News:アンカーデスク | 2003年3月14日 00:07 AM 更新 |
PC業界の“良い部分”をデジカメ業界に
ニューコアテクノロジーの共同設立者で現副社長の國土晋吾氏は「われわれは設立した当初から、顧客の中核技術を無意味化する技術にはしないことを意識して製品を開発してきた」と話す。
ここで言う顧客の中核技術とは、写真やビデオの色や絵作りといった部分である。高品質のチップやツール群を提供することで、高画質な絵作りを行うための環境や道具を用意はするが、それを使って料理(絵作り)するのは各ベンダーに任せるというスタンスだ。
ニューコアテクノロジーのチップは、非常に柔軟なプログラマビリティを持ち、ツールキットでパラメータを変更するだけで実に簡単に、生成する絵の画質を調整することができる。その柔軟性が非常に高いため、組み込んでポンと出来上がる簡便さはないものの、使い方次第でメーカーごとの味を演出できる。
もう少し一般化して話をすれば、メーカーが自身の存在意義を主張できる領域を絶対に侵さないことが、ニューコアテクノロジーのポリシーというわけだ。なぜそのポリシーが重要なのかは、PC業界の現状を当てはめてみるとよくわかる。
PC業界はさまざまなコンポーネントを標準化し続けてきたが、その結果、プラットフォームを提供するベンダーにしか旨味のない市場になってしまった。ベンダーごとの差別化を行おうにも、すぐにコンポーネントの組み合わせで似た機能が提供できるようになる。こうなってくると、メーカーは差別化を行う努力そのものを無駄と感じるようになってしまう。
もちろん、デザインや使い勝手などで差別化はできるかもしれないが、ユーザーの期待するPCの本質的機能や性能とはやや外れたところでの勝負を余儀なくされる。
デジタルカメラの世界には、そうしたハードウェアベンダーの努力を虚しくする手法を持ち込まないという意志が、ニューコアテクノロジーに感じられるのは、おそらく彼らがx86のビジネスをよく知っているからだろう。國土氏はインテルに14年間も勤めていた人物で、冒頭の和田氏やChapman氏もまた、過去の経歴を遡ると、その源流にはインテルがある。
しかし一方で、インテルの良い部分は積極的に取り入れている。
インテルが業界で成功した理由のひとつは、開発のためのツールやペリフェラルをきちんと用意し、顧客がインテルのチップを自社製品にインテグレートする手助けを行うサポート部隊を徹底して強化したことにある。ニューコアテクノロジーも、全く同じ点に力を入れている。
もうひとつは、閉鎖的でメーカー内に完結していた開発プロセスに、オープンな仕様のビルディングブロックを提供する、インテルスタイルのビジネスを持ち込んだことだ。映像処理プロセッサに何十億もの開発費をかけなくとも、ニューコアテクノロジーの製品を購入すれば、もっとも進んでいると言われるキヤノン、富士フイルム、ソニーの映像処理プロセッサと肩を並べ、部分的には超えられるだけのエンジンを入手できる。
製品開発サイクルの短いデジタルカメラでは、ひとつの映像処理プロセッサを開発すると、そのコストを回収するために相当な数を販売しなければならない。そうしたリスクを拝上しつつ、他社に対して競争力の高い製品を作るために、高品質の業界標準“ビルディングブロック”は不可欠な存在だ。
PC業界の良いところと悪いところ。両方を持ち、ビジネスのパートナーとしてつきあえる。ニューコアテクノロジーの良さはそんなところにあるのかもしれない。
日本語だけで製品開発できるんです
ところで、冒頭の和田氏がニューコアテクノロジーに移籍するという話は、この業界ではちょっとした話題になった。
今までプロセッサ畑だった和田氏に、どういう心境の変化があったのだろう。その心中には「日本でやる、日本の半導体ビジネス」とも言うべき構想があったようだ。余談ではあるが、簡単に触れていこう。
デジタルカメラ業界はPCとは異なり、まだプラットフォームの支配者がいない世界だ。そして、その市場では多くの日本企業が活躍している。レンズ、イメージセンサー、メモリストレージといった要素に加え、製品パッケージとしての“より良いカメラ”を作るノウハウも、日本企業が得意とするところ。
和田氏は以前、サイリックス日本法人を設立した頃に「日本のメーカーが、日本語だけで物作りを行えるようにしたいね」なんて話をしていたことがある。ニューコアテクノロジーは、米国と日本で同時に設立された半導体ベンチャー企業だが、その創業は國土氏と同社CTOの渡辺誠一郎氏による純然たる日本企業だ。
つまりニューコアテクノロジーが半導体企業として、デジタルカメラの核となるビルディングブロックを提供し、日本のカメラベンダーが自身の蓄積したノウハウを活かしながらカメラを開発する。日本だけの技術で完結しつつ、アメリカ的合理主義の業界構造を持つ世界が、ニューコアテクノロジーの目指すところに見え隠れする。
「英語の資料なんか読まなくても、日本語だけで完全な製品開発を行えるんですよ。こんな環境は、今までのPC業界にはなかった」。
「なぜニューコアの社長になったの?」という質問に、和田氏は明快にこう答えた。
[本田雅一, ITmedia]
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