News 2002年10月2日 11:31 PM 更新

次世代光ディスクの高速化技術と追記型への展開――CEATECレポート

TDKは「CEATEC JAPAN 2002」の2日目、「ブルーレーザーを用いた次世代光ディスクの高速化と追記型への展開」と題するコンファレンスを行い、同社の研究開発の成果を披露した

 TDKが今回のコンファレンスで披露した研究成果は、すべて波長405ナノメートルの青紫色レーザーと開口数0.85の対物レンズ、保護層0.1ミリの次世代光ディスク(Blu-ray Discの物理仕様と同等)に関するものだ。その内容は、書き換え型ディスク(リライタブルディスク)の高速記録に関するものと、追記型ディスクの開発の2つ。


TDKが開発したBlu-ray Discの試作メディアと追記型ディスク

 同社では、「青紫色レーザーを採用した次世代光ディスクでも、将来的には高速記録や長期保存に適した追記型ディスクなどが求められていくはずである」(TDKレコーディングメディア&ソリューションB.grp 開発部研究主任・井上弘康氏)とみて、以前より研究開発を進めていたという。「2000年には70Mbps、そして2001年10月には144/200Mbpsの記録スピードを研究開発レベルで確認している」(同氏)。


講演するTDKの井上弘康氏

 まず、書き換え型ディスク(リライタブルディスク)の高速記録に関するものだが、同社によると高速記録を実現するための鍵となる技術は、3つあるという。


リライタブルディスクで高速記録を実現するためにキーとなる技術は3つある

 まず1つ目が「高精度薄型カバー層の作成技術」。Blu-ray Discでは、0.1ミリの保護層が採用されており、従来のCDやDVDとは比較にならないほど薄い。この保護層の作成には、ポリカーボネートシートを張り合わせる方法と、CDやDVDなどで記録層に使用される色素を作成するときに使用するスピンコート法の2種類がある。同社では2つの方法を比較検討した結果、「スピンコート法の方が高速化に有効であることを見出した」という。

 ただし、スピンコート法では、メディアを高速回転させ、保護層に使用する材料を作成する。このため、外周部に行くほど膜厚が厚くなるという問題点がある。同社ではメディアのスタックリング部分にキャップを付け、そこに樹脂をたらす。そして、メディアを回転させて樹脂を振り切り、そのまま紫外線をあてて(樹脂を)硬化させることでこの問題を解決した。「ディスク全面で膜厚分布+/−2マイクロメートル以下の光透過層の作成が可能になった」(同氏)。


TDKが開発したスピンコート法による「高精度薄型カバー層の作成技術」の概要

 次が「高速消去を可能とする相変化材料技術」である。書き換え可能なメディアでは、記録層にDVD-RAMで採用されている「Ge(ゲルマニウム)−Sb(アンチモン)−Te(テルル)」か、CD-RWやDVD-RWで採用されている「Ag(銀)−In(インジウム)−Sb(アンチモン)−Te(テルル)」を組成したものを使用することが多い。同社が選択したのは、後者の組み合わせ。同社によると「アンチモンの量を変更することでオーバーライト時の(記録データの)消去率が向上し、高速記録が可能となった」(同氏)。実験では200Mbpsの高速記録が行えることを確認しているという。


記録層にはAg−In−Sb−Teを組成したものを採用し、Sbの量を調整することで200Mbpsの高速記録を実現している

 最後が、「ディスクの熱設計技術」である。これは、高速記録を行えば行うほど、熱により記録層が「再結晶化」が起こり、記録したデータ(信号)が破綻をきたしてしまう可能性が高いからだ。同社では、この問題に「反射層にAg(銀)合金を採用して反射膜側にも熱を逃がし、同時に保護膜にも熱伝導性が高いものを採用することで対処した」。このため、従来のCD-RWやDVD-RWなどで採用されていたディスクの構造を見直し、記録層を熱伝導性に優れた保護膜で挟み込む「SRC(Super Rapid Cooling)構造」を提案している。


TDKが新たに考案した「SRC(Super Rapid Cooling)構造」。記録層を熱伝導性に優れた保護膜で記録層を挟み込み、反射層にも熱伝導性が高いものを採用している点が特徴

低レーザーパワーで高速記録が行える追記型ディスク

 TDKがコンファレンスで披露したもう1つの研究成果が、追記型ディスクの開発だ。これは7月にパイオニアと共同でリリースしたもの。「高速記録」、「リライタブルメディアとの互換性」、「低コスト」、「環境にやさしいこと」をテーマとして研究開発が行われている。

 このうち高速性では、同社はBlu-ray Discの標準速である「36Mbps」だけでなく4倍速に相当する「144Mbps」という記録が行えることを確認している。144Mbpsで記録を行った場合のジッター値も36/72Mbpsとほぼ同等に抑えられており、十分実用になるという。


TDKが開発した追記ディスクでは、144Mbpsのスピードで記録しても36/72Mbpsとほぼ同等のジッター値を実現している

 同社によると、この高速記録は「記録層に「Si(シリコン)」と「Cu(銅合金)」の“積層構造”を採用することで実現した」。レーザーを照射すると、記録層に使用されたSiとCuが“混合”した部分ができ、その部分が記録マークとして形成されるということである。もちろん、混合した部分は、相変化材料とは異なり、元に戻すことはできない。


TDKが開発した追記ディスクは、「Si(シリコン)」と「Cu(銅合金)」の積層構造が特徴。記録マークは、両者の材料が混ざり合った部分に形成される

 互換性では、書き込みに使用するレーザーパワーが低く抑えることで対処。72Mbpsと144Mbpsでは、ほぼ同じ出力で記録が行える。36Mbpsのスピードで記録する場合と比較しても、それほど大きな違いがないという。井上氏は「今のレーザーパワーで記録を行うことができる。保存信頼性も十分なものを実現しており、すぐにでも実用できる段階にある」と話していた。


TDKの開発した追記ディスクは、低レーザーパワーで記録できることが特徴。72/144Mbps記録時は、ほぼ同じレーザーパワーで記録できる



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製品化に進むBlu-ray Discだが、業界ではすでに「その次」に向けた動きも活発だ。そこで鍵を握るのが、次世代の要求に応える記録材料や記録層保護の仕組みの開発。パイオニアとともに次世代追記型ディスクを開発したTDKに、その最新状況を聞いた


関連リンク
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[北川達也, ITmedia]

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