News 2002年8月30日 10:58 PM 更新

インテルが目指したマイルストーン

米Intelが9月9日から開催するIDF 2002 Fall。そこで大きなテーマになりそうなのがモバイル専用に開発された新プロセッサ「Banias」だ。同社がBaniasでどんな絵を描こうとしているのか。28日に都内で行われた記者説明会から、それをもう一度確認してみよう

 インテルは28日、モバイルコンピューティングに関する記者説明会を開催した。その内容の多くは2月に行われたIntel Developer Forum 2002 Springの内容を踏襲し、若干のアップデートを加えたものだったが、この時期に開催するのには意味がある。来月9日からIDF 2002 Fallが開催されるからだ。

 特にクライアントPCの話題では、今回のIDFでは新モバイル向けプロセッサ「Banias」が中心となる。インテルは単なるプロセッサだけではなく、システムチップと無線LANチップを含めたプラットフォーム全体で、モバイルPCに新しい付加価値を与えようとしている。今この時期に、インテルがモバイルPC市場に対して、どのようなアプローチをしているかを説明するのは、可能な限りBaniasのマーケティング戦略の離陸をスムースにしたいからだろう。

 ではBaniasのマーケティング戦略とはどのようなものになるのだろうか?

 インテルが行おうとしているのは、言い換えればモバイルPCを評価する際の新しい基準を作ることである。ご存じのように、モバイルPCにはデスクトップPCにはない要素が加わり、その評価を一つの視点だけで行うのは非常に難しい。バッテリしかり、重量しかり、フォームファクタしかり、スクリーンサイズしかりだ。それぞれは互いに相関関係にあり、一つの性能を重視しようとすると、別の性能を犠牲にしなければならない。

 しかしかつて、インテルはこうした複雑なモバイルPC市場を、たった一つの価値観で乗り切ろうとしていた。言うまでもなく、それは“クロック周波数”である。ムーアの法則よろしく、無限とも思える性能の伸びに陰りを出さないこと。そのためにノートPCの枠内で、可能な限りクロック周波数を最大化することに心血を注いできた。

 この戦略を批判することは容易だが、ユーザーに対してわかりやすいという意味において、速度こそが唯一絶対的な価値であるというインテルの戦略は正しいものだった。しかし、速度の上昇とチップの大サイズ縮小により、消費電力とともに稼働中の熱密度上昇が問題になることがわかってくる。これは限られたサイズにシステムを収め、バッテリ駆動時の性能や省電力も考慮する必要があるモバイルPCでは、大きな問題となってくる。

 また軽量化や小型化の技術、それにバッテリ技術やワイヤレス技術の進歩によって、モバイルPCの使われ方は大きく変化してきた。すでにモバイルコンピューティングは、一部の先進的ユーザーだけの利用スタイルだけではなくなっている。モバイルPCの可搬性を阻害するような方向ばかりにプロセッサが進化することは、市場拡大を阻害するおそれすらあるとも言えるだろう。

 インテルが約3年前、Baniasの開発を始めたのも、おそらくそれらが理由だ。インテルはそれまで、半導体技術の向上をストレートに性能へと反映させてきたが、Baniasではモバイルでの性能や機能を最大化する方向でアーキテクチャのチューニングを行っている。

 Pentium 4がクロック周波数を向上させやすいアーキテクチャになっているのに対して、Baniasはクロック周波数あたりの性能を向上させる(クロック周波数自体はPentium 4ほど高速化できない)アーキテクチャになっていると言われている。絶対的な性能よりも、効率の良さを重視しているためだ。


Baniasでは熱設計電力(TDP)だけでなく、平均消費電力を削減することで、より長いバッテリ持続時間を目指している

 またプロセッサだけでなく、システム全体として理想的なモバイルPCを描き出さなければ、モバイルコンピューティング市場の本当の意味での開花を誘うことはできない。インテルはBanias向けに802.11a/bデュアルバンドの無線LANチップを用意し、システム全体でモバイルPCとしての付加価値を上げようとしている。

 だが、そのためにはユーザーが持っているモバイルPCの価値観を変えなければならない。今までひたすらに高クロック周波数のモバイルPCをプロモートしてきたのに、急にクロックだけが価値ではないと言わなければならないのだから、それも当然のことだ。インテルはそのために、AC駆動時の絶対的な性能だけでなく、限られた電源容量の中で可能な限りの性能や機能を出すことを、高い付加価値としてバイヤーに認知させなければならない。

 インテルのジョン・アントン社長は、モバイルPCの体験を向上させる要素として4つを挙げている。高い処理性能、長いバッテリ持続時間、革新的なフォームファクタ、安全なワイヤレス接続性。Banias(とそのプラットフォーム)はこれらすべてをカバーするといううわけだ。

 インテルはIDF 2002 Springで、プレス向けにノートPCの理想像とそれに近づくための取り組みについて話した(/news/0203/01/idf_note2.html)。それはたとえば、PCシステム全体およびソフトウェアでバッテリ持続時間を延ばそそうというEBL(Extended Battery Life)イニシアティブなどの取り組みなどに現れている。

 Windows XPと最新ハードウェアにより、高速起動、高速レジュームという目標はある程度達成できた。数年前に言われていたインスタントオンは、すでに現実の機能として存在する。次にインテルが目指しているのは、オールウェイズオンのモバイルPC。すなわち、常に電源を入れたままで使ってても、一日中充電する必要のないモバイルPCである。

 2月の時点では単なる説明でしかなかったインテルのモバイルPCへの取り組みが、この秋にどこまで進んだのか。9月9日からのIDF 2002 Fallに注目しよう。



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[本田雅一, ITmedia]

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