News 2002年6月14日 09:06 PM 更新

っぽいかもしれない
それでもやっぱりサッカーが好き

「RoboCup」にはレスキューなどいろいろな競技がある。だが、みんなが興味あるのはやっぱりサッカー。試合を100倍楽しむための見所を紹介しよう

 6月19日に福岡ドームで開幕する「RoboCup-2002」を、ずっと会場に通ってレポートをお届けする予定だ。今日は、12日の記者発表会で聞いた話を交えながら、サッカー競技「RoboCupSoccer」の面白さについて話してみようと思う。レスキューロボットも興味深いけど、やっぱり、いちばん気になるのはサッカーだよね。

 昨日の記事でも紹介したようにRoboCupSoccerは5つのリーグに分けられている。そのそれぞれに見所があるようだ。

 まず、ルールについて。RoboCupSoccerのルールは、基本的には(人間の)サッカーの国際ルールに則っている*1。ただし、まだ技術的にできないことというのがあるので、実際にはそれにRoboCupSoccer用の修正を加えたものになっている。でも、これは「過渡期」の状況だ。最終目標は完全に国際ルールに従うこと。そうじゃなきゃ、人間のサッカーのチームと試合をしてもらえない。

 実行委員会には、国際ルールとRoboCupSoccerルールを比較したリストがあって、いまどこまで国際ルールに近づいているかが分かるようになっているそうだ。さらに、実装していない部分についても、いつまでにクリアという目標の年が書かれているんだって。

 また、今回のヒューマノイドリーグ以外のすべてのリーグにおいて、ロボットは「自律型」である。ゲームが始まったら人間は全く関与することができない。ロボコンなどとはこの点が大きく異なる*2

 いま、見ていていちばん面白いのが「小型ロボットリーグ」なんだそうだ。直径18センチ以内に入る小さなロボット5台がチームを組んで、卓球台サイズのフィールドを走り回る。速度も秒速2メートルというから、ほんとに走るのだ。

 このリーグに限り、各ロボットのカメラアイ以外に、天井からの「トップビュー」の映像を使うことが許されている。トップビューからの映像がサーバを経由してロボットに送られるのだが、競技の速度がここまで速くなってくると、サーバーから受け取る伝送時間が無視できなくなってくる。

 一瞬の間に状況が目まぐるしく変わるのだ。いまでは、各ロボットも自前のカメラを搭載するようになっているけど、それとトップビューとの「時差」をどうするかというあたりの処理も必要になるわけだ。

 実機リーグの中では戦略的にも最も進んでいる。パスを回したりとか、スペースを作ったりとか、個人技ではなくチームプレイが見られるわけだ。

 また、今回はエキジビションで、ついに11対11の試合(フィールドは中型ロボットリーグのものを使う)も行われるのだそうだ。それこそチームプレイが楽しみである。

 RoboCupSoccerの画像っていうと、たいてい出てくるのが「中型ロボットリーグ」。大きいから見た目に派手なんだろう。直径50センチ以内に収まるロボット4台が卓球台9台分の大きさのフィールドで戦う。

 こちらは戦略よりも個人技重視。各チームのロボットは、どういうふうにボールをキープするか、どういうふうにシュートをするかというのが楽しみ。

 また、前大会まであった「フィールドの周りを囲む壁」が取り払われたことにも注目だ。このリーグにはトップビューはない。各ロボットが自前のセンサー(たいていはカメラ)で、ゴールの方向、ボールの位置、フィールドの状況を判断しなければならない。

 壁があるとないとではこのときの背景ノイズの量が全く違う。また、前後左右の壁との距離を測定して自分の位置を同定する、なんていう手法も使えなくなった。これらのことにより、去年までの同じリーグとはプレイの方向性が全く変わってくる可能性もあるのだ。

 今回はあのフィリップスがチームを送り込んできたことにも注目だ。その名も「Philips Cyber Football Team」。このチームは今年のGerman Open 2002で優勝している強豪である。対戦するチームは苦戦をしいられることになりそうだ。

 日本はこのリーグでは常に優勝候補にあげられている。ところが、第1回大会で大阪大学の浅田稔先生のチームが優勝(このときは、2チームが優勝を分け合った)して以来、いいとこまでいくけど優勝できないという状況が続いている。今年はどうなるだろう。

 4本足ロボットリーグ、通称「AIBOリーグ」。おなじみのAIBOがボールを追いかける風景がユーモラスなので、人気が高い。ありもののハードウェアをそのままつかう(ハードウェアの改造は許されていない)ので、開発の敷居が低いのも魅力だ。制御と戦略のソフトウェアの戦いになるわけだ。

 ボールの認識にはAIBOに搭載されているカメラを使用する。ところが、このカメラは視野がひじょうに狭い。すぐにボールを見失う。だから、AIBOリーグのプレイ時間のかなりの部分は「ボールを探す」ということに費やされる。作っている側は必死なのだけど、見ているとなんだかのどかな感じ。それも、人気のうちなのだけど。

 いかにボールを早く見つけるか、それ以前に見失わないようにするか、というのがポイントになりそう。

 なお、今回から、1チームのAIBOの数が3から4に増えた。フランスには「Les Trois Mousquetaires(三銃士)」という強豪チームがあるのだけど、今年からは四銃士になるのだろう……とおもったら、エントリー表を見てもチーム名は変わっていないみたいだ。あれ、ダルタニアンは?

 今回最大の注目は、「ヒューマノイドリーグ」。なんていったって2足歩行ロボットがボールを蹴るのである。なんかすごそうじゃないか。と思っていくと、多分肩すかしだ。昨日も紹介したように、歩いて、ペナルティキックして、デモンストレーションして、で全部なのだ。このリーグに関してだけは、自律型である必要すらない。自分でボールを探して蹴るんじゃないってのは、ちょっとつまらない。

 今回は「歴史の証人になる」というのが最大のポイントだろう。2050年にロボットチームが人間のワールドカップ優勝チームに勝ったとき「わたしは、最初のときをみたけど、まだ、こんなロボットがよちよちあるいて、ボールを蹴ったりしただけでねぇ。あれが、こんなになるなんて、長生きはするもんだよねぇ」と孫にでも語って胡散くさがられるために見るのだ。

 とはいっても、すごそうなのはいる。一番すごそうなのは、RoboCup国際委員会委員長の北野宏明先生率いる北野共生プロジェクトから送り出されてくる「morph(モルフ)」だ。去年11月のCEATEC JAPAN 2001に登場して、みんなのどぎもをぬいたアイツである。わたしもびっくりして記事を書いたのだけど、あれからさらにすごくなっているというのだ。これは、かなり期待だ。

 また、2月に行われた2足歩行ロボット格闘大会の「ROBO-ONE」に出場したもののうちから、「バルキー」、「Adamant」も参加してくる。個人参加の彼らの活躍にも期待だ。

 海外勢についてはなかなか情報がない。そのなかで、スウェーデンの「Murphy」は身長180センチという大きさを誇るもののようだ。どんな感じなんだろう。また、デンマークの「VIKI」は11人でサッカーをするらしい。これも気になる。

 なお、ASIMOは「模範演技」担当での参加となる。既に実用化されているっていうのは、やっぱり別格なのかしら。

 ソフトウェア同士の戦い「シミュレーションリーグ」。11対11で戦う。各プレイヤーには体力,速度、視野といったパラメータがあって、本物のサッカーと同じ大きさに想定されたフィールド上で戦うのだ。このリーグももちろん自律型。ソフトを動かしてしまえば、あとは人間はスクリーンを見ているだけだ。

 だから「戦略」や「戦術」がプログラムされていないとゲームにならない。最初は「ボールがあったらそこに走る、追いついたらゴールの方向に蹴る」というというレベルだったのだけど、いまでは、オフサイドラップを仕掛けたり、さらにそれを破るためにオフェンスの2番目の選手がススっと前に上がったりなんていうこともこなすようになってきた。フリースペースを作ってそこに走りこむなんていうのもあたりまえだ。

 このリーグに限らないが、RoboCupは、毎年の大会が終ったら参加者の技術はすべて公開されることになっているから、優秀なプログラムはすぐに分析、研究される。進歩が凄まじく速いのだ。

 実機の制約がないから、ルールも国際ルールに最も忠実である。ただ、いまのところ2次元だ。空中戦の概念がない。この制約は近いうちに外されるだろう。

 ちょっとコンピュータチェスを思い出すのだけど、それとは大きな違いがある。チェスのプログラムは持ち時間のうちならいくら時間を使ってもいいから「ベスト」の解(「神の一手」だね)を導き出すという風に動く。しかしサッカーはリアルタイムだ。「ベスト」でなくてもいいから「リーズナブル」な解を実時間で探し出さなければいけない。これって、人間は得意なのだけど、コンピュータには苦手なタイプの仕事だ。

 また、チェスは1対1だけど、サッカーは11対11だ。味方プレイヤーとの間で情報を交換する必要がある(“神の視点”があってそこから各プレイヤーに指示を出すというプログラムは許されない)。この情報交換もプログラムのうちだ。お互いある種の「言語」でやりとりするのだけど、こんどはその言語を撹乱させるような情報を発するチームがあらわれたりする。

 空中戦がないことを除けば、このリーグは完全にサッカーなのだ。人間のサッカーを遠くから見ているような気持ちで、各プレイヤーの動きを追いかければいい。決勝ともなると、1対0や0対0のままPK戦というような息詰まる試合になるのだそうだ。

 実はこのリーグがいちばんおもしろいのではないかと、わたしは思っている*3。


*1RoboCup-2002のルールとレギュレーションはここ(英文)
*2わたしは、「自律してなきゃロボットじゃない」っていうストイックな立場をとるから、これはとてもうれしい(この立場がどのくらいストイックかというと、ガンダムもパトレーバーもロボットではなくなるのだ。もっとも、こいつらはオートバランサーが優秀そうだから、人間が乗っていなくてもそれなりに動かせるだろうけどね)
*3シミュレーションリーグの研究者による「ロボットの情報学 〜2050年ワールドカップ、人間に勝つ」 松原仁 + 竹内郁雄 + 沼田寛著 NTT出版 って本を読んだからよけいそう思うのだけど

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[こばやしゆたか, ITmedia]

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