News:アンカーデスク | 2003年4月21日 01:58 PM 更新 |
デスバレーというのは本当にナンにもない。かつて海だったところがアメリカ大陸創世記に内陸に閉じこめられ干上がったところで、見渡す限り、塩の平原である。そらあ、あんた、こんなところを幌馬車で横断しようなんつったら、死にもしようってなところだ。海抜はゼロメートル以下で、マイナス85メートル。全米で一番高度が低いところだそうで、ココに立つと文字通り全米一最低な男になるわけだ。
そしてこんなへんぴなところまで来ても、衛星ラジオは途切れることなくガンガンに鳴り続けてくれるのである。よく日本でFMを聞いてると、どこかのトラックのアンチャンの違法無線が強烈に飛び込んできたり、山陰で聞こえなくなったりするものだが、そんな不都合は全くない。
ただしトンネルや地下の駐車場に入ると、さすがに聞こえなくなる。これも徐々にノイズが入っていって聞こえなくなるというアナログ的な感じではなく、突然パッタリと聞こえなくなる。
しかし空が見えなくなってすぐ聞こえなくなるのではなく、3秒ぐらいはそのまま鳴り続けている。どうも障害物で受信断があった時のために、3秒ぐらいのバッファがあるようだ。また天井はふさがっていても、側面が開いているようなところでは普通に聞こえる。反射波でも結構大丈夫なようだ。
衛星ラジオは、AAC(Advanced Audio Coding)を使ってエンコードされている。AACはMPEG-2のオーディオ技術の中核を成す技術で、低ビットレートでもかなりの高音質が期待できる。だが後で衛星ラジオのチューナーを付けた場合、FMの空きチャンネルに電波を飛ばしてカーオーディオで聞く、というスタイルを取るため、音質は受信状態のいいFMと同程度になってしまうのが残念と言えば残念だ。ダイレクトで聞けばそれなりに聞き応えもあるのだろう。
日本でも来年スタート
聴きながらふと思ったのだが、Siriusの放送は、CMなしで延々音楽を流し続けている。いったい収支モデルはどうなっているのだろう。実はSiriusもXMも、チューナーを購入時に月額で受信料を払うという契約を結ぶ。Siriusは月額12.95ドル、XMは9.95ドルだそうだ。カーラジオに対してこれを高いと思うか安いと思うかは、車に乗っている時間次第ということになる。
だがCESで見たXMラジオのチューナーユニットは、車から取り外して自宅でもラジオとして聴けるようになっていた。これならば月額分を存分に楽しむことができるので、音楽好きの人にはそれほど高くはないだろう。
インターネットラジオでも同程度の有料サービスはあるが、現時点では衛星ラジオのほうが音質的に優れている。なにしろ雰囲気ぶちこわしのCMや、愚にもつかぬことを喋り続けるDJを聴かなくていいという放送は新鮮だ。これだったら12.95ドル払ってもいいかな、と思わせる。
またよくよく考えてみれば当たり前だが、衛星ラジオは自動車メーカーと密接に結びついている。SiriusはFord系、XMはGM系だ。HertzレンタカーはFord系列なので、Siriusが付いていた、というわけだ。
ちなみに車のキーには、Siriusへの入会問い合わせの電話番号のタグが付いていた。レンタカーで聴いて気に入ったから自分の車にも付けよう、と思った人を確実にゲットする作戦らしい。このあたりの抜け目のなさに、USのビジネスを感じさせる。
ではこんな面白いサービス、日本ではやらないの? と思った人もいるだろう。
実は来年、日本でも衛星ラジオがスタートする。「モバイル放送」と呼ばれる移動体向け衛星放送事業がそれだ。事業計画によれば今年の10月に衛星打ち上げ、サービス開始は2004年春となっている。
東芝が中心となって行なうこの事業では、ラジオだけでなく映像やデータ送信もやるようだ。自動車産業からはトヨタとダイハツが出資会社に名を連ねている。来年春以降に発売される新車には、このチューナーが搭載されることになるのかもしれない。
ただし打ち上げるのは静止衛星1機だけなので、衛星だけで日本全国をカバーするのは難しいと言われている。ではそれをどうカバーするかというと、地上に「ギャップフィラー」と言われるリピータみたいなものを設置して回るのだそうだ。
なんだかケータイのサービスエリア拡大みたいな話で、衛星事業の持つダイナミックさというかゴージャスさが失われていきなりセコくなる感じだが、まあ人工衛星も安いもんじゃないのでしょうがないところだろう。
モバイル放送では今のところ、月額1000−3000円という料金体系を予定しているようだ。しかしなんぼなんでも3000円は高いだろう。1500円ぐらいのところに落ち着けば、まあ現実的かなと思う。
個人的には、人件費や設備投資がかかる映像やデータサービスはやめて、XMやSiriusのようにお金のかからないラジオ事業に集中するのが賢いやり方なんじゃないかと思う。
同時に事業収入として広告収入も計画しているようだが、ユーザーにしてみれば、金払った挙げ句、コマーシャルを聴かされるようなサービスだったらたまらない。
このあたりは、今やセールスマンの口を挟む洗濯バサミをお金で買う時代になったのだ、ということをしっかり認識して、ユーザー側が対価に相当するサービスをきちんと求めていく姿勢が必要だ。また放送事業者も、広告収入に頼り切った収支モデルから一刻も早い脱却が必要だろう。だから当面は、なるべくお金かかんないラジオだけにしとけヨって言ってるのである。
地上波デジタルの陰に隠れがちなこのモバイル放送だが、これにわざわざ金を払ってやろうという物好きを確実にゲットできるニッチなコンテンツがどれぐらい潤沢に用意できるかが、成功の鍵となるに違いない。
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