News 2002年10月10日 10:30 PM 更新

クレードルはなぜ付いた?――シャープ「MURAMASA MM1」(1/2)

シャープが10月10日に発表した「Mebius MURAMASA」の新モデルは、ノートPCとして初めてクレードルを標準装備している。PDAならいざ知らず、ノートPCになぜクレードルを付けたのだろうか

 ドッキングステーションやポートリプリケータなら少しも珍しくはない。古い話をすれば、中に入れるとデスクトップに変身する「Mac Duo」のDuo Dockなんてのもあった。しかし、これはなかっただろう。“クレードル”付きのノートPCである。

 クレードルに入れると、ノートPCはこんな形になる。


クレードルに挿した状態。下がしっかり重い(で、ノートPCは軽い)ので、見た目以上に安定している

ノートPCを外付けHDDとして使う

 写真のノートPCは、シャープが10月10日に発表した「Mebius MURAMASA PC-MM1-H1W」(以下MURAMASA MM1)。10.4型液晶(XGA)を搭載したノートPCとしては世界最薄(最も薄いところで13.7ミリ)、最軽量(950グラム)。加えてパソコンで最初にクレードルを標準装備したという、“最”が3つも付くシャープの戦略商品だ(実売予想価格17万円、発売日10月26日、製品発表記事はこちら)。


シャープの薄型・軽量モバイルノート「Mebius MURAMASA MM1」

 もちろん、このクレードルは伊達ではない。いやそれどころか、“PDAでさえ考え付かなかった”ような利用法をしている。

 PDAでは通常、クレードルはPCと“つなぐ”ために使われる。この場合、PCとPDAという、それぞれが独自のプロセッサを持ったデバイスであり、クレードルを介して両者がデータのやりとりをする格好だ。シンクロナイズ機能の進化などで便利にはなっているものの、それは最新のPDAであっても変わらない。

 ところが「MURAMASA MM1」は違う。クレードルに挿した状態では、PC(紛らわしいので以後、母艦PCと呼ぶことにしよう)の外付けHDDとして機能するのだ。母艦PCとクレードルはUSB2.0(最大480Mbps)で接続されるので、言わば、MURAMASA MM1が母艦PCの“USB型外付けHDD”になる。ちなみに、MURAMASA MM1に内蔵のHDDは、UltraATA/100の15Gバイト(1.8インチ、5ミリ厚――おそらく“例のヤツ”)だ。


自働認識され、母艦PC側からは「MM1_D Drive」というハードディスクとして見えている(発表会のデモより)


クレードルの中は専用コネクタがあるだけのシンプルな作り

 盲点と言おうか、せっかく“PCであるもの”を“わざわざクレードルを使って”までタダの外付けHDD(周辺機器)にしてしまうのは、ちょっと思い付かない。いや思い付いた人はいたかもしれないが、実際にやってみた人(会社)は、これが“PCでは”初めてだろう(注、ここで当初、単に“初めて”と書いたところ、複数の読者からのメールで外付けHDDとして使うのは、Appleではかなり以前からあるということをご指摘いただいた。失礼した。お詫びして訂正します。真意は“わざわざクレードルを使ってやった”ということにありました。世界初なのはクレードルです)。

 だが、その効果は小さくない。

 例えばメーラー。デスクトップPCとノートPCやPDAを併用している場合、送受信したメールのデータをどちらでも扱えるようにするには、データをシンクロさせるか、こまめにコピーするかだろう。簡単なのは前者だが、それでもうっかり作業を忘れたりして、困った経験のある人も少なくないに違いない。しかし、MURAMASA MM1はそれをもっと簡単・確実にできる。母艦PCのメールを保存するフォルダ自体を、MURAMASAのHDDに設定すればよいのだ。アプリケーションは母艦PCとMURAMASA双方にインストールするにしても、データはごく簡単に、そして当たり前に一元管理できる。クレードルから離せば、このデータはそのままMURAMASA MM1のデータとして扱えるからだ。

 こうした使い方をした場合、不安になるのはデータの破損と盗難という2つの面でのセキュリティだが、MURAMASA MM1ではこの点も考えられている。まず、破損という面では「HD革命/BackUp Lite」(アーク情報システム)が同梱されており、これを使って定期的にデータを母艦PCにバックアップできる。盗難に対しては、必要に応じてBIOSパスワード(パワーオンパスワード)を設定できるので、別のクレードルに接続されてもパスワードをきちんと入れない限り、盗まれることはない。


BIOSパスワードの入力を設定し、データを保護することができる

 “玉にきず”だったのは、クレードルに挿す時は基本的にMURAMASA MM1の電源をオフにしなければならないことだろうか。むろん、これでもバッテリーの充電はできるのだが、MURAMASA MM1が母艦PCから外付けHDDとして認識されることはない。あらかじめ電源をオフにしてクレードルに装着する必要があるのだ。会場の説明員によれば、うっかり電源オンで挿した場合、いったんクレードルから抜いてオフにし、再度挿す必要があるという(ちなみに電源オフの状態で挿せば、オートパワーオンでHDDのみ電源がオンになる仕組みだ)。

 とはいえ、これはこの機能のユニークさから言えば、わずかなきずに過ぎないだろう。クレードルにタテに挿すため、机上でスペースを取らないのも好感できるポイントの1つだ。思えば、過去のポートリプリケータやドッキングステーションは、ノートPCを机の上でもメインのマシンとして使うことに、心血を注いできた。それゆえ、ノートPCではできないことを、ステーション側でやらせようとして、ステーション側でコネクタやスロットがごちゃごちゃする羽目になった。

 このクレードルは、挿した状態ではノートPCとして使えない点にミソがある。クレードルが提供する機能も電源供給と外付けHDD機能のオン/オフ(それに置き場所)とごくシンプル。だから“使える”とも言える。ユーザーが母艦PCを持っていることを前提に、モバイルユースのセカンドマシンと割り切っているのが潔い。製品発表を行ったパソコン事業部長の川森基次事業部長は、発表会後の受け答えで、これを例の台詞で決めてくれた――「目のつけどころがシャープでしょ」。


クレードルの前面

薄型軽量と堅牢性の共存

 しかし、このMURAMASA MM1はギミックだけのマシンではない。技術的な先進性や薄型軽量化の工夫も随所に盛り込まれている。

[中川純一, ITmedia]

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