News 2002年6月11日 10:40 PM 更新

有機ELの現状と課題――パテントホルダーのKodakに聞く

Eastman Kodakは、次世代ディスプレイとして注目される「有機EL」に関する特許を60以上も保有している。太陽電池と電子写真に使用される有機電子デバイスの研究から始まった同社の有機ELへの取り組みは長い。同社の有機EL責任者に、有機ELの現状や課題などを聞いた。

 次世代ディスプレイとして注目される「有機EL(OLED)」。この新デバイスにおける構造・デバイス・材料・製法・駆動方法に関する特許を60以上も保有しているのが、Eastman Kodakだということは意外と知られていない。太陽電池と電子写真に使用される有機電子デバイスの研究から始まった同社の有機ELへの取り組みは長く、20年以上前の1979年にはすでに有機ELの試作に成功している。

 これまで同社は、基礎研究やライセンス提供など地味な役割を担ってきたが、昨年12月に三洋電機と合弁会社「エスケイ・ディスプレイ」を設立し、有機ELディスプレイの量産出荷に向け、本腰を入れ始めている。

 その同社のディスプレイプロダクツ事業部ディレクター、伊藤昌弘氏に、有機ELの現状や課題などを聞いた。なお、同社では有機ELをOLED(Organic Light Emitting Diode)と呼んでいるが、記事中では一般的な有機ELに表記を統一している。


同社ディスプレイプロダクツ事業部ディレクターの伊藤昌弘氏

 高コントラスト・広視野角・高速応答性の薄型ディスプレイを可能にする有機ELだが、実用化に向けて課題も山積している。

 その1つが寿命の問題だ。しかし伊藤氏によると、有機ELの寿命は現時点で数千時間のレベルにまで改善しているという。「これだけの耐久性があれば、とりあえずディスプレイとして実用の範囲内だといえる。赤だけ寿命が短いなど、当初は色によって寿命の違いもあったが、それも改善されてきた。現在は、量産体制で均一の性能のものを生産するかという課題に取り組んでいる」。

 液晶に比べて輝度が足りないとの声もある。現在、高輝度タイプの液晶では200カンデラ以上のものも登場しているが、昨年NECのFOMA端末などで採用されたパッシブマトリックス型の有機ELディスプレイは、40カンデラ程度しかなくて非常に暗くて見づらいという印象だった。

 「今後主流になるアクティブマトリックス型の有機ELでは、輝度の目安を80〜120カンデラとしている。直射日光下では150カンデラ以上は必要になるのだろうが、あまり輝度を上げると、バッテリ寿命に影響するほか、ディスプレイの劣化も早めてしまう。100カンデラ前後が現時点ではちょうど良い明るさ」(伊藤氏)。

 薄型ディスプレイとして普及している液晶も、高コントラスト・広視野角・高速応答性をうたう製品が増えてきた。このような最新の液晶と比べて、有機ELの優位性はどこにあるのか。

 バックライトやフロントライトといった発光源によって表示する液晶は、黒を表現することが難しい。これが、自発光方式の有機ELなら黒にしたいところの発光を止めれば完全な黒を表現することができる。これが高コントラストにつながる。

 「究極の黒を表現できる有機ELでは、コントラストは理論的には無限大となる。本来の色をしっかり出せるので、表現力で液晶に勝る」(伊藤氏)。

 さらに伊藤氏は、省電力性や省スペース性、広視野角も有機ELのメリットとして挙げる。

 「同じサイズのアクティブ型TFT液晶に比べて、電力を1/3に抑えることができる。自発光方式はバックライトやフロントライトが必要なくなるため薄型にすることができる。広視野角も自発光方式のメリット。シャッター方式の液晶では、これほどの広視野角を望めない」(伊藤氏)。

 昨年10月のCEATECではソニーが13型の有機ELディスプレイを参考出展し、今年4月の電子ディスプレイ展「EDEX2002」では、東芝松下ディスプレイテクノロジーが17型ワイドという世界最大サイズの有機ELディスプレイを出展した。現時点でも、技術的には20インチ以上の有機ELディスプレイが可能だという。当初、携帯情報機器用など小型ディスプレイが中心になるとみられていた有機ELだが、大画面ディスプレイという流れも出てきた。

 しかし伊藤氏は、「有機ELの大画面化には消費電力の問題がある」と指摘する。

 「例えば、バックライト方式の液晶は、画面サイズを上げていってもある大きさから消費電力はそれほど変わらなくなる。しかし、自発光方式の有機ELの場合、サイズアップによって発光素子の数がリニアに増えるため、消費電力も画面サイズに比例してどんどん増えていく」(伊藤氏)。

 現時点での有機ELの消費電力から計算すると、6インチを境にバックライト方式の液晶の消費電力を有機ELが上回ってしまうという。材料の発光効率を高めれば、消費電力も下がるというが、それが実現されるのは2〜3年後となる見込みだ。

 「消費電力の問題などから、ここ1〜2年は6インチ以下のディスプレイから出てくる。しかし、液晶がそうであったように、小さいサイズの製品が市場を引っ張っていき、そのうち大画面が登場していくとみている。コスト面では、まだ同サイズの液晶に比べて1.2〜1.3倍と割高となっているが、液晶に比べて部材が少ないことから、生産が増えればコストはどんどん下がっていき、最終的には液晶よりも安くなる」(伊藤氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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