News 2002年6月24日 10:22 PM 更新

あらゆるモノがネットワークでつながる――「Auto-ID」の可能性と課題

無線ICタグを用いて製品を個体レベルで識別し、商品一点一点に個別のコードを割り振ることができるスマートタグ認証システム「Auto-ID」。バーコードに替わる、この次世代の個体認識システムの詳細や実用化に向けての課題などが語られた

 スーパーでの買い物。自宅の冷蔵庫内を携帯電話でチェックし、足りないものや冷蔵庫内の賞味期限を過ぎた食材をショッピングカートに放り込む。買い物を終えてもレジには行かない。商品の合計金額はすでにカートに表示されているので、確認後はクレジットカードかデビットカードを端末に通して支払いはおしまい。カートのまま駐車場に持っていく――。

 こんな、便利な買い物シーンが近い将来実現するかもしれない。それを可能にするのは、バーコードに替わる次世代の個体認識システム「Auto-ID」だ。6月24日、サン・マイクロシステムズが開催した「Sun SOLUTION SEMINAR SERIES」で、Auto-IDの詳細や実用化に向けての課題などが語られた。

 Auto-IDは、ePC(electronic Product Code)と呼ばれる無線ICタグを用いて製品を個体レベルで識別し、商品管理を行えるスマートタグ認証システム。米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)が中心となって研究開発が行われており、1999年にはAuto-IDの研究機関「Auto-ID Center」を同大学内に設立している(別記事を参照)。


開発当初のAuto-ID用無線ICタグ

 現在、商品管理に使われているバーコードは、製造国/製造者/商品名までの情報しか表すことができないため、品目単位での商品管理にとどまっていた。これに対してePCは、ICタグが持つ大容量、書き換え可能といった特徴を生かして、商品一点一点に個別のコードを割り振ることができ、より多くの情報を製品に付与することができる。また、個々のICタグ自体が無線で情報を発信するため、大量の商品タグ情報を一度に調べることができる。

 冒頭のように、携帯電話で自宅の冷蔵庫内を調べることができる機能は、最近注目のネット家電ですでに実現可能となっている。しかし、今年4月に東芝が発売した最新のネット家電「フェミニティシリーズ」の冷蔵庫でも、食品名や賞味期限・量の目安といった食材の在庫データを管理するためには、食材補充のたびにユーザーがデータを入力しなければならない。ペンタブレット型端末などで入力の手間を軽減する工夫が施されているものの、毎日のことだけにやはり面倒だ。これがAuto-IDなら、冷蔵庫に食材を放り込むだけで、冷蔵庫に取り付けられたインタロゲーター(リーダー)がePC情報を自動的に読み取る。ユーザーは煩わしい入力の手間をかけずに、ネット家電の機能をフルに使えるというわけだ。

 セミナーの中で、Auto-ID Center所長のKenin Ashton氏は「1974年に登場したバーコードは、当初、25年間は有効に使えるシステムといわれていた。バーコード登場から25周年目の1999年にAuto-ID Centerが設立され、次世代の個体認識システムの研究が本格的に始まったのは意味深い」と語る。


Auto-ID Center所長のKenin Ashton氏

 Ashton氏は、Auto-IDとバーコードの違いについて、「バーコードリーダーでスキャンすることで初めて機能するバーコードは、人間の介入なしでは情報を取り込むことが出来ない。しかしこれからは、人間の介入なしにコンピュータが自動的に感知・認識する時代になる。Auto-IDは、シリコンチップとアンテナという簡単な構成だが、立派なコンピュータ。これによって、あらゆる“モノ”をネットワークにつなぐことが可能になる」。

課題のコストも、2005年には1チップ5セント以下に

 普及に向けての課題は「コスト」。これはAuto-IDに限らず、シリコンチップを使ったICタグ全般の問題でもある。それでも、Auto-ID開発当初は1〜2ドルしたePCが、現在では50セントにまでコストダウンされているという。

 「ICタグで一番コストがかかるのが、シリコンチップ。ePCの価格は、シリコンのサイズに比例する。1〜2ドルした開発当初のシリコンサイズは1ミリ四方だった。これを数セントのコストで作るためには、ホコリの粒子と同じ大きさの100マイクロメートル以下にしなければいけない」(Ashton氏)。


数セントのコストで作るためには、100マイクロメートル以下のシリコンサイズが必要

 Auto-IDの開発に参画する企業には、マイクロマイクロチップを開発するAlien Technologyといったメンバーも名を連ねる。これらIT企業の先進テクノロジーによって、「2005年には100マイクロメートル以下のシリコンサイズで5セント以下の微細なICタグが作り出せる」(Ashton氏)という。さらに、ePCを読み取るリーダーも仕様をオープンにすることで大量生産を行い、1台100ドル前後にして普及をはかる構えだ。

 しかしシリコンサイズを小さくすることで、コストダウンのメリットとともに情報量が減るというデメリットも生じてしまう。

 Auto-IDでは、商品一点一点に個別のコードを割り振ることをうたっている。「Auto-ID Centerが無作為に選んだ14企業での1年間に作られる商品を調べたところ、5000億個の商品が流通していた。つまりAuto-IDシステムは、無限に近い商品に対して対応できなければいけない。また、オープンなネットワークを構築するためには、ずべての国、業界、企業において、同じシステムでつながれなければならない」(Ashton氏)。

 ホコリほどの微細なシリコンチップに、果たしてどれほどの情報が入るというのだろうか。

 「ICタグのメモリ容量は96ビット。少ないと思うかもしれないが、例えば54ビットあれば今年生産された米粒1つ1つに固有の認識番号をつけることができる。96ビットあれば、世界中のあらゆる商品に個別のタグ情報を付加することができる。ちなみに128ビットあれば世界中全ての分子に、256ビットあれば全ての原子にタグ情報をつけられる」(Ashton氏)。

 Auto-IDは、POSでの商品販売管理が飛躍的に向上するなど流通側にもメリットが大きい。複数同時読み取りが可能なICタグは、一瞬にして精算が行えるほか、万引き防止機能を付加したり、防犯システムと併用して、理論的には無人店舗が可能となる。また、商品一点一点に対して個別コードを付与することができるため、SCMの強力なツールとなる。

 Auto-ID Centerには50社以上の複数のグローバル企業が参画しており、日本企業も、大日本印刷/東レ/凸版印刷の3社が名乗りをあげている。今回、セミナーを主催したサン・マイクロシステムズも主要メンバーの1社で、新しいグローバルサプライチェーンのシステム構築を目指して研究に取り組んでいる。

 「最近では携帯電話やPDA、ゲーム機などコンピュータ以外のマシンがネットワークに入ってくる時代となっているが、次世代は、あらゆるモノ同士がネットワークでつながる時代になる。Auto-IDは、モノがネットワークに入ってくるためのテクノロジーの成果。夢物語のようだが、実現すれば、ビジネスモデルが革新的に変わっていくのではと期待している」(同社の菅原敏明社長)。

 Auto-IDは、2003年の第4四半期までに、ハード・ソフトを市場に投入することを目指している。


サン・マイクロシステムズの菅原敏明社長

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[西坂真人, ITmedia]

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