News | 2002年7月19日 06:33 PM 更新 |
7月18〜19日に東京国際フォーラムで開催されていた「HITACHI ITコンベンション2002」から、Waterscapeに続いてもう一点紹介。こっちもあんまりユビキタスじゃないし、やっぱり「参考出品」。どうもわたしはこういうものに弱いなぁ。
会場の一角に「バリアフリー」のコーナーがある。以前、データグローブを使った手話翻訳システムを見て以来、日立のこっちの分野の研究は気になっているのだ。今回のデータグローブは手話を学習するシステム(「はい、同じようにやって下さい」って言われたら、データグローブの手で手話をするわけ)に使われていた。これはこれでおもしろいんだけど、今回気に入ったのは、その隣にあったもの。
脳の情報を外部に伝達する方法
筋萎縮性側策硬化症(ALS)という病気がある。運動を司る神経細胞がだんだん壊れていくものだ。最初は手足の鈍化から始まるのだけど、症状が進むとついには体中のすべての筋肉を動かすことができなくなる。でも、この状態でも脳そのものはしっかりしているし、外部からの情報(五感のこと)はちゃんと受け取ることができる。
このような状態になったときに、何とかして外部に情報を伝える方法はないものかということは、いろいろ研究されてきた。症状が完全に進む前なら、まぶたの動きを使用する方法がある(今回も画像認識を使って動きを検出するシステムが展示されていた)。でも、「全く動けない」となったら、それすら無理だ。
脳波を検出するという方法もある。頭に電極センサーを貼り付けて微弱電流変位を見るというものだ。でも、これは外部の電波ノイズの影響を受けやすく、普通に使うのはなかなか難しい。
脳の血流量の変化を測定
日立が使うことにしたのは、脳の血流量の変化だ。頭皮の上から800nmの近赤外レーザーを当て、その散乱透過光を測定する。この光は血液に吸収されるので、血流量が増えると散乱透過光が減るというわけだ。
実際に装着するのは、おでこに当てる黒いヘアバンドという形状のもの。この内側の左目の上くらいのところに、レーザー半導体と受光素子とが数cmの距離をおいて並んでいる。黒いバンドのおかげで、外光の影響は受けない。
後は、操作するだけだ。バンドを付けてまず12秒間安静にする(血流量小)。次の12秒が回答期間だ。ここも安静のとき「No」、ここは活発(血流量大)のとき「Yes」ということにしてある。最後に12秒もう一度安静に戻って、一回の操作終了。つまり、1bitの情報を得るのに36秒かかるというころだ。
やらせてもらったけど、これはやっぱり難しい。まず、安静にするのが大変だ。ぼーっとしているのは慣れていると思ったのだけど、会場のアナウンスなんかが気になっちゃうと、それによって脳が活性化しちゃったりする。「1たす1は2」ってずっと頭の中で唱え続けるっていう方法を教わった。全く考えないのは無理だから、あんまり脳を使わないことを考えてマスクしちゃうのがいいらしい。
「活発にするのはどうすれば?」
「ここは、100から7ずつ引き算をしてください。93、86、79……って」
「え、むずかしすぎる……」
「じゃぁ、3ずつでもいいですけど」
というようなことらしい。このほか、頭の中で歌を唄う方法というのも教わったのだけど、これは回答期間の後、安静にしていなきゃいけないときにも勝手に頭の中で鳴り続けてしまったので、あんまりうまくいかなかった。
測定結果
というわけでYesとNoの波形。このYesが得られるまでにはかなり苦労したのだけど、その甲斐あって飾っておきたいくらいに美しい変移である。
Yesの波形
Noの波形
わたしも苦労したのだけど、一般的にも今のところ正答率は6割程度なんだそうだ。もっとも、練習するとうまくなる(頭の使い方がわかるんだね)という話もある。
でも、正直を言ってしまうと、普通にこういうのが使えるようになればいいと、わたしなんかは思ってしまう(ユニバーサルデザインってやつですね)。J.P.ホーガンのBIAC*1まではまだ遠いのだけど、その入り口ぐらいまでは、行ってみたいじゃない。
[こばやしゆたか, ITmedia]
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