News:アンカーデスク 2003年3月3日 03:44 PM 更新

音楽業界に喝を入れる「DVDミュージック」の正体(1/2)

日本レコード協会が27日に発表した「DVDミュージック」は、DVDメディアの持つ多くの可能性を示唆している。あまり知られていないこの規格の“意義”と生い立ちを紹介しよう
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 2月27日、社団法人 日本レコード協会は、新しい音楽ソフトパッケージ「DVDミュージック」の仕様とマーケティングロゴを発表した。仕様の細かい点についてはまだ一般には明らかになっていないが、このようなアプローチはDVDメディアの持つ多くの可能性を示唆している。

 「DVDミュージック」とは実に抽象的な名称だが、これはミュージッククリップをDVDにしたものでもなければ、DVD-Audioでもない。DVD-Videoフォーマットに、リニアPCMなどの音楽データと静止画を収録する方法である。

 もう少し具体的に言うと、静止画をビデオストリームにして、それに音楽のオーディオストリームをマルチプレクスし、DVD-Videoとしてオーサリングしたものだ。早い話が「普通のDVD-Videoの絵が動かない版」である。

 このDVDミュージックの圧倒的なメリットは、普通のDVDプレーヤーで再生できるという点にある。しかも量子化bit数は24bit、サンプリング周波数は48kHzと、現状の音楽CDよりも高品質なオーディオ再生が見込める(ちなみに音楽CDは、量子化16bit、サンプリング周波数44.1kHz)。

 次世代オーディオメディアと言われるDVD-AudioやSuper Audio CDはさらに高スペックだが、再生には専用プレーヤーが必要になるほか、再生クオリティに応じてオーディオシステム全体の見直しを図る必要がある。

 しかしDVDミュージックぐらいのスペックアップであれば、それほど全力で気合い入れる必要もなく、現状のDVD-Video再生環境で十分だ。パソコンは言うに及ばず、DVD-Video再生が可能なDVDカーナビも普及しており、再生環境はかなり潤沢にあると言える。

 さらにメディア容量を活かして現行のCDを6〜7枚分の収録が可能だし、静止画であればジャケットやアーティストのスナップ、資料などを盛り込むことができるため、付加価値を付けやすい。

 最近日本の音楽シーンでは、ベストアルバムやコンピレーションもののなどの売り上げが急増しているが、このような音楽企画ものの入れ物としては格好の素材である。

 いいことずくめに思えるDVDミュージックだが、このような試みは、突然現われたものではない。筆者がこのような方法の存在を知ったのは、おそらく2001年の夏頃であったろう。

DVDミュージックの雛形

 その当時筆者は、このZDNetでもおなじみの北川達也氏と共著で、書籍では業界初となったDVD-Video作成本を上梓したばかりであった。ちょうどその頃、パイオニアからFor Generalのドライブとして「DVR-A03-J」が発売されることになり、この本を製品にバンドルできないか、という話が持ち上がっていた。

 そこでまあ一度会ってお話をしといた方がいいだろうということになり、北川氏と私、そして出版社より編集担当者と営業がパイオニアの大森営業所におじゃました。そこでお会いしたのが、ビジネスシステム事業部副参事の鳴海 伊知郎氏であった。

 鳴海氏は一目見ただけでわかる、型破りなタイプの人物だ。べらんめえ調でざっくばらんに本音を語る人柄の中に、誠実さを感じさせる。当時鳴海氏は、記録型DVDメディアをCD-R並み普及させるべく、いろいろ苦心されていた。

 その中で、さまざまなな利用法の中からテスト的に作成してみた、というものの1つが、「DVD-Video Audio」というものであった。音楽をDVD-Videoとして記録するというこの方法は、今にして思えばまさに記録型の「DVDミュージック」ともいうべき仕様だったのである。

 当時はDVD-Videoは映像コンテンツ、DVD-Audioは音楽コンテンツと棲み分けを明確化して、なかなか立ち上がらないDVD-Audioをなんとかしようとしていた時代だ。「DVD-Video Audio」の考え方はかなり先進的であったが、同時にかなり異端でもあった。

 鳴海氏はこの方式を、記録型DVDメディアの利用法として各方面に提案されていた。例えば車の中で音楽を聴く場合、多くの人はCDをそのまま聞くか、CDチェンジャーを積んだりしている。また一部ではMP3の再生が可能なカーオーディオも人気のようである。鳴海氏が特にこの方式のメリットを見いだしていたのは、パイオニアの得意分野であるDVDカーナビのドライブを利用して音楽を再生する方法だった。これならCDチェンジャー組がDVDカーナビ導入を検討し始めるだろうし、メディアも普及する。

 基本的には記録型DVDの普及が目的であるから、この「DVD-Video Audio」は自分で簡単に作れなければならない。しかし音楽CD6〜7枚分ともなると、70〜80個のクリップができあがることになる。映像用のオーサリングソフトを使って、1曲ずつコツコツとリンクを張って行かなければならないため、作成は大変な手間であるのが鳴海氏の悩みであった。

[小寺信良, ITmedia]

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