News 2002年6月3日 01:30 PM 更新

再論
Exif PrintとPIMの「違い」は何か

先日、キヤノンのExif Printに関する策定経緯を含めた説明を記事として掲載したところ、カメラ業界、PC業界を問わず大きな反響があった。そこで筆者として、Exif PrintとPIMの両技術について、その「違い」を今一度、明確にしておこうと思う

 先日、キヤノンのExif Printに関する策定経緯を含めた説明を記事として掲載したが、カメラ業界、PC業界を問わず様々な、そして大きな反響があった。特に今回の当事者とは異なるカメラベンダーから、エプソンのPIMが異なる思想の技術であることが伝わっていないとの指摘を受けた。また、PC業界ではデジタルカメラやプリンタに比較的近い立場にいる担当者でさえ、両技術に対する理解があまり広がっていないことも痛感した。

 記事の筆者として、Exif PrintとPIMの両技術について、その役割の違いをハッキリ記しておくべきだと考えている。両技術は優劣があるものではなく、根本的に異なる思想で作られ、その影響する範囲も異なる。前回の記事で筆者は「エンドユーザーが得られる効果が似ている」と記したが、全く同じではない。そして、そこから広がる波及的な効果についても全く異なるのである。

 なお、両技術のとらえ方や意見に関しては、デジタルカメラベンダー、プリンタベンダーごとに異なる部分もある。ここで紹介するのは、あくまでも筆者自身の捉えた両規格の特徴と考えていただきたい。

プリンタが自由に絵作りを行うためのExif Print

 日本写真機工業会(JCIA)は以前から、Exifは基本的にカメラが撮影時に情報を記録するための規格であり、他のデバイスと対話するために使われるべきではない、との基本姿勢を示している(/news/0203/07/exif_pim.html)。これは今に始まったことではなく、以前からExifの富士写真フイルムなども繰り返し明言してきた。

 Exif 2.2、すなわちExif Printに関しても事情は同じで、カメラが印刷デバイスに対して“命令”することはない。Exif Printの詳細は電子情報技術産業協会が資料を配付しているので(http://tsc.jeita.or.jp/WTO-01.htm)、興味のある方は参照してみるといいだろう。

 たとえばExif Printで追加されたタグに「個別画像処理」というものがある。これはカメラ側でセピア色への変換などの処理を加えたことを示すタグなのだが、現実にはプリンタ側で特殊なカラー画像処理を行わないように指示している。つまり、原則からは外れているのだが、あくまでも“カメラ側が個別に画像処理を行ったことを示すだけ”ということで、(少々こじつけながら)Exif Printの一部になっている。

 このような例外的タグも存在するものの、ホワイトバランスにしろ、露出モードにしろ、それ以外すべてのタグは純粋な撮影時データの記録である。カメラはプリンタに対して、何も指示は行わないのだ。では、なぜExif 2.2がExif Printという名称を与えられているのだろうか? それはカメラが記録したこれらのタグが、印刷時に行う画像処理時のパラメータとして有効なためだ。

 キヤノンがプリント時、どのようにしてこれらを利用しているかは前回の記事前回の記事で紹介しているため、そちらを参照して頂きたい。一方のエプソンは、オートフォトファイン!をベースにExif Printのタグ情報を元にして最適化処理を行うようだ。

 当然、同じタグが埋め込まれた同じ画像でも、両者の出力結果は異なる。Exif Printは出力デバイスに指示を与えるのではなく、自動処理の参考になるデータが埋め込まれているに過ぎないからだ。

 したがって、Exif Printはプリンタベンダーごとに特徴的な仕上がりになり、色作り競争を促すことになる規格と言い換えることができる。

一台の仮想的な多機能プリンタを定義するPIM

 これに対してPIMは、Exif Printと全く逆の思想で作られた仕様だ。Exif Printではタグに撮影情報のみを記録したが、PIMではプリンタに対して指示コマンドを送るためにタグを利用している。

 たとえばアンシャープマスクをどのようなパラメータで実行し、彩度や色調、コントラストなどの調整などはどのように行うか?といったことを、カメラ側があらかじめ指定しておくわけだ。これによって、エンドユーザーはフォトレタッチソフトなどを用いなくとも、簡単にPIM対応プリントアプリケーションから印刷するだけで、望ましい結果を得ることができる。

 プリンタ側がカメラの記録した情報を元に自動処理を行うのがExif Printで、カメラ側が画像処理の指示を行うのがPIMである。色作りの主導権は異なるが、結果的にはエンドユーザーが簡単に美しい写真を手にするための仕組みという意味ではよく似た仕組みと言えなくもない。

 しかし、カメラが画像処理の指示を出すというのは、いったいどういう事なのか? もし、望ましい写真とするための処理があらかじめわかっているならば、カメラ側で処理を行っておけばいい。ならばPIMは不要という論理も成り立つ。

 ところが画面表示や保存用に記録するデジタルカメラの画像と、印刷時に望まれる画像では絵作りが全く同じではない。代表的な例はシャープネスだろう。どの程度シャープ処理を行うのか、そのさじ加減はデジタルカメラの絵作りでも重要なポイントだが、保存用の画像は後処理を考えるとあまり強いシャープ処理を行えない。そこで記録する画像は平均的なシャープネスに抑えておき、印刷時にアンシャープマスクを実行するといったことがPIMで可能になるのだ。

 PIMが特定の出力デバイス(具体的にはエプソン製プリンタ)に依存するという意見もあるが、実際には特定の物理的なプリンタに依存していない。PIMでは仮想的に定義された“理想プリンタ”に対して印刷指示を行う。

 PIM理想プリンタはAdobeRGBに近い色域を持つRGBプリンタで、いくつかのアルゴリズムを持つフォトレタッチ機能や、特定の印刷パラメータが備わっている。PIM対応デジタルカメラやアプリケーションは、PIM理想プリンタに印刷を行ったとき、最も良い結果になるように指示を行うわけだ。そしてプリンタは、理想プリンタの出力に近くなるようにドライバなどのカラー管理を行うのである。

 こうすることで、カメラベンダーがあらかじめ意図する色や絵作りで印刷を行うことが可能になり、たとえば(色再現域は異なるものの)デジタルカメラの液晶画面で見た雰囲気に近い色で印刷するようにPIMパラメータをセットするといったことができる。PIMの対応レベルは各デジタルカメラによって異なるが、中にはなるほどと思わせる色マッチングを示すものもある。

優劣はもちろん、比較するべきものではない

 これらの情報を総合して考えてみて欲しい。元々Exif PrintとPIMは比較すべきものではないのだ。Exif Printはプリンタが絵作りをするため、PIMはカメラが絵作りをするための仕様なのだから、比較をしてもかみ合わないところがたくさん出てくる。

 なお、Exif Printでは、カメラの記録する色フォーマットに関しても、sRGBとの互換性を持ちつつより広い色域を持つsYCC(YCrCbデータをRGBに展開してからクリッピングした時、各RGB値がsRGBデータとなるように作られたデータ。Adobe RGBなどを軽くカバーするだけの色域がある)に準拠することになっているため、sYCCであることを利用して簡易的なカラーマッチングに応用することも可能だろう。

 これはPIMでも同じだ。PIMはYCrCbデータを展開した後、理想プリンタのRGBスペースにマッピングする。このため、記録されたJPEGデータが色をクリッピングしていなければ、sRGBよりも広い色域の再現を実現できる。

 ただ、エンドユーザーが行う画像処理の手間を省いたり自動化するといった面では似た面を持つ両者だが、アプリケーション上でのレタッチやクロスプラットフォーム環境でのカラーマッチングに応用できるPIMは、よりハイエンドのユーザーには便利な機能といえる。PIMでは仮想プリンタというリファレンスが定義されているため、PIM仮想プリンタの色域を基準にした簡易的なカラーマッチング環境を提供できるからだ。

 たとえばエプソンはこのページ(http://www.i-love-epson.co.jp/products/pim/plugin_psd.htm)で、Photoshop用のPIMプラグインを提供している。このプラグインはPIM理想プリンタの絵をシミュレートするプラグインで、これを通してPIMタグ付き画像を読み込むと理想プリンタの出力をカラープロファイル付きのRGBデータとして取り込むことができる。sRGBよりも広いRGB色空間で取り込めるため、後からレタッチを行いたい場合にも利用可能だ。PIM非対応の出力デバイスでも、カラープロファイルを利用すればPIMの効果を得ることができる。

 ただ異なる視点から見ると、PIMは理想プリンタに縛られるため、あまりドラスティックな画像の最適化処理を行うことはできない。たとえば日陰で写した人肌は、PIMでは日陰っぽく青被りした色になる。しかし、日陰での色がどうなるかなど意識しないユーザーは、日陰でも日向でも、あるいは蛍光灯下でも、同じように健康的な肌色を望む傾向が強い。そうした用途には、ドラスティックに画像処理を行えるExif Printの方が向いている。

 適材適所、ユーザー次第、使い方次第、目的次第で使い分けられるべきなのだ。

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[本田雅一, ITmedia]

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