News:アンカーデスク | 2003年3月3日 03:45 PM 更新 |
そこで鳴海氏は、各ライティングメーカーにこの「DVD-Video Audio」を簡単に作れるようなオーサリングツールの開発を呼びかけた。しかしこの先進性を理解したメーカーは少なかった。唯一それに応えたのが、アプリックス WinCDR 7.0 ULTIMATE DVDであった。
WinCDR 7.0 ULTIMATE DVDには、オーサリングソフトが同梱されている。そのオーサリングパターンの最後にオーディオを長時間再生できる「Jukebox DVD」というのが、いわゆる「DVD-Video Audio」なのである。全部のオーサリングソフトを調べたわけではないので確信はないが、筆者の知る限り、おそらく現在でもこの機能を持っているのはWinCDR 7.0 ULTIMATE DVDだけだと思う(3月4日追記 「DVD-Video Audio」を作成できるソフトウェアは、他にもあった。デジオンの 「DigiOnAudio」である。同ソフトはDVD-Audio作成ソフトだが、DVD-Videoフォーマットへの音楽書き込みもサポートしている)。
USで広まるDVDハイブリッド
基本的にDVDというメディアには、CDのように用途別に分かれたフォーマットがない。特定のフォルダにコンテンツを入れておけば、あとは再生側が勝手にそれを見つけて再生するというのが根本的な発想である。これを推し進めれば、1枚のディスクに複数のスタイルのオーディオコンテンツが収録されているという製品はあってしかるべきだ。
今筆者の手元には、今年の初めにUSで買ってきたDVD Audioが数枚ある。その中の一つ、Queenの「A Night at the opera」は名曲「ボヘミアン ラプソディ」を含む名盤だが、このディスクにはDVD-Audio以外にもDVD-Videoのオーディオとしても収録されているため、普通のDVDプレーヤーでも再生できる。
しかもDVD-Videoのオーディオトラックは、新たに5.1chにリミックスされたものがdtsエンコードで収録されている。単に2chのままではいくら音質が良くなっても劇的な音の分解能は見込めないが、各楽器やコーラスパートを5.1chに振り分けることで、驚くべき分解能を発揮する。このアルバムは筆者が中学生のころから機会があるごとに聴いており、今でもアルバムの最初から最後までソラで頭の中で鳴らせるほどに聞き込んだものだが、それでも初めての発見が多数あったほどである。映像のほうは、曲ごとに歌詞が表示される。
Gary Numanの「Anthology」も、DVD-AudioとともにDVD-Videoのオーディオが収録されている。こちらはdtsではなく、ドルビーデジタルによる5.1chサラウンドオーディオが収録されている。曲ごとにアーティストの写真が変わっていくので、モニタを付けていればそれなりにBGVの役割もある。
これらのDVDは、なにも特別なところで買ったわけではない。BestBuyという、日本で言うならばヨドバシカメラやビックカメラに相当するPC/家電量販店でDVDと一緒に売られている。特になんの注意書きもなく普通に売られているところから見れば、USではそれなりに存在が知られているようだ。名盤をもう一度このような形で聞くことができるのであれば、リスナーとしても歓迎したい。
国内の動きに目を移すと、すでに昨年(2002年)11月、東芝EMIから「DVD VIDEO SOUND」として同様の方式によるシングルDVDが発売されたことがある。しかしその後、話題になったり流行っているような話も聞かないので、やはり今回の「DVDミュージック」のようなロゴなどを決めて、積極的にプロモーションに努めるべきなのだろう。
最後に……
今後日本において「DVDミュージック」という単語がどのぐらい認知されるかわからないが、その基礎を築いた功労者として、鳴海氏の存在は決して小さくなかったことだろう。
しかし残念ながら鳴海氏は今回のDVDミュージックの発表を知ることなく、今年1月4日午前10時50分、46歳の若さで急逝された。永らく肺を患われ、入院生活を余儀なくされていらっしゃったが、ようやく自宅療養へ移った矢先のことであった。
筆者はそのとき既にCESの取材で日本を離れていたため、告別式に参列することは叶わなかったが、今後DVDミュージックという名前を聞くたびに鳴海氏のことを思い出すことだろう。この文章は、そんな氏の功績に対して捧げるものである。
読者諸氏も、DVD-Videoで作られたオーディオコンテンツを聴くたび、それを考え、広めようとした人がいたことを、ぼんやりでも思い出していただければ幸いである。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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