News 2002年10月15日 01:29 PM 更新

プリンタの「写真画質」を使いこなす 第1回
なぜ“写真”がきれいに出力できないのか

プリンタの写真画質の性能は年々向上している。ところが実際に印刷して見ると、思ったような表現ができなくて悩むケースが少なくない。写真画質プリンタの使いこなしを紹介するこの連載、1回目はまず、何が問題なのかを考えてみよう

 写真画質のインクジェットプリンタが容易に入手できるようになったが、その性能を使いこなすのが難しいと感じている人も少なくないようだ。数カ月前に某社の最高機種を購入したカメラマニアの友人が「うちで印刷しても、こんなにきれいな色にならない」と、わが家でポートフォリオを開きながら話していた。パソコンが素人なわけではない。れっきとしたIT技術者なのだが、色合わせや画質調整の話になると、どうしていいかわからないという。

 詳しく話を聞いてみると、フォトレタッチソフトでデジタル写真を開き、ディスプレイ上で確認しながら好みの色へと合わせ、それを細かく色設定を調整しながら出力している。ところが、うまく合わせたつもりでも、別の部分で色合いが破綻していたり、思った通りの陰影が再現されないとか。

 このケースの一番大きな問題は、プリンタドライバの作る色も、デジタルカメラの作る色も、最初から信用していないところにあると思う。しかし、近年の製品はいずれも時間をかけてチューニングされており、なかなか自分で調整を行ってもうまくいかないケースが多い。

デジタル写真出力、2つのアプローチ

 “きれいに写真を出力する”といっても、実際にはさまざまな視点がある。普通に写真を1枚ずつ出力するだけでなく、写真集のようにきれいにレイアウトして出力したいという視点。これは良質のアルバムソフトを利用すれば可能だ。しかし、ここで扱おうと考えているのは、写真のような出力を行える高画質プリンタで、“写真のような仕上がり”を得ること。

 その際のアプローチは大きく分けて2つある。

 まずデジタル写真のデータ(主にデジタルカメラのデータ)を、DPEにプリント依頼を行うがごとく、簡単・手軽に出力し、その結果が“きれい”と感じられれば良いというアプローチだ。このアプローチで出力したものに対して、元の被写体の色が少し違う、あるいは画面上の画像ビューアで開いた色と違う、といった意見を言うのは少々野暮だ。

 もともと写真に“本物の色”などあり得ない。銀塩写真の場合でも、フィルムと印画紙が異なれば得られる写真の色は違うものになるし、そもそも被写体の色と同じではない。(銀塩でも)鮮やかな発色のフィルムと印画紙が一般に好まれる傾向にあり、DPE的アプローチでは、元々の場面の雰囲気を壊さない程度にきれいな写真へと演出された出力の方が好まれる場合が多い。

 とは言うものの、データとは異なる色で出てくるという悩みはよく話に聞く。これにはデジタル写真固有の事情もある。一般的なネガフィルムを眺めてみても、フィルムに収められた色が直接見えるわけではないが、デジタル写真だとディスプレイ上で見えてしまうからだ。おかげで、その間のギャップで悩むわけだ。ただ、本物の色などない(翻って言えばもともとのデータが嘘色)のだから、好ましい色で出力されればそれでいいと考える方が合理的だと思う。

 もちろん、すべての色を合わせたいという要求もある。例えば、作業工程の中で色が変化しては困る出版業界のプロフェッショナル向けの画像処理システムなどがそうだ。これに用いられるのがカラーマッチングシステム(CMS)である。

 このCMSの基本的な仕組みは、CIE(国際照明委員会)が規定したデバイスに依存しないLab色空間を通して、各種デバイス(ディスプレイモニタ、プリンタ、イメージスキャナ、タイプセッタなど)の特性差を吸収しようというものだ。デバイスに依存しないひとつの色空間(CIE Lab)を基礎として色情報をやりとりするため、作業工程を経るなかで色が変化してしまうことを防げる。

 カラーマッチングに関しての話は少々難しい解説も必要となるため、次回以降に繰り延べることにするが、いくつかの理由で個人ユーザー向けにはカラーマッチングの仕組みはあまり紹介されてこなかった。特に色をデジタル化する場合の概念や、デバイスの種類ごと機種ごとの特性の違い、色空間の違いによる影響やCMSを利用できるソフトウェアの少なさなど、一般ユーザーが扱うには概念的にも技術的にも敷居が高いと考えられてきたことが大きい。

 しかし本来のCMSが作業工程の中で、色差を小さくするために考え出された背景とは別に、作品としての写真を思い通りに出力したいという欲求を持つユーザーもいる。先に“もともとが嘘色なのだから、好ましい色にアレンジして出力する方がいい”という趣旨のことを書いたが、出力する色彩に撮影者の意図が含まれるのであれば、その意図に対して可能な限り忠実に印刷されるべきだろう。

 例えば、寒々しい雰囲気の写真を撮影したはずなのに、明るく健康的な色になってしまっては、撮影意図も季節感も吹っ飛んでしまう。フォトレタッチでトーンカーブを固めにしたハズなのに、印刷してみると全く違うトーンで印刷されることもある。

 デジタル写真を趣味として楽しんでいく上で、(好ましい色への補正と忠実な色再現の)どちらが正しいかという議論は正しくない。一般コンシューマー向けだから、プロ向けの機能は不要なのではなく、忠実な色再現を求めたい場合もあり、そこにプロ向けの既存技術を応用できるならば、それを積極的に使ってソリューションを提供すべきだろう。技術はニーズを満たすために存在するのだから。

 結局、どちらが重要ではなく両方が重要なのだ。

DPE感覚で使うなら付属ソフトを使うのが一番

 さて、もしDPE感覚でデジタルカメラの画像を、手軽かつきれいな色で出力したいなら、各社が添付している印刷ソフトを使うのがいい。エプソンならば「PhotoQuicker」、キヤノンならば「Easy-PhotoPrint」が製品に添付されており、最新版を各社Webページからダウンロードできる。

 これらのツールは、それぞれのプリンタ機能に特化しており、基本的に設定を変更することなく、そのまま印刷したい写真を指定して出力すれば、プリンタの性能を活かした色合いを得ることができる。

 さらに使用しているデジタルカメラがPIMやPIM II、ExifPrint(Exif 2.2)に対応している場合は、ディスプレイ上では確認できない美しいビーチの色や抜けるような空、鮮やかな新緑も、くすみなどなく再現してくれるはずだ。これは各社の専用DPEソフトが、デジタルカメラが記録しているJPEGデータに含まれるディスプレイ上では確認できない色もプリンタの能力を活かす形で出力しているためだ。

 この色を一般的なフォトレタッチソフトで活かす方法がないわけではないが、手軽さを求めるのであれば純正を使う方がいい。例外的にはPIM対応のアプリケーションでPIM対応画像を出力する場合は、純正のPhotoQuickerで印刷した時と同様の効果を得ることができる。

 もし別に使いやすい写真印刷用のアプリケーションを持っている場合は、各社のドライバが持っている自動調整機能を積極的に使うといい。エプソンならば「オートフォトファイン!」、キヤノンならば「オートフォトパーフェクト」、ヒューレット・パッカードなら「hp Digital Photography」という機能がある。このうちオートフォトファインにはさまざまなオプションがあるが、基本的にはデフォルト設定のままで出力すればいい。

 ただしヒューレット・パッカードのhp Digital Photographyは、デフォルトでは補正が強すぎる場合がある(しかも他社のドライバは写真の自動調整機能は自分でオンにするのだが、hp Digital Photographyは写真用紙を選択すると、自動的にオンになってしまう)。好ましい色を自動的に作って欲しいモードとはいえ、日陰が日向のようになる極端な補正が行われるため、手動で効果のオプションを調整することをオススメしたい。

 hp Digital Photographyのオプション設定画面を開き、各自動調整項目の[自動]チェックを外し、効果の強さを[小]もしくはその一つ右側のノッチに調整しておけばいい。なお、hp Digital PhotographyはDeskJet 5550(今年夏)以降に発売された6色インク機のドライバにのみ搭載されている。

 例外的な場合を除き、一番簡単な方法が一番きれいな写真への近道だ。それもそのはず。各社とも一番簡単にきれいな写真が印刷されるように気を払ってデフォルト設定や色作り、自動補正プログラムを開発している。写真用紙を選択した時に設定されるデフォルト値は、各メーカーが推奨するものと捕らえていいだろう。

 もちろん、色に関しては出力結果を鑑賞する環境によっても変化するため、一概に言えない部分はある。しかしプリンタのドライバを開発している現場では、好ましい色作りを目指して、手作りで細かい色味の調整を行っている。まずはそれを信用して、なるべくシンプルに出力するところから始めるのが良い。

好みの色味へ調整するには

 デジタルカメラがキャプチャしたデータを、できる限りシンプルに出力するのが良いと述べたが、それだけでは意図した写真にはならない。好みの色へとディスプレイ上で調整した写真を、そのままプリンタに出力できないのだろうか?

 デジタル写真の出力に慣れるに従い、そうした考えが出てくるようなら、そこで初めてフォトレタッチとカラーマッチングについて考えるといい。次週は好みの色で写真を出力するための基礎知識と具体的な方法について触れることにしよう。



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[本田雅一, ITmedia]

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