| News | 2002年10月8日 11:16 AM 更新 |
キヤノンによるとPIXUS 850iの粒状性は、昨年の最上位機種であるBJ F900並とのテスト結果(ランダムなテスターに対して粒状度の点数を付けてもらい、それを集計する方式)が出ているというが、さすがにすべての場面でBJ F900を超えるのは難しい。ただ、絵柄によってはBJ F900を上回る印象の結果が出る場合もある(空間周波数が高く暗めの画像の場合)。平均点でも、並の6色インク機並みの粒状性だ。
それでいて昨年までのSシリーズが持っていた、低ランニングコスト、高速普通紙印刷、高濃度の黒印刷などはそのまま引き継いでいる。最もバランスの良い性能を持つプリンタを選ぶとすれば850iが最有力候補となるはずだ。
そして今年のPIXUSシリーズは、950iと850iの2機種に待望のCD-Rプリント機能が付いた。位置合わせも光学式自動調整で位置ズレがなく、ヘッドのギャップ調整レバーも不要。CD-R印刷用のガイドユニットを装着する手間はあるが(PMシリーズ上位2機種はレバー操作のみ)、フロントローディングということもあり、必要十分な付加機能だと思う。

さらに元々静かだった動作音はさらに静かになり、コンパクトだったボディもさらにコンパクトになった。用紙トレイと排紙トレイは簡単に折りたたむことも可能になっているのも、ライトユーザーには歓迎できる機能と言えよう。
昨年のヒットモデルの特徴を引き継ぎ、コンパクト化を果たしたPIXUS 550iやポップなデザインと省スペース性を備えたPIXUS 320iも力の入った製品で、中級機以下の製品ラインナップはかなり強力である。
最後に色設計についても触れておこう。キヤノンは昨年から、忠実な色再現よりも「より好ましいと感じられる色」で印刷することを重視していた。たとえば肌色の表現などは、元画像があまり良い肌色でなくとも、健康的で明るい色に印刷されて驚くことも少なくない。今年もこの色設計方針は変わっていないようだが、いくつかのチューニングが施されている。
ひとつはトーンカーブ。BJ F900のトーンカーブはストレートなものだったが、今年のモデルでは多少中間トーンを立てた弱いS字カーブになっている。また純正用紙のプロフォトペーパーを改良し、従来比で10%も黒濃度が向上したという。この両方の効果からか、新しいPIXUSシリーズは昨年よりもメリハリのあるトーンで印刷される。
また850iは従来製品に近い色作りになっているが、950iの方はより落ち着いた色調で印刷される。キヤノンによると、派手にした部分も落ち着かせた部分もあるとのことだが、850iが好ましい色へと演出した絵画的絵作りとするならば、950iはより印画紙に近いナチュラルな発色と表現すればいいだろうか。今年春までのキヤノン製プリンタは、どの製品を取り出しても非常に近い印象度の絵作りがなされていたが、年末向け製品ではマニア向けの950iだけが異彩を放っている。
デジカメにチューニングされた両社の色に注目
筆者が今年注目するインクジェットプリンタの技術を挙げるとすれば、それは“色作り”である。詳細な評価を行い、目を近づけて部分的な評価を行えば、確かに各製品の差はある。そして、その滑らかさが色を作る上で有利なことも確かだ。しかし、6色インク機やPIXUS 850iを例に取ると、おおむねどれも写真のような出力品質を実現していると言って語弊はないと思う(最高の粒状性を求めるというのは、また別の話だ)。
しかし、画質が向上するにつれて、思うような色に出ないことのストレスは溜まるようになってきた。これはカラーマッチングの問題というよりも、想像する“きれいさ”と出力結果のギャップにある。かつてのインクジェットプリンタは、一般の人がなかなか入手できないような高品質のデジタルデータを用いて開発されていたようだが、一般に入手可能なデジタル写真データはデジタルカメラでキャプチャした画像である。
そこに注目して、両社ともデジタルカメラ程度の品質を持つ画像の出力がより好ましく行えるように工夫している。ただ、その方向性が異なる。
PM-970Cの色は前述したように彩度のチューニングを変更したが、基本的な色の傾向は従来と同じ“エプソン色”だ。彩度チューニングが行われたとは言え、sRGBモード(あるいはICM)に設定するとデータに忠実な出力が行えるため、選択肢の幅は残っている。
一方のPIXUSシリーズは、どんなデジタルカメラ画像も、そこそこにきれいな色で出てくる。元画像との比較では補正が強いと感じる場面も少なくなく、悪く言えば絵画的な仕上がりになる傾向が強い。ただし、これも前述したように最上位機種のPIXUS 950iでは、より抑えられた色調で写真好きのユーザーにも受け入れられる色に変貌した(なお、キヤノン自身は大きく色設計を変えていないと話している)。
色傾向は出力する絵柄によっても大きく異なるため、結論を出すためにはより多くの画像を出力、比較しなければならないし、一概に結論を出せるものでもない。それを踏まえた上で、あえて両社の色作りを概観すると、写真マニアや忠実性を重視するユーザーから自動補正で出力するユーザーまでを広くカバーするエプソンに対して、高品質画像から冴えない写真まで一様にきれいな色で誰もが出力できるキヤノンという傾向があるように思う。
こうした傾向や色作りのイメージが固定化、安定化すれば、将来的には銀塩写真におけるフィルムと印画紙のように、色作りのブランド化が進むかもしれない。コダカラーや富士カラーに対する、“エプカラー”と“キヤノカラー”といったブランド化が可能になるほどインクジェットプリンタの技術が向上すれば、デジタルフォト出力装置としてのプリンタも新しいパラダイムに突入することだろう。
また両社に共通しているのが、デジタルカメラ画像特有の色ノイズやゲインアップ時のランダムノイズを低減する処理をドライバに組み込み、ノイズ低減処理を指定すると画像のテクスチャを活かしたまま滑らかな出力になるように画像処理が行われること。1/3インチ程度以下の小型撮像素子を採用したコンパクトデジタルカメラの画像を印刷する際、特に効果的な機能だ。
[本田雅一, ITmedia]
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