News 2002年7月30日 10:17 PM 更新

悠久の歴史をVRで再現――凸版が故宮をデジタル化

凸版印刷が中国・故宮博物院の文化遺産をデジタル技術で保存するプロジェクトを開始した。VR技術を使って故宮建築物の様式美や中国伝統の世界観などを体験できる

 凸版印刷は7月30日、中国最大の国立博物館「故宮博物院」の歴史的文化遺産をデジタル技術によって保存しようとするプロジェクト「故宮VR(バーチャルリアリティ)」の開発・制作を開始したと発表した。

 故宮博物院は、明(1368-1644)や清(1616-1912)の時代の王宮であった紫禁城の古建築群と、約100万点に及ぶ文物や美術工芸品といった宮廷コレクションを所蔵する。しかし、歴史的に価値の高いこれらの建築物や収蔵品も、保護や管理の観点から公開が制限され、一般に公開されるのは建築物が全体の1/3、収蔵品は年間約8000点ほどにとどまっている。

 凸版印刷は、2000年6月から故宮博物院との共同研究を開始。2001年8月に「故宮デジタル研究所(故宮文化資産デジタル化応用研究所)」を設立した。同研究所所長の千葉雅哉氏は「故宮博物院の膨大な収蔵品や古い建築物をいかにデジタルアーカイブしていくかが研究のポイント。また、取り込んだ3次元のデータを、新しい表現技術と組み合わせて公開していくことも行っていく。つまり、デジタルによる保護・保存と一般への公開が大きな目的となっている。デジタル化によって、まだ公開されていない多数の文物を、インターネットなどを通じて、世界中の人に見てもらうことができる」と語る。


故宮博物院の敷地内に研究所を建築中

 現在、故宮博物院の敷地内に、建築面積約1000平方メートルの研究所を建築中。建物の中には12(幅)×4(高さ)メートルの曲面スクリーンを装備した高精細VRシアターが設置される。これは、凸版印刷が2000年4月にトッパン小石川ビル内に設置したVRシアターと同じもの。SGIのグラフィックスワークステーションOnyx3400を使って大型スクリーンに毎秒30フレームの滑らかな映像を表示。コントローラーのボタンを押すだけでスクリーンに広がるCG映像を自在に操作し、VRの空間を意のままに移動することができる。


トッパン小石川ビル内のVRシアター。同じものが故宮デジタル研究所内に設置される

 故宮VRは、このVRシアターを使って仮想空間の故宮に入り込み、故宮建築物の様式美や中国伝統の世界観などを体験できるもの。故宮VRのコンテンツ第1弾として、皇帝の即位や婚礼など重要な式典が行われた故宮の中心部「太和殿」の3次元CG制作が進められている。

 「故宮VRは、デジタル化した美術品を見てもらう“デジタルミュージアム構想”の1つの事例。デジタル化したコンテンツは、1つはVRシアター、1つはインターネットで公開していく」(千葉氏)。


開発中の「太和殿」3次元CG

 コンテンツ制作にあたって、「梟の城」などの作品で知られる映画監督の篠田正浩氏を監修者に迎えた。「篠田氏の演出によって、世界に類を見ないVRコンテンツにしていきたい」(千葉氏)という。クリエイティブな演出を加味することによって単なるデジタルミュージアムからの脱却をはかっているのが特徴だ。

 記者会見で挨拶に立った篠田氏は「中国には歴史的建造物がたくさんあるが、私が23年前に初めて見てショックを受けたのが故宮。すぐにカメラを構えたが、(スケールが大きすぎて)とうてい撮影できないことが分かり、映画監督として無力を感じた。その後、凸版印刷の高精細VRシアターで、バチカンのシスティーナ礼拝堂のVR映像を見たときに衝撃を感じた。もはやフィルムやレンズだけでは映画は作れない。技術的にも、どうやらこのデジタル映像が終点なのではないかと感じ、凸版印刷と技術提携を結んだ結果、故宮コンテンツを手掛けろというペナルティ(笑)が舞い込んできた。映画・故宮・中国を見続けてきた私の経験が、少しでも役に立てばと思っている」と、今回のプロジェクトにかける熱い思いを語った。


熱い思いを語る篠田監督

 凸版印刷専務の東田収司氏は「100万点もの文化財を目当てに、故宮を訪れる人は年間1200万人に及ぶ。世界文化遺産は、人類共有のもので、これを残すのはわれわれの使命。VRシアターを含む研究所は、今年中になんとか完成させたい。コンテンツの中身も充実させるために、篠田監督に監修をお願いした。2005年までのプロジェクト費用は5億円。長期にわたるプロジェクトだが、ぜひ成功させたい」と語る。

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[西坂真人, ITmedia]

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