News 2003年4月25日 00:11 AM 更新

注目は“フレキシブル有機EL”や“RFID”――「東京国際ブックフェア2003」

東京国際ブックフェア2003の「デジタルパブリッシングフェア」では、電子ブックリーダーなどへの利用が期待されるフレキシブル有機ELパネルや、書籍の流通・在庫管理の効率化から読者サービスまで応用可能な無線ICタグなど、出版関連のデジタル化に関する最新技術・サービスが集まった

 「東京国際ブックフェア2003」が4月24日から東京ビッグサイトで始まった。「デジタルパブリッシングフェア」のフロアでは、出版関連のデジタル化に関する最新の技術・サービスが集まっている。


出版関連のデジタル化に関する最新技術やサービスが集まった「デジタルパブリッシングフェア」のフロア

 電子書籍の分野で注目されているテクノロジーが、“紙”と“電子ディスプレイ”の良さをあわせ持つ次世代の表示媒体「電子ペーパー」。E-Inkと共同で電子ペーパーの開発を進める凸版印刷は、昨年のブックフェアでは、E-Ink方式の電子ペーパーを大々的にアピールしていたが、今年は以前から紹介していた電子ブックリーダーのみとやや寂しい展示。それでも会場での関心は高く、実用化の時期や用途、価格などを質問する来場者の姿が見られた。


凸版印刷の電子ペーパーへの関心は高い

 その電子ペーパーの強力なライバルが「有機EL」。大日本印刷(DNP)のブースでは、曲げたり丸めたりできるフレキシブルタイプの有機ELパネルを展示。書籍の帯や電車の中吊りPOP向けの発光型ポスターというカタチで紹介していた。「開発中のフレキシブル有機ELを使って、このような実用的な提案を行ったのは今回が初めて」(DNP)。


大日本印刷が開発を進めるフレキシブル有機EL。薄型で曲げられるため、電車の中吊りポスターに埋め込むことも可能

 DNPが開発を進める有機ELは、高分子材料を使ってフィルム基板にグラビア印刷という印刷法で有機材料を塗布する。ガラス基板に真空蒸着する従来の有機ELに比べて、大幅な低コスト化を図れるのが特徴だ。「われわれは印刷会社なので、有機ELをいかに安く作るかということを研究テーマとしている」(DNP)。


 だが現状では、高分子有機材料が高価で寿命も短く、水蒸気や酸素を防ぐフィルムの開発など課題も多い。「現時点では大量生産によるコストメリットがまだないため、当面は限定された場所でのアイキャッチ効果を狙ったスキマ市場を狙っていく。今回紹介しているようなPOP用途では、来年から商品化を開始する予定。だが最終的には、電子ブックで使うような本格的なディスプレイを目指している」(DNP)。

流通・在庫管理の効率化から読者サービスまで――出版業界で期待の無線ICタグ

 無線ICタグ(RFID)を用いて製品を個体レベルで識別し、商品1点1点に個別のコードを割り振ることができるスマートタグ認証システムが出版業界でも注目されている。DNPのブースでは、RFIDを使った出版業界向けソリューションを展示していた。


書籍に張り付けられたRFID。実際には背表紙に埋め込むといったことも可能

 DNPは今回のブックフェアに向け、NTTやサン・マイクロシステムズと共同でRFIDを利用した出版業界向けテストシステムを開発。出版社/取次会社/書店/家庭のそれぞれに設置されたRFID用リーダで書籍1点1点の動きをトラッキングし、ネットワークを経由してデータベースに集約するシステムの仕組みをデモを交えて紹介していた。

 テストシステムでは、ePC(electronic Product Code)と呼ばれるRFIDを用いて商品管理を行うスマートタグ認証システム「Auto-ID」を採用。出版社や取次会社ではRFIDによって出荷検品作業が一瞬で終わったり、荷物の配送状況が常時モニタリングできるほか、書店では1冊レベルからの在庫管理がリアルタイムで行えるといったRFIDのメリットをアピールしていた。


出版社や取次会社ではRFIDによって出荷検品作業が一瞬で終わったり、荷物の配送状況が常時モニタリングできる

 「書店では、従来は年に数回程度しかできなかった棚卸し作業がリアルタイムでできるようになり、効率的な発注が行えるようになる。また、店内監視システムによって、万引きを防いだり、どの本がよく立ち読みされて(本棚から取られて)いるかもひと目で分かる。ユーザー側も表示機能が付いた小型リーダを本にかざすことで、本の概要や関連書籍の紹介といった情報を購入前に確認することも可能」(DNP)。


RFIDを使った店内監視システムで万引き防止や閲覧状況が分かる

 書籍がユーザーの手元に渡った後もRFIDは活躍する。書籍1冊ずつの固有情報を識別できるので、IDを登録することでさまざまな読者サービスに応用できるのだ。

 「例えば、PCにRFID用リーダを接続して本をかざすとインターネット上の購入者サイトに行けたり、PCを使った蔵書管理も可能になる。書籍の購入登録をしておけば、自宅にある本をモバイル機器を使って出先で読むといったサービスも考えられる。タグのIDを暗号化することで、読者のプライバシーも守れる」(DNP)。


PCにRFID用リーダを接続して本をかざすとインターネット上の購入者サイトに行けるといった読者サービスも

 現在数十円するRFIDのコストダウンや、読み取り精度の向上、書籍への装着方法といった技術的なものから、RFID用リーダなどインフラの整備まで、出版業界でのRFID導入に向けての課題は多い。

 「出版業界はこれまでIT化に対して消極的だった。だが近年は、ゆっくりだが着実にIT化に向かった取り組みが行われている。今回のテストシステムは直接的な販売を狙ったものではなく、RFIDのようなITシステムを業界としてどう生かしていくかといった議論を進めるための1つの手段として提示した。流通や在庫管理の効率化だけでなく、新しい読者サービスの可能性を秘めたRFIDを、業界全体で議論していきたい」(DNP)。

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[西坂真人, ITmedia]

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