News | 2003年3月6日 04:12 PM 更新 |
1つのものに徹底的に集中するのではなく、いろいろなものをつまみ食いする文化は、「ザッピング文化」として、最近の消費生活を象徴する言葉ともなっている。最近では、本も映画もマンガも音楽も、ナンバーワンのものだけが売れる、という傾向が出ているという。よいところだけをつまみ食いして、流行に乗るのだ。
音楽ではその傾向が、さらに顕著になっている。新曲は、テレビドラマとのタイアップで売り上げを伸ばす。ドラマでは、通常3−5分の音楽のうち、1分だけを切り出して主題歌とする。
CDもリモコンで容易に曲を飛ばせるようになった。TBSの有名番組である「カウントダウンTV(CDTV)」でサビだけが紹介されたり、CMやDJや着メロとして消費されて、この傾向には拍車がかかった。いつのまにか、音楽は「サビ」だけを楽しむようになってしまったのだ。
時間をあやつる「SmartMusicKIOSK」登場
インタラクション2003の初日、2003年2月27日の最初のセッションでは、このサビに注目してベストペーパー賞を受けたインタフェースが提案された。科学技術振興事業団さきがけ研究21/産業技術総合研究所の後藤真孝氏による「SmartMusicKIOSK:サビ出し機能付き音楽試聴機」だ。
音楽は時間的な芸術だといわれる。
その一方で、モーツァルトは曲のすべてを一度に思い浮かべ、あとはそれを楽譜に書き写すだけで作曲した、ともいわれる。だから、モーツァルトの書いた楽譜には、書き間違いがなかったのだとか。
もともとモーツァルトの頭のなかで楽曲すべてが2次元的に見えていたのだとしたら、既存の楽曲であっても、それを2次元的に解析して見ることができれば、モーツァルトのように、「天才」にしか見えなかった世界を見ることができるようになるのかもしれない。従来の音楽の聴き方とは異なる聴き方ができるようになることは間違いない。
実際、音楽、特にポピュラー音楽には、はっきりとした構造があり、それを知っているか知らないかでは、音楽の聴き方が違うといっても過言ではないくらいだ。
簡単にいえば、現在のポピュラー音楽の大半は、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Aメロ、Bメロ、サビ、サビという構造をもっている。音楽は時間的な芸術であるから、曲のすべてを堪能するためには、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Aメロ、Bメロ、サビ、サビと聴く必要がある、と考えられている。これは伝統的な考え方である。
作る立場で聴いてみる
作る立場やモーツァルト的な立場から音楽を見ると、少し事情は変わって見えてくる。ポップス音楽の大半は、サビを中心に作られているし、あらゆるシーンで、サビだけを抜き出して使われている。とすれば、その曲の構造を分析して、サビだけを抜き出して聴けてもよい、というのが、「SmartMusicKIOSK」のキモとなるアイデアだ。
CD販売店での試聴コーナーなどでは、この「抜き出して聴く」傾向は顕著で、サビ部分まで早送りして聴いたり、バラードや直感的に気に入らない曲は飛ばして聴いたりする。「音楽を試聴するとき、人はせっかちになる」と、後藤氏はいう。
音楽を試聴しているときには、短時間で気に入った曲かどうかを聴き分ける必要がある。そのため、試聴時には、早送りボタンや曲のジャンプボタンを利用するのだ。
構造解析という音楽の「地図」
CDの音楽から、曲の構造を解析でき、その解析結果に従って曲を聴くことができたら、「サビだけ」とか「1番だけ」のように抜き出して聴くことができるようになる。
ちょうどこれは、カーナビを使ってドライブを楽しむのに似ている(*1)。ドライブはカーナビがあることで、「迷う」という心配はなくなってしまった。伝統的でヘビーなドライバーからは軟弱に見えるかもしれないが、大多数の軟弱なドライバーにとっては、カーナビは「ちょっとだけ得する」スーパーツールだ。軟弱なユーザーが、少しだけ得をして、いろいろな可能性を開花させられる。それがこうしたツールのよいところで、SmartMusicKIOSKにも、同種の香りがする。
音楽の「地図」を使いながら音楽を聴くと、音楽のもっていた別の側面が見えてくる。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Aメロ、Bメロ、サビ、サビというような構造や、伴奏の変化、転調などについて、分析的に聴くようになるのだ。
MP3などの普及によって、一般にCD店の店頭や音楽Webサイトなどで、さまざまな楽曲を試聴できるようになってきた。だが、これらはたいてい先頭から40秒程度が収録されているだけで、全体を聴くことができない。
[美崎薫, ITmedia]
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