News 2003年1月21日 06:45 PM 更新

レーベルゲートCDの“次”を模索するSME

ネットワーク認証機能をサポートしたレーベルゲートCDを導入し、新たなパッケージメディアの姿を模索するソニー・ミュージックエンタテインメント。だが同社は、それだけにとどまらず、次の展開も模索しているという

 レーベルゲートCDを導入し、新しいCDの形を示したソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)。だが、ここで立ち止まっているわけではない。同社ではすでに次の展開も模索しているという。

廉価版や豪華版、付加価値をつけたCDの提供も…

 「なんでもかんでも売り上げが下がっている原因がCDバーニングだ、デジタルコピーに対抗しなくてはならないという具合になっているのは、逆におかしいと私は考えています。ルールをきちんと守って楽しむというユーザーもいるわけですから。もっと、自分たちも努力しないといけない。“ただプロテクトする”という方向だけではいけないのではないでしょうか」。

 レーベルゲートCDの導入を始めたSME広報室課長の井出靖氏は、同社のパッケージメディアの展開の仕方についてこう話す。同社のレーベルゲートCDは実際、この考え方に則したものといえる(別記事参照)。

 しかし、同社が考えているのはこれだけではない。SMEでは、次なる戦略として、価格戦略と豪華仕様など付加価値をつけたCDの販売も模索しているという。

 「実は、価格戦略という流れが1つあります。この前も『ベストバイプライス』というキャンペーン施策の中でCrystal Kayとかライムスターのアルバムを発売後2カ月、通常3000円ぐらいのものを2400円で提供するというテストを行ってみました。そしたら、やっぱり、お客様にもディーラーにも好評でした」(井出氏)。

 これはいうまでもなく、アルバムの適正価格を検討するためのもの。音楽CDは以前より、価格が高いのではないかという議論があった。特にDVD-Videoタイトルの価格と比較してしまうと、価格の高さは際立って見えてしまう。悪い言い方をすれば、「コピーを前提とした価格ではないのか」という見方すらあるぐらいだ。

 「アルバムの適正価格というのもどれぐらいが良いのかということを社内で検討しています。まだ、発表できませんが、大体中古市場やインディーズが2400円から2500円ぐらいですよね。そういうことろともバランスを取りながら、何度かテストを繰り返してみてやっていこうかなと思っています」。

 適正価格を検討しているのはアルバムだけではない。同社では、ZONEという人気アイドルグループの「証」というシングルで500円のロープライス版、1000円のレギュラー版、1400円の特殊パッケージの、差別化を図ったパッケージを準備し試験販売を行った。

 「ZONEというアーティストの属性からいって、特別仕様の1400円が一番売れるかなと予想したのですが、案の上、そうでした。ピクチャーCDだし、仕様もかっこよいからということもあると思うんですが、どうせ買うならという気分で1400円出してくれる人が意外といるということだと思います。まあ、3枚とも買ったという人が結構多かったんですけどね」と井出氏。

 ちなみに、次に売れたのは最も安い500円のもの。井出氏は、ユーザーアンケートの結果から、これを「そんなにZONEのファンじゃないんだけど、この曲が好きで買った人」と分析。「通常だったら、レンタルに流れるかもしれない人たちを含め、500円というワンコインだったら買っても良いなという層の人を掘り起こせている」と言う。

 井出氏はこの結果から、もちろん最終的な結論は出ていないとした上で「将来的には、1400円前後の特別仕様バージョン、つまり、豪華バージョンと500円かちょっと高くなるかもしれないけど楽曲だけというそういう2つの部分になっていくのかなと思っています」と感想を述べた。

値ごろ感は将来も重要なポイント

 あまり表立っては言われていないが、国内のレコード会社で問題視されていることの1つに、海外からの逆輸入をどうするかという点がある。特に近年では、アジアを中心に日本のアーティストの人気が高く、国内のレコード会社と現地のメーカーが契約を結び、国内と同じものが販売されていることが多い。

 「これもずっと以前からのテーマでして、日本のレコード会社は日本レコード協会を通じて、『輸入権』の確立というのを呼びかけているというか投げかけています。これは、法律の改正を伴いますので、そうそう簡単にはいきませんけども……」(井出氏)。

 現在のところ、表立って日本アーティストのCDの輸入販売を大々的に行っている業者はない。しかし、海外アーティストのアルバムの平行輸入品が安価に売られているのを見ても、これが邦楽CDに波及すれば現在の価格がいっぺんに破壊され、国内のレコード会社は大打撃を受けることになりかねない。

 井出氏は、こういった背景も踏まえ「色々なものがどんどん安くなってきているこの時代に、単純に値段を下げたからといって売れるわけではない、安くすることがすべてではないということは良くわかっている」としながらも、「結局、大前提にあるのは、やっぱりパッケージの値ごろ感ということ」と話す。

 そういう意味では、DVD-Videoタイトルの市場は、よくできている。というのは、DVD-Videoの価格は、特典も多く、コピーを禁止しているということを考慮しても確かに安い。実際、販売も好調だ。考え方を変えると、コピーできなくても、それを納得させるだけの価格設定なら、ユーザーがパッケージを購入するという1つの証明ともいえる。だが、音楽業界で同じことができるかと問われるとそれは簡単ではない。これは、業界の構造上の違いもあるからだ。

 「映画は、スキームが出来上がっていて、まず、興行があって、それからパッケージという構造があり、最終的にパッケージで元をとるという構造があるんです。しかし、音楽の場合は、コンサートがあってというわけではないですからね。やっぱり、まず、CDありきで、そこにはすごくお金がかかる」(井出氏)。

 とはいえ、時代は、変わってきている。「少子化で市場が小さくなっていて、なおかつ子供たちのポケットマネーがよく言われるように携帯電話だインターネットだ、ゲームだという方向に流れている。そういう時に“音楽を買う”という行為をもう少し買いやすくする努力をしていかないといけない」(同氏)。

 ただし、同社は、とにかく価格を安価にすればよいと考えているわけではない。というのも、「安くするから、じゃあ現場の音作りをチープしていいかというとそういうことは絶対にないからです」。

 加えて、井出氏は、「確かに僕たちもユーザーの側に立てば、価格が安いに越したことはない」としながらも、「逆にそこを追求しすぎると元のところが苦しくなってくるということもある。必要なところには十分お金をかけて、中間の製造工程とかそういうところで少しずつ少しずつコストを落としていくという努力をぎりぎりのところでやっています」。

 「今は、ナンバーワンではないかもしれませんが、やっぱり、私たちはリーディングカンパニーとして、プライスリーダーである立場は大事にしていかないといけない。CDのパッケージの値ごろ感を追求する。それも他社に追従するのではなく、私たちが先陣を切ってやっていかなければならないと思っています」(井出氏)。



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[北川達也, ITmedia]

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