News | 2003年1月21日 06:53 AM 更新 |
エンターテインメントの模索が始まった。
人は生まれてから死ぬまで、長い長い暇つぶしをしている。
この暇つぶしを「遊び」すなわちエンターテインメントと位置づけることができる。そう考えれば、動画も映像もコンピュータも、写真もリズムもサウンドも、絵画も音楽もひそひそ話も、食事も夢もスポーツも、映画も演劇も宝塚も、歌舞伎もラップも海外旅行も、恋愛もペットもガーデニングも、スキーも登山もコスプレも、なにもかも、みんな等しくエンターテインメントと言っていいだろう。仕事だって遊びの一種だ、という言い方もある。
「寄せ集めです」。
「エンターテインメントコンピューティング2003」――実質的な第1回エンターテインメント学会――を運営する実行委員会で副委員長を務める大阪大学の塚本昌彦助教授は、「第二夜イブニングセッションII」のステージ上で、司会のサエキけんぞう氏に「エンターテインメント学会ってなにをする学会なのですか」とつっこまれて、ぼそりとこう口にした。
150人を超える参加者の所属はさまざまだった。
大阪湾の海の上、コスモスクエア国際交流センターで、2003年1月13日から15日まで行われたエンターテインメントコンピューティング2003(情報処理学会、ゲーム情報学研究会主催)には、ゲーム、音楽、CG、メーカー、大学、バーチャルリアリティ、インタラクティブ、アート、オンラインネットワーク、アニメーション、カラオケ、パーツなどのジャンルから150人以上が集まった。
ほとんどばらばらの人たちの集まりが、集団として機能するためには、共通の言葉を見いだすことが、きわめて重要な作業となる。「エンターテインメント」という言葉(ジャーゴン)さえ、業界が異なれば異なる意味を持っている。上は教授や部長/次長クラスから、下は学生までと年齢層も幅広いなかでは、「若い」という言葉さえ違った意味合いをもって響く。
笑う場所も違うし、ネクタイを着用するのかしないのかさえ違っている。「思ったよりラフな格好の方が多いんですね。私はスーツしか持ってこなかったんです」と参加者のひとりだった筑波大学大学院の高橋千春さんはつぶやいた。
人と人とのコミュニケーション、つまり交流こそが次世代のエンターテインメントを作り出すきっかけになる。セッションで発表をすれば、それをきっかけにして討論をすることができるようになるが、150人全員が発表するわけではない。
「こういうときにはなにかもってくると、話し始めるきっかけになります」と、人の顔や音声を認識するロボット「PaPeRo」を持ち込んだのは、NECデザインの吉川健一氏。静電容量を感知して音階とボリュームをコントロールして演奏するロシア生まれの楽器「テルミン」の独演会を行っていたのが、大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授。
依って立つところが違うので、共通の話題に出身地や学生時代の話が出ることもあった。が、セッションを経て夜遅くまで語り合ううちに、次第に参加者はひとつの話題に熱くなった。
1つの物語が生まれようとしていた。物事には、誕生の時がある。誕生の時にその場を共有することは、めったにできない体験だ。100人を乗せた船が、港を出るところだった。
人種が交わらないままに混在しているニューヨークは、「人種のるつぼ」ではなく、「文化のサラダボール」と形容される。何年もかけて、溶け合わないことが分かったためだ。
知らぬものばかりが集められて始まったエンターテインメント2003は、最初はサラダボール状態の異業種交流会状態だったが、いつのまにかその共通の話題を1つ、しっかりと生み出し、盛況のうちに幕を閉じた。溶けあって1つの目標を見いだしたのだ。
未来のエンターテインメント。
この物語が、やがては伝説となって、長く語り継がれるのかもしれない。
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[美崎薫, ITmedia]
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