もかかってしまうし,横幅は約63センチもある。その上,価格も実売価格で6万9800円前後と,インクジェットプリンタとしてはかなり高価だ。

 しかし本機は非常にユニークなインクシステムを採用することで,これらネガティブな要素を正当化してしまった。全色顔料系インクで印刷することで,従来のカラーインクジェットプリンタが不得手としていた耐光性,耐水性,耐ガス性などを改善し,また印刷メディアの適応範囲も大きく広げてしまったのだ。

 顔料系インクは,以前からヒューレット・パッカードが黒インクに採用しており,滲みが少なく切れの良い文字品質を売り物にしていた。しかし,粒子を用紙表面に付着させる顔料系インクは,擦過に弱く,乾燥速度も遅いといった欠点が指摘されてきた。また光沢紙へのインク乗りが悪く,印刷面がツヤ消しになるため写真印刷には向かない。HP製プリンタは光沢紙では黒インクを使わず,カラーインクだけで黒を表現していた。

 これらの問題を解決したのが,昨年エプソンが発表したμクリスタインクだった。μクリスタインクは顔料の色材粒子を高分子ポリマーで包み込み,用紙上でポリマーがコーティング剤の役割を果たすことで耐擦過性を高め,かつ光沢感のある印刷面を実現した。

 しかし,一方でインクコストが高く,画質面でも染料系写真プリンタに一歩及ばないという評価だった。写真画質を重視したため,顔料系でありながら普通紙での文字品質もあまり褒められたものではない。それでも,一部には熱烈に歓迎されていたが,エプソンはこのμクリスタインクをさらに改良したPXインクを開発することで,コンシューマ向けのPMシリーズに顔料系インク採用機を登場させたのである。

 PXインクは顔料の色材を従来よりも微粒子化し,かつインク内で均等に分散させるようにした。また,インクコストもPM-950C並みに引き下げ,μクリスタインクで指摘されていたイエローの弱さも改善されている。さらに7色目としてグレーインクを採用して階調性を高め,最小4ピコリットル(滲みがないため染料の2ピコリットルに相当する)の極小ドットによる2880×1440dpi印刷によって高画質化も図っている。

 加えて,PM-950Cでも採用されたインクチェンジシステムにより,写真印刷用のブラックインクとは別に,ツヤ消しでOD値の高い(濃度の濃い)マットブラックカートリッジを利用可能にしている。マットブラックはオプション設定となるが,この新しいカートリッジが本機の応用範囲を大きく広げている。

耐光性最高75年の高品質な写真印刷

 これまでの写真画質プリンタで重視されてきた粒状性(インクドットのツブツブ感)の低減は,本機で期待してはいけない。染料系インクで2ピコリットル相当のドット径というから,もちろん非常に微細なドットであることは間違いないが,同じドット径ならばインクを重ねて色のバリエーションを作れる染料の方が滑らかな階調を表現できる。ドット径が小さいためあまり目立たないが,厳密にはPM-950Cの方が粒状感はずっと少ない。

 また写真用紙に染料系インクで印刷を行うと,印刷面の平滑性や紙の質感から,写真と見間違うような結果を得ることが可能だが,PM-4000PXのそれは印画紙にプリントした写真とはちょっと異なる。インクを打ち込んだ部分と打ち込んでいない部分,インクの打ち込み密度などにより,場所によって光沢感が変化してしまうため,どうしても印画紙のような均一化された光沢感は得られないのだ。

 しかし,染料とは色材が異なるためか,表現可能な色の範囲(色域)は確実に広くなっている。sRGBよりも広い色域をサポートした画像ソースを用いて印刷すると,特に高彩度部分の表現力が大幅にアップしているように感じた。sRGBソースのデジタルカメラ写真などをオートフォトファイン!で印刷する際も,その実力は十分に感じ取ることができる。また,ほとんど滲みがなく,用紙表面に色材が定着するためか,染料系インクで印刷された写真よりも,カリッとした鮮明な絵に仕上がる。

 光沢感の変化は光沢紙への印刷では顕著だが,PM/MC写真用紙(半光沢)に印刷すれば,それもあまり気にならない。写真派ユーザーは,半光沢の写真用紙を用いることを勧める。なお光沢感のある通常のPM写真用紙はサポートされていないが,用紙設定をMC写真用紙(半光沢)に設定して印刷したところ特に問題なく印刷できた。

 他社製の写真用紙への印刷結果もほぼ同じだ。染料系インクジェットプリンタでは,用紙によって純正とは異なる色に転ぶものもあるが,本機の場合は発色が用紙にほとんど左右されないため,どの用紙を使っても発色は変わらないようだ。ただ,光沢感の問題から,梨地の半光沢写真用紙が最も良好な結果を得られる。

 耐光性も45〜75年もあるといい,これまで染料系インクジェットプリンタが最も不得手としていた耐水性や耐ガス性についても優れている。保存性に関しては文句なしと言っていい。さらに速乾性があり,定着してからの色の転びがほとんど無いのも長所だ。印刷して数10秒放置すれば,それ以降は色がほとんど変化しないため,出力した写真の色を細かくチェックすることができる。

 冒頭で述べたように,印画紙の写真とは質感が異なるが,そんなことは関係ないと思うほど,染料系インクジェットプリンタに感じていた不満が解消されている。ひとつだけ不満に感じたのは,染料系のPMシリーズとは色の傾向が多少異なることだ。PM-950Cに合わせて作ったデータをそのまま印刷すると,PM-4000PXでは若干マゼンタが強い色になってしまった。単体で見るとあまり感じない程度の差だが,染料系のPMシリーズと併用しようと思っている読者は,この点を承知しておいた方がいいだろう。

モノクロプリントも十分実用域に

 個人的に最も楽しめたのは,実のところモノクロプリントである。本機にはグレーインクが追加されており,モノトーンのデータを印刷した際に,カラーインクの組み合わせをあまり使わずにグレースケールを表現している。印刷結果をチェックしてみると,カラーインクの粒をほとんど視認できない。

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[本田雅一,ITmedia]