News 2003年5月27日 06:22 PM 更新

オープンハウスで日本の「情報学」最先端研究に遭遇する

「情報学とは情報に関する広範な研究領域に総合的に関わる学術」。情報処理とも情報システムとも違う、実に大きな、ある意味わかりにくいジャンル。国家が進める情報学の内容を広く知ってもらうイベント「オープンハウス」でその最先端研究に触れてきた

 国立情報学研究所(NII)は、5月27日に「国立情報学研究所オープンハウス」を開催した。これは、同研究所が行っている研究の成果や内容を、一般に公開するセミナーイベント。講演プログラムとブース展示で構成されている。

 講演プログラムでは、特別講演と研究内容の概要説明が行われた。特別講演は、量子コンピュータ研究の第一人者で現スタンフォード教授の山本喜久氏が、量子コンピュータの基本理論から最新の研究成果を紹介(詳細は別記事参照)。続く概要説明では、NIIで現在進められている研究について、研究当事者が説明を行った。

 NIIでは「情報学基礎研究」「情報基盤研究」「ソフトウェア研究」「情報メディア研究」「知能システム研究」「人間・社会情報研究」「学術研究情報研究」の7分野に分かれて活動を行っている。

 「情報学」と聞くと、「ハードウェア」「ソフトウェア」「ネットワーク」といった工学系、情報処理系のイメージが強いが、イベントの開幕でNII所長末松安晴氏が「情報学は人文の領域までもカバーする」と述べたように、歴史、社会科学もテーマとして研究されているのが、NIIの特徴だ。

 そのため、人間・社会情報研究の分野では、「発話と身振りの協調に関する研究」といった、会話(NIIは発話と呼んでいる)と身振りの関係を「呼吸運動に着目して生態力学的に情報を特定する」ことを目的とした研究や、「日本語複合語の接続関係解析」といった、IDFやCeBITでは見られないテーマが登場する。

 PCユーザーに馴染みのある、プロセッサや入力デバイスといったハードウェア、モバイルネットワーク、ミドルウェアに関する研究は、情報基盤研究、ソフトウェア研究、情報メディア研究の分野で行われている。


情報基盤研究分野で行われている非同期プロセッサの開発。従来のクロック同期型では高クロック、ダイの大型化によって、大きなクロック供給電圧が必要とされている。しかし、それにともなって発熱、電磁障害が発生する。この問題を解決するのが非同期プロセッサだ


非同期プロセッサは、省電力、低電磁波のメリットを生かしてSmartCardのような小型パーツへの実装が考えられている。試作された非同期プロセッサを搭載したSmartCardでは、動作クロックが早くなったのに電流は激減している


現在、非同期プロセッサ開発のネックになっているのが設計の難しさ。同期クロックを使えないので、プロセッサの構成は複雑で、かつ精密な制御回路が必要になる。NIIでは非同期プロセッサの開発ツールを研究しており、短時間で処理効率の高いプロセッサの設計を目指している。NIIの開発ツールを使った設計では、ゲートの数が従来の3分の1、処理速度も従来手法の設計より早くなっている



NIIでもユビキタスの研究は欠かせない。現在ユビキタスコンピューティングで課題になっているのは、ユーザーのコンテクスト情報管理とセキュリティ。NIIでは、コンテクストの管理をネットワーク上の事業者が行うNCA(Network Centric Architecture)とユーザーが自分の端末で行うECA(End-User Centric Architecture、データベースで使われるECAルールとは異なる)を提案している



まじめな研究紹介のなかでユニークだったのが、「コンピュータに接続できる将棋盤」。将棋盤という言葉が目立つが、実は「多点同時入力」に対応できるデバイスの研究開発だ。NIIでは入力される位置や属性を、無線デバイス「RFID」で同時に認識できるようにしている。写真下はチェスの盤面のすべてのマスに無線アンテナを埋設したところ

   今回のイベントは「一般公開」となっていたが、実際の参加者は学術分野の研究者がほとんど。研究内容の講演は一つの研究テーマにつき4分しかなく、簡単な概要紹介に限られ、より詳しい説明はブースの展示内容で行うことになっていたが、そちらはポスター、パネル展示が中心とやや内容が不十分であるように思われた。

 さらに、講演終了後に詳しい内容を知るため、ブースを回ろうとしても、イベント終了までほとんど時間が残っていない状況。イベントのプログラム、運営、公演内容について、次回は改善して欲しいところだ。

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[長浜和也, ITmedia]

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