News | 2003年5月12日 04:21 AM 更新 |
米国ルイジアナ州ニューオーリンズで先週開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2003」。その中で、おぼろげながらもLonghornの全体像が浮かび上がってきた。
Longhornの機能面での強化は非常に多岐にわたっているため、ニュース記事の中でそのすべてを伝えることはできない。しかし、全体的な傾向として、Windowsがこれまでに抱えてきた古いアーキテクチャを、次世代のPCを支えるに足りる新しいアーキテクチャへと、基盤の部分から作り替えようとしていることが挙げられる。
それはあらゆる部分に渡っており、周辺機器を支えるドライバモデルの作り替えであったり、Win32 APIのレガシー化だったりするわけだ。
その中でも今回は、グラフィックおよびディスプレイ周りの改善点に触れておきたい。
まず、既報のようにLonghornのグラフィック機能は、DirectX 9世代のGPUを前提としたアーキテクチャに切り替わる。これが第1のポイントだ。
従来のWin32アプリケーションが行っていたGDI APIはレガシーなものとなり、その処理はGPUのShaderが担当。1枚のポリゴンサーフェース上に張られたテクスチャバッファに描かれるようになる。
動画に関しても動画専用のサーフェースをグラフィックチップがサポートするのではなく、Pixel Shaderが解像度補間や、一部の動画アクセラレーション機能を担当することになる。OSがGPUに動画ストリームを与えると、GPUがShaderプログラムを割り当ててポリゴンの1つに動画テクスチャを張り付けるといった手順で処理が行われる。
Longhornが最終的に、ユーザーに対してどのような操作インタフェースを提供するかは決まっていないが、少なくともアーキテクチャ上、アプリケーションのウィンドウや動画は、3Dオブジェクトの1つとして、Longhornの画面内に存在することになる。
その結果……これが第2のポイントだが……、従来よりも自由度の高いGUIを構築できるようになる。
前述したようにMicrosoftは、最終的なウィンドウの振る舞いやシェルの仕様に関して何も決定していない。ウィンドウをドラッグすると、波打つようにはためきながらウィンドウが移動するというテクノロジーデモも行われていたが、これは単なる例にしか過ぎない。
以前から、Microsoftは研究所で3Dユーザーインタフェースに関して複数のプロジェクトを動かしているという。最終的にはパフォーマンスとのバランスを考慮して、ユーザーインタフェースの仕様が決定されるだろう。
例えば、ウィンドウやデスクトップを、3D空間に立て掛けておいたり、空間の中の壁に相当する部分をデスクトップに見立てて3D空間で切り替える。あるいは、ウィンドウの拡大・縮小を自由に行うといったデモが、これまでにも行われている。
同社は1999年頃のWinHECから、3DエンジンにAnisotropic Filterを搭載することを推奨していた。これは拡大・縮小時にも、可能な限り文字が読めるようにテクスチャフィルタの質を高める必要があるから、と当時Microsoftは話していた。そのころからはずいぶん時間が経過し、現在はほとんどのハードウェアでテクスチャフィルタの質が向上している。
しかし、Longhornの世代になると、もう一歩踏み込んで「文字の見やすさ、エッジのボケの少なさ」といったフィルタの“質”が、グラフィックチップに求められるようになるかもしれない。
さて、もう一つのポイントに話を移そう。第3のポイントは、やっと96dpiの呪縛から逃れられるということだ。
Longhorn向けの新しいAPIに対応した新しいアプリケーションは、すべて画面の論理解像度に対してスケーリングするようにプログラムされる。これに対して、レガシーのWin32アプリケーションは、そのようなスケーリングを行えないが、レガシーアプリケーションに対してはWindowsが拡大処理を行うことで対応する。
レガシーアプリケーションは画面が96dpi(Windowsのデフォルト論理解像度。CRTのビーム収束径の限界が100dpi前後であることから、この値が決められている)のつもりで描画を行う。Longhornはそのウィンドウが割り当てているポリゴンを拡大表示させることで、200ppi以上といった超高精細液晶ディスプレイでも問題なく使えるようにするわけだ。
MicrosoftはLonghorn用のディスプレイとして、120dpi以上を推奨するという。実際にデモンストレーションでも、IBMの920万画素ディスプレイ(QUXGA-W、ワイドUXGAの4倍の画素数で202ppi)で、問題なくアプリケーションが使えるところを見せていた。CRTよりも高精細化が可能という液晶ディスプレイのメリットを、やっと活かせる環境が生まれることになる。
最後、4つ目のポイントは、カラー管理がきちんと行われるようになることである。
Windowsはこれまでも、すべてのカラーオブジェクトをsRGBとする簡易的なカラーマッチングとし、その上でプロ向けにはICMへ対応していた。しかし、その機能性は十分なものとは言えなかった。
複数モニタを使った場合、ひとつしかカラー管理を行えない。アプリケーションと各カラーデバイスとの間は8ビットの色深度に限られる。Windowsのシェルや標準アクセサリでさえICMに対応した表示を行わない。プリンタに対して用紙ごとのカラープロファイルを与えられない――など、指摘し始めると切りがないほど、Windowsのカラー管理機能は散々なものだった。
しかし昨年のWinHECの記事でレポートしたように、LonghornではscRGBという各色16ビットで、現在使われているほとんどのRGB色空間をカバーできる、新しい色空間をOSの標準として採用した。
その上で、すべてのカラーオブジェクトに、色に関するコンテキスト情報を持たせる。ここでいうカラーオブジェクトとは、プリンタ、スキャナ、ディスプレイといったハードウェアだけではなく、Windows上で扱われるビットマップ、ベクトルなど、あらゆるカラーを含むデータは、それぞれの色に関する履歴書を持つことになる。
またLonghornの新しいAPIで書かれたアプリケーションは、そのすべてがカラー管理機能に対応した表示になるという。レガシーのアプリケーションは、カラーコンテキスト情報を持たないわけだが、その場合はsRGBと見なして動作することになるようだ。
カラー管理に関する詳細は、10月開催のProfessional Developers Conferenceで明らかになるようだが、先日お伝えしたNMビジュアルの広色域液晶ディスプレイも、Longhorn環境下ならば、その能力をいかんなく発揮させることができるだろう。同じようなチャンスは、他の液晶ディスプレイベンダー、プリンタベンダー、スキャナベンダーなど、あらゆるカラーデバイスの企業に生まれるはずだ。
WinHECでアナウンスされたすべての機能が、最終的にLonghornに実装されるかどうかは分からない(過去、WinHECでアナウンスされ、開発の遅れから落とされた機能は数多く存在するからだ)。
だが、これら4つのポイントを見るだけでも、Microsoftが本気で従来のWindowsを一度分解し、再構成しようとしているのが分かる。
[本田雅一, ITmedia]
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