News 2002年3月25日 10:55 PM 更新

速攻レビュー――「PM-4000PX」が創造する新しいインクジェットプリンタの「楽しみ方」(2)

 たとえば従来のPM-950Cでグレースケールを印刷してみると,中間調の表現にカラーインクが用いられており,トーンごとに微妙にカラーバランスのズレが認められる。特にハイライトに近い部分では,なぜかイエローが被る傾向があるなど不自然な印象があった。

 ライソンというメーカーがモノクロプリント専用に,カラーインクジェットプリンタのインクを詰め替えて,4階調のインクを用いてモノクロ印刷を行うための用紙とインクのセットを販売している(エプソン用のキヤノン用があり,日本でもプロ向けに一部のフォトラボが取り扱っている)例があるが,メーカー保証の問題に加え,インクや用紙が非常に高価でアマチュアが趣味でモノクロ印刷を行うには,少々敷居が高かった。

 本機のグレースケールは2階調での表現であり,ライソンインクを用いた印刷にはかなわないものの,趣味としてモノクロで遊ぶ以上のレベルには達していると思う。プロが納品するモノクロ反射原稿としては物足りないが,アマチュアが額に飾っておくモノクロ写真を印刷するには十分。一貫して無彩色のモノクロ印刷を楽しめる。

 フォトレタッチソフトで,RGB各チャンネルのミキシングを好みで選択しながら絵作りをする楽しみは,写真好きのユーザーにとっては堪らないものがある。これまでカラー写真しか撮影してこなかったユーザーも,デジタル化をきっかけにモノクロ写真を楽しんでみてはいかがだろう。

 また試しにニュートラルのモノクロデータだけではなく,ウォームトーンやクールトーンにした写真を印刷してみた。こちらはさすがにカラーインクが混じるため,ニュートラルトーン時のような自然さはないが,想像していたよりはずっと良い結果を得られた。厳密に見るとトーンによって色相が微妙に転ぶ部分もあるが,従来の機種と比較すると,はるかに揃った色調となる。


カラー写真をモノクロ化しPM-4000PXでL版に印刷したものをスキャン。ニュートラル時の描写はなかなかの出来だ。ウォームトーン,クールトーンに調整した画像では部分的(たとえば右上の角)などに色相が転んでいる部分を見つけることができるが,アマチュアレベルでは必要十分なクオリティ

意外に使えるオプションのマットブラックインク

 本機の用途範囲をさらに広げているのが,マットブラックというインクカートリッジだ。PM-4000PXではマットブラックをフォトブラックおよびグレーと交換することができる。マットブラックはフォトブラックよりも,マット系の用紙や普通紙で高濃度の黒印刷を行え,コントラストを引き上げることが可能。

 これにより,MCマット紙などのマット系用紙やCD-R,普通紙などへの高品質な写真印刷を行えるようになり,加えてグレーもマットブラックにすれば,2倍のブラックノズルを持つ高速な実用プリンタとして機能する。

 たとえばブラック系をマットブラックとグレーに設定すれば,MC画材用紙(画用紙のような質感を持つ用紙)に絵画の複写を行える。従来,シルクスクリーンなどの手法で作っていた複写絵をインクジェットプリンタで簡単に作成できる。

 また,個人的にはMCマット紙やMC画材用紙に,マットブラックを用いてモノクロ印刷を行う使い方が気に入った。少し硬調にトーンカーブを調整したモノクロデータを,画材用紙に高コントラストで印刷すると,印画紙風の用紙とはひと味違った面白さを演出できる。

 このマットブラック。人気のCD−Rへのダイレクト印刷でも活躍してくれる。PM-4000PXはCD-Rトレイのローディングが自動化され,速乾性があり滲まない顔料系インクとも相まって,染料系とはひと味もふた味も異なる快適なCD-Rプリントを行える(印刷して数10秒もすれば,インクはほとんど乾いてしまうし,色滲みも非常に少ない)。しかし,黒だけは標準装備のフォトブラックを使うと濃度が薄くなってしまう。

 しかしマットブラックに交換してから印刷を行うと,コントラストの高い非常に高品質なCD-Rプリントを行えるのだ。前述したようにインクの乾きも速いため,非常に実用的である。なおPM-4000PXにはCD-Rプリント用トレイと印刷ソフトが標準で添付されている。

 さらにマットブラックは普通紙でのコントラストも高めるため,滲みのないレーザープリンタライクな印刷も行える。マットブラック2本を装備して,ビジネスプリンタとして使うのもいいだろう。

 ただし,PM-950Cのインクチェンジシステムと同じく,インクカートリッジを入れ替えるたびにヘッド内のインク入れ替えのためにクリーニングを行うため,全インクを多量に消費してしまう。インクカートリッジの保管なども考えると(さらに大型化してしまうが),マットブラックとフォトブラックを両方搭載していれば……,と思う。マットブラックカートリッジは,それほど"使える"インクカートリッジだ。

インクジェットプリンタのさらなる用途拡大を期待

 エプソンはμクリスタテクノロジを搭載したプロ向けプリンタのMCシリーズを記者向けに紹介する際,顔料系インクの技術をコンシューマ向けプリンタにも展開していく意向を示していた。今回,高価でサイズも大きい,いわばマニア向けの製品ながらコンシューマ向けに様々な工夫を行い,コンシューマ向け製品への進化という約束を果たした。

 関係者の話によると,顔料系インクを採用するため,ヘッド構造を量産向きのピエゾ素子を横に配置する方式ではなく,高価だが高エネルギーを出せる縦配置にするなど,コスト的には厳しい中,製品化を果たしたようだ。インクにしても,染料インクと比べてPXインクは高価なのだという。

 にもかかわらず,今回の製品をPMシリーズとして発売した背景には,インクジェットプリンタのさらなる用途範囲拡大と,需要喚起といった意味合いがあるようだ。マニアおよびプロ向けのA3ノビ機から投入し,市場動向を見極めながら新しい用途を開発し,さらにバリエーションを広げていきたいというエプソンの意図が,PM-4000PXに見え隠れする。

 染料系インクジェットプリンタは画質面での向上に一定レベルにまで達し,使い勝手の向上や簡単に楽しく使うためのソリューション提示などとの合わせ技で,毎年の年末商戦を乗り切ってきた感がある。かつて,写真画質プリンタが登場した時のような,ショッキングなほどの変化はなくなってしまった。

 個人的な感想になるが,今回のPXインクは写真画質プリンタへと各社が一斉に向かい始めた頃を思い起こさせる久々の大きな一歩だと感じる。PM-4000PXには,最高画質時の印刷速度の遅さなどの問題はあるが,新しい楽しみがそこにはたくさん詰まっていた。

 この製品をきっかけに,ライバルであるキヤノンなどが,また新しいアプリケーションの創出に踏み込んでくれれば,インクジェットプリンタはまだまだ良いものになるだろう。何もエプソンと同じ方向に進む必要はない。カラーインクジェットプリンタ進化の方向性に行き詰まりを感じていたが,まだまだ奥は深そうである。

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