News 2003年2月22日 08:28 AM 更新

コンピュータと通信の融合が生み出すもの――Gelsinger氏基調講演

通信とコンピュータの融合=コンバージェンスが生み出すものが、まったく新しいビジネスを生み出していき、社会を変える可能性がある。Intel CTOのPat Gelsinger氏はIDF2003最終日の基調講演でそう力説した

 近年、最終日の恒例となっているIntel上席副社長兼最高技術責任者のPat Gelsinger氏の基調講演が「Intel Developer Forum Spring 2003」でも行われた。ここ1年あまり、コンピューティング機能と通信機能を一つの半導体に融合していくことをテーマに同様の講演を行っているGelsinger氏の話は、その成果の最新状況を伝えるものであると同時に、機能を融合することの意味、そして社会への影響などについて語るものだった。


Intel最高技術責任者のPat Gelsinger氏

 通信機能が半導体の上に載ることで、通信機能に対してマイクロプロセッサにおけるムーアの法則と同様の発展を見込むことができる。これはGelsinger氏がかつて“ムーアの法則の拡張”と呼んだ論理である。

 また、コンピューティング機能と通信機能が同じチップに載ることで、新しいアプリケーションの開発が促進される。同氏はこれまで、半導体技術を光通信に応用したチュナブルレーザーやデジタルCMOS回路にワイヤレス機能を実装する技術などを紹介してきた。またGelsinger氏は、すべてのチップがワイヤレス機能を搭載することで、あらゆる場所、あらゆる使い方でチップ同氏がコミュニケーションし、あらゆる種類のネットワークと接続されるというビジョンも示している。

 今回の基調講演でもそれらに触れた上で、多少異なる視点でビジネスのチャンスについて語っている。それは技術の融合とはどういうことなのか、についてだ。異なる技術を結びつけることで、開発した本人は気付かない大きな技術革新をもたらすことがある。

 例えばかつて、「馬車の技術」と「動力機関の技術」を融合することで自動車が生まれた。Gelsinger氏は、こうした個々の技術が融合することを“マイクロコンバージェンス”と呼んだ。しかし自動車が改良されローコストになってくると、マイクロコンバージェンスによって生まれた新しい技術の周辺環境に影響を与え、さらに新しい技術へと発展する。

 例えば自動車の新しい使い方が生まれ、キャンピングカーなどが発生する。また新しいインフラが求められるようになり、高速道路や信号、ガソリンスタンドといった技術・産業が生まれる。新しいビジネスも登場し、自動車会社、レンタカー、中古車市場、運送業などが発生。さらには新しいルールや常識をも生み出すようになる。Gelsinger氏はこうしたマイクロコンバージェンスによって生み出される現象を、“マクロ”コンバージェンスと話した。そして、往々にしてマイクロコンバージェンスよりもマクロコンバージェンスの方が、社会への影響・貢献度は大きいものだ。

 つまりコンピューティング機能と通信機能のマイクロコンバージェンスが、多くのマクロコンバージェンスを生み出し、全く新しい市場を生み出す。


1つのマイクロコンバージェンスが、その周辺でマクロコンバージェンスし、多くの新しい市場を生み出す

 Gelsinger氏はその例として、GPSや802.11アクセスポイントの情報を用い、コンピュータ自身が自分の居場所を認識。ロケーションに合わせたサービスを受けるという、コンピューティング機能と通信機能のマイクロコンバージェンスが生むユーゼージモデルを挙げた。すでに携帯電話では実現されている機能だが、ロケーションセンシティブな使い方は今後も大きな可能性を持っている。

 Gelsinger氏は以前、センサー同士がアドホックに接続し、ネットワークを通じて情報を伝達して活用するセンサーコンピューティングについて話したことがあるが、それがヘルスケアや医療の分野で新しい可能性を生み出していると指摘する。

 Intelのプロアクティブヘルス開発チームは、家中にセンサーネットワークを張り巡らせ、老人介護において患者の危険を予防したり、介護する家族の負担を減らしたりすることが可能かを研究しているという。

 例えば、いつもなら何事もなくこなしている作業に、急に時間がかかるようになってくると、老化による何らかの変調(痴呆症など)が発生しているのかもしれない。痴呆症にかかっている親に、必要な薬を決まった時間に飲ませるため、そのときにいる部屋のテレビに薬を飲むよう促すメッセージを出すといったこともできるだろう。

 また体調管理などにも応用していけば、予防医学を応用して病気が進行する前に重大な疾患を発見し、早期治療に役立てることができるはずだ。センサーからの情報を収集し、顧客に適切な医療アドバイスを行うといった、新しいネットワークビジネスを生み出す可能性もある。コンピューティング機能と通信機能のマイクロコンバージェンスが生み出したセンサーコンピューティングが、新しい使い方や新しいビジネスなどを生み出していく例と重なる。


PCとネットワークの融合も、さまざまな新しい技術、ビジネスを生み出した。そしてそれはまだ始まったばかり

 このほか、IntelではDNAやタンパク質構造を分析する診療装置に、半導体技術や半導体製造で培ったナノテクノロジを応用する研究も行っているという。研究所レベルでの半導体製造技術では、すでに30ナノメートルのトランジスタが製造されるようになっている。これは人のDNAよりも小さい。

 最後にGelsinger氏は、Intelの役割はマイクロコンバージェンスを推進していくことだと話した。Intelが半導体分野で続けるマイクロコンバージェンスの周辺には、新しい使い方、新しいインフラ、新しいビジネスモデル、そして新しい使い方や常識がマクロコンバージェンスにより生まれる。そこにこそ、新しいビジネスチャンスがあるというわけだ。そしてその先、チャンスをモノにできるかどうかは、個々の姿勢が決めることだろう。

 PC業界の牽引車となってきたIntelだが、近年はPCビジネスの閉塞感を隠しきれなかった。しかしPC業界の盟主たるIntelが、コンピューティング機能と通信機能の融合に本気を出している。いつまでもPCというカテゴリにこだわるのではなく、マクロコンバージェンスで何が変わるのかを予測し、的確にニーズを捉えた製品やサービスを考えていく必要がある。そこにこそ、本当のビジネスチャンスがあるはずだ。

関連リンク
▼ 特集:Intel Developer Forum Spring 2003

[本田雅一, ITmedia]

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