News 2003年1月21日 07:57 AM 更新

「エンターテインメントコンピューティング」に何が求められる?――ec2003基調講演(2/2)


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 こうしたネットワーク生活時代にぴったりの、「新しいエンターテインメントが出現」(中津教授)している。言うまでもなく、「ネットワークゲーム」である。海外の「ウルティマ・オンライン」に続いて、日本国内でも「ファイナル・ファンタジー」、「信長の野望」などが次々とオンライン化をしてきている。

 さらに、注目すべきは「ビジネスのエンターテインメント化」なのかもしれない、と中津教授は続ける。ビジネスこそが、究極のエンターテインメントと考えられることもある。ネットワークを通じた物品の販売/購入、株投資などは、ビジネス的というよりはシミュレーション的・ゲーム的であって、リアルビジネスとは、いろいろなところで違っていると感じられる。

 もちろん、インターネットを介したビジネスであれ、実際のビジネスであれ、ネットワークやツールの先には人間がいて、現実に金やものが動いているということには違いがないが、ややもすると、「リアリティを失うところがあり、ギャップが問題」ではある。

 しかし、現実にアメリカのウルティマ・オンラインでは、ゲーム内の土地をオークションで販売する商売まで登場していて、現実とゲームの境界はきわめて曖昧になりつつあるといっても過言ではない。

技術革新による新しいエンターテインメント

 エンターテインメントを支える「新しいエンターテインメントメディアの特徴としては、技術とコンテンツの融合がある。特に、ゲーム、映画、テレビなどに使われるCGの進化は著しい。ワイヤーアクションや俳優をモデリングしたリアルなCGキャラクターを目にしていると、リアルな身体運動が、チープに見えることがある。「日常では体験できない体験をできる」のである。ここでもリアルとバーチャルの境界は揺らぎ、曖昧になっている。こうした基礎技術は、他のコンピュータの進化の例に漏れず、大衆化を実現しつつある。ということは、だれでもがバーチャルの世界に入れるようになっているということでもある。

 ゲームに代表されるようなエンターテインメントの大きな特徴は、インタラクティビティ(対話性)の導入にある。これは、鑑賞型のエンターテインメントとの大きな違いだといっていい。だが、こうした「ビデオゲーム」は、「他の主として身体的なエンターテインメントに較べて、爽快感がない。むしろ、むなしさが残る」と中津教授。「むなしさ」に会場は湧いた。

 そこで、重要なのが、身体を統合したゲーム感覚である。中津教授の研究では、ATR時代の「スポーツ体験システム」がそうだ。「スポーツ体験システム」は、体感型のマラソン中継システムである。選手がディスプレイをつけた状態をコンピュータに記録し、ユーザーは、ランニングマシンに乗って、選手と同じ速度で走ることで、選手自身が体感している状況を追体験できることができる。身体的体験と精神的体験を統合することで、深い没入感や爽快感、達成感を得られるのだ。確かに、リアルに走れば、爽快感は間違いなくあるだろう。


「スポーツ体験システム」。スポーツの再体験をできるシステム

遊びの分類と身体性をもったエンターテインメント

 最後に、中津教授は、エンターテインメント=遊びと位置付け、遊びにおける分類を使ってエンターテインメントを一覧した。遊びの分析には、ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』、ホイジンガの弟子ロジェ・カイヨワの『遊びと人間』、シカゴ大学心理学科教授チクセント・ミハイの『楽しみの社会学』などが知られている。

 なかでも、カイヨワの『遊びと人間』では、遊びを意思とルールを軸にして、競争(アゴン)、運(アレア)、模擬(ミミクリ)、眩暈(イリンクス)という4つに分類した。

 これらを踏まえた上で、中津教授は、身体的体験と精神的体験を軸とした、新しい分類を提案し、エンターテインメントの未来を論じた。それによれば、新しいエンターテインメントは、身体的体験と精神的体験の融合した新しい娯楽――具体的には、カラオケ、演劇、演奏、彫刻、(競技としての)スポーツなどのような統合的体験になるのだという。

 将来の技術的な発展によっては、観客が主人公になれる「インタラクティブ映画」のようなものもできてきうる。つまり、CGキャラクタと音声・身振りなどでインタラクションしながらストーリーを体験/音声認識、画像認識できるようなものだ。萌芽的なものは、ディズニーランドなどで見られる体感型アトラクションに見られるものかもしれない。


カイヨワによる遊びの分類


中津教授による新しい遊びの分類

 エンターテインメントを分析する研究コミュニティは、2002〜2003年にかけて続々と生まれているという。国内では、「エンタテインメントVR研究会(日本VR学会)」、「ゲーム学会(2002年10月)」があり、国外では「International Workshop on Entertainment Computing(2003年5月、CMU)」、「Entertainment Computing Special Group(IFIP)」などがある。

 映画やアニメーションなどでも実際に表現ができてから、それに関する学会ができ、文化として認められるまでには、20年単位の時間がかかる。ゲーム系の学会がこぞってできてきた理由には、ゲームがいよいよ文化として認められてきたことの証左といえよう。

 「学」の側から見たエンターテインメントは、このようにマクロ的な視野を持つものだった。

関連リンク
▼ ニルバーナテクノロジー
▼ 特集:Entertainment Computing 2003

[美崎薫, ITmedia]

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