News 2003年1月21日 08:40 AM 更新

ec2003レポート
感覚の交差点にあるもの〜「Rez」からの考察

リズムが生み出す高揚感。最も原初的な、しかしそれだけに力強いエンターテインメントの一形態だ。「Rez」の水口氏が、「感覚の交差点にあるもの」と題する講演を行った

 基調講演に続いて、UGA(United Game Artist)の水口哲也氏によって、「感覚の交差点にあるもの〜Rezからの考察」と題した講演が行われた。水口氏は、セガで、ラリーゲームのセガラリーやミュージカル仕立てなリズムアクションゲームの「スペースチャンネル5」をプロデュースしたプロデューサーである。現在は、UGAの代表取締役社長として、コンシューマー向け、携帯電話向けのゲームを作っている。


UGA(United Game Artist)の水口哲也氏

 「Rez」は、シューティングと破壊のサウンドが、鼓動のようなリズムを奏でるシューティングゲームである。

 「スペースインベーダーをプレイすると、自分のやっていた行為が、音楽に聞こえたんです。スペースインベーダー、ゼビウス、パンツァードラグーンなどを体験していくうちに感じた、『撃つ』という行為が楽器の演奏に置き換わったら、グルーブ感をもった音楽になったら、映像とひとつになったらどうなるのだろうかというところが、Rezのスタートでした」と語る。

 友人が持ってきたというアフリカのケニアで撮ったビデオには、酒場で人びとが音楽を奏で始め、それが次第にうねりになってまわりを巻き込んでいく様子が記録されていた。

 「音楽を楽しむという行為を人間は本能的にプリミティブにもっていると思います。コンサートやクラブに行くと、4、8、16というようにリズムをとっていきます。人間はそれを聞くと、高揚するんです」と水口氏は壇上でリズムをとる。

 シンプルな音とエフェクトだけなのに、次第に高揚してきて、気持ちよくなっていくのが実体験できる。

 「余計なエフェクトを排除し、“call & response”のくり返しで、別の音楽を呼んでくる。音と映像のシンクロニシティを作り出しました。途中でどうしてもなにかが足りないと思い、見つけ出したのが“振動”でした。振動が入ってくると、音と映像にかけ算が行われるのです」。

 リズム、すなわち振動は、人間を原初の体験に引き戻していく。遺伝子の記憶、羊水のなかの心臓の鼓動、生き残りをかけた精子の闘い。

 「Rezは、resoluteからつけた名前ですが、ゲームができてみると、人間をトランス状態に持ち込む方法を研究していたのだ、ということがわかりました。もっと売れてほしかったなぁと思うけれど、クリエイターとしては、作って楽しかったソフトです」と水口氏。

 ゲームセンターでギャラリーができ、そのなかで、芸術的で、ほとんどあり得ないようななめらかな動きをするゲーマーが出てきたときの興奮、一体感、胸のすくような快楽感を追求したのが、この「Rez」なのだと言ってよい。

 「バウハウスの創世者の一人、カンディンスキーは、音を聴きながらキャンパスに絵を描き続けたそうです。そこで、Rezを使ってライブもやってみました。通常、DJは、すでに作られた音源を使ってステージを作りますが、Rezを使ったときには、その場で音楽を作り出して流したことになります。会場では、そこでリアルタイムでやっているとは思っていなかったようです」。

 バウハウスは、1919〜1933年のドイツで起こった、「シンプルかつ機能的であることをよしとし、材質の特性を生かそうとした」(『バウハウスと茶の湯』、山脇道子)芸術運動である。新しい芸術的な運動を行うときに、しばしば引用されるものである。広い意味では、このエンターテインメント・コンピューティングも現代的なバウハウスといえるだろう。

 さて、しかしながらこのRezの試みは、興味深くはあるものの、ゲーム慣れしていないDJの場合には、十分音楽を作り出すところまでプレイできていないことも明らかだった。ゲームレベルが高すぎて、音楽を作り出すところまでたどり着かないのである。ゲームに真剣になると音楽性が疎外されてしまうのだ。

 会場でも水口氏の手ほどきによって、関西学院大学/ニルバーナテクノロジーの中津良平教授が体験してその模様がプロジェクターで投影され、DJの場合と同じシーンをデジャヴのように再現していた。


関西学院大学/ニルバーナテクノロジーの中津良平教授に手ほどきする水口氏。会場のRezプレイヤーからは「うらやまし〜」という声も

 水口氏によるプレイでは、音と色が交差するというシナスタジア(共感覚)を感じさせ「ノるんだなぁ」という一体感が感じられたが、このゲームに慣れていない中津教授の場合、当然そこまではいかない。中津教授自身の感想は「なかなかいい」ということだったが、ゲームと音楽を一体化するのにも、テクニックは必要なのだった。

 逆にいえば、音が人間に与える影響は大きいのであって、音楽を演奏するようにゲームを演じられれば、ギャラリーも盛り上がるというのは確かなところだ。

 先の中津教授の講演がマクロ的・総論的な話だったのに較べると、水口氏のほうはリズムに焦点を絞った、ミクロ的な視野の話であった。実際に市場で販売されるゲームは、比較的単純なアイデアをモチーフにしているものであって、それだけにミクロな部分の話がおもしろい。神はやはり細部に宿りたもうのだ。



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[美崎薫, ITmedia]

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