News 2002年3月29日 11:13 PM 更新

地上波デジタル放送の双方向サービスを音声対話で操作――日立が実証実験

日立製作所が,地上波デジタル放送に向けたインタフェース新技術の実証実験を仙台で行った。デジタル放送の売り物の1つであるデータ放送の双方向サービスが,音声による対話方式で操作できるのが特徴となっている。

 日立製作所は3月29日,番組制作プロダクションのテレビマンユニオン(東京都渋谷区)と共同で「音声対話型コミュニケーション放送システム」の実証実験を行った。


「音声対話型コミュニケーション放送システム」の実証実験のようす

 デジタル放送の特徴の1つに,データ放送による双方向サービスがある。これにより,視聴者参加型番組やTV画面上でショッピングができるなど,これまでのアナログTVにはなかったインタラクティブな楽しみ方が可能になった。デジタル放送で先行しているBSデジタル放送では,データ放送による双方向サービスが売り物の1つとなっている。

 ただ,現在のデータ放送は,画面の文字を見てリモコンのボタンで操作するという方法でしか利用できないため,目の不自由なユーザーや,リモコン操作などが苦手なお年寄りなどには,使いづらいサービスとなっていた。

 しかし,2003年には地上波デジタル放送が首都圏を中心にスタートする。その後,順次全国に展開,2010年にはアナログ地上波放送のサービスは終了して,全てデジタル放送に移行するとみられている。このようなTV放送の流れの中で,デジタル放送の売り物であるデータ放送の双方向サービスが一部のユーザーには使えないということは,「あまねく広く」というTV放送の主旨からも問題となっていた。

 今回のシステムは,番組に即した音声サポートによってデータ放送を利用できるインタフェース及びアプリケーションを開発。これにより,視覚障害者や高齢者などが音声でデータ放送の双方向サービスを利用できるというものだ。

 データ放送画面に対応した音声対話コンテンツの作成に,インターネット標準化団体World Wide Web Consortium(W3C)が制定したXMLベースの音声対応Webページ記述言語「VoiceXML」を使っているのが特徴となっている。


実験システムのイメージ図

 「開発したシステムは,主に視覚障害者や老人など社会的弱者が利用しやすくするための技術だが,走行中の自動車内など,視覚からの情報取得やリモコン操作が困難な状況でのハンズフリー環境への応用にも有効な技術」(日立製作所)。

 今回の実証実験では,テレビマンユニオンが番組制作を担当。沖縄の老人を描いたドキュメンタリー「日本健康紀行〜沖縄やんばる長寿の旅」と,テレビショッピング番組「次世代ショッピング2002」の2番組を用意した。「特に日本健康紀行は,視覚障害者に対し臨場感あるサウンドで番組の理解を深めてもらうため,ドキュメンタリーとしてはほとんど前例のない5.1chサラウンドシステムでコンテンツを制作した」(テレビマニユニオン)。


5.1chサラウンドで制作されたドキュメンタリー番組

 また,対話をするのに話しかける相手が必要ということで,ヌイグルミにマイクを組み込んだミミズク姿の「サポート君」を用意。VoiceXMLの音声制御を含めたシステムの運用には,計5台のPCを使用している。


マイクを組み込んだミミズク姿の「サポート君」

 ユーザーの立場で実証実験に協力したのは,宮城県立盲学校で教師をしている高橋秀信氏。高橋氏を交えた実証実験は,3月25日から28日まで計4日間にわたって行われた。「全盲の高橋氏には,目の不自由なユーザーの立場で今回の実証実験にさまざまなアドバイスをもらった」(日立製作所)。


実証実験に協力した宮城県立盲学校教師の高橋秀信氏

 TVショッピングのデモンストレーションでは,商品番号の選択や「はい,いいえ」などといった簡単な認識から,具体的な商品名の音声認識まで,さまざまなパターンで実施。途中,話した言葉と違う認識をする場面も何度かあったが,対話形式の確認方法でスムーズに修正され,商品購入まで音声のみでデータ放送の双方向サービス操作が行えた。


TVショッピングでは,音声のみで商品購入操作が行える

 実験を終えた高橋氏は「番号を選んだり“はい,いいえ”などは(目が不自由でも)実際にはリモコンなどで操作したほうが早いが,単語レベルの簡単なものとはいえ,言葉を認識してくれるというのはありがたい。使い勝手としては,そこそこいいところまできているのでは。むしろ,だれもが同じように使えるというバリアフリーの思想が,初めから考えられているということを大きく評価したい」と感想を述べた。

 今回公開された地上波デジタル放送向けインタフェースの新技術は,総務省の「通信・放送研究成果展開事業」に基づいている。同事業は,日本における通信・放送技術の根本的なレベルアップを図るために,通信・放送機構(TAO)が通信・放送システムの研究開発を一般企業などから公募して選ばれたものを,提案企業に委託研究してもらうというもの。日立製作所の新技術は,平成12年度(補正予算)の公募で採用されたもので,テーマは「次世代インテリジェントコンテンツ放送システムの研究開発」だ。

 実証実験は,仙台市内にある「日立情報プラザ仙台」で行われた。なぜ,仙台で行われたのだろうか。

 TAOでは,2003年からの地上波デジタル放送開始に向け,さまざまなテーマを掲げて全国各地で実証実験を行っている。その中で,仙台に拠点を置くTAO東北地上波デジタル放送研究開発支援センターが掲げるテーマが「放送端末ヒューマンインタフェース制御技術・サービス開発」。そして今回の実証実験は,視覚障害者や高齢者がデジタル放送の双方向コミュニケーションを簡単に利用できることをテーマにしている。

 つまり,人に優しいインタフェースに関する研究を掲げているTAOの東北センターが,今回の実験に一番ふさわしい場所として選ばれたのだ。

 「地上波デジタル放送の新技術として,これからARIB(電波産業会)に正式に提案する予定」(日立製作所)という今回の音声対話型コミュニケーション放送システム。製品化への具体的な見通しは,今のところ未定という。2003年の地上波デジタル放送サービスインには間に合わないだろうが,さまざまな身体的障害によって情報弱者となりがちな人々にとって朗報なだけに,今後の動向に注目したい。

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[西坂真人,ITmedia]

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