News:アンカーデスク 2003年6月6日 00:00 AM 更新

省エネとコンピュータのホットな関係
熱で揺らぐコンピュータの信頼性(2/3)


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 少し古い話だが、2001年2月のLSI回路技術に関する国際会議「ISSCC」の基調講演でIntelのパット・ゲルジンガー氏は、「このままの状況で高性能化が進めると、マイクロプロセッサのPower Densityは、数年後には核反応炉並みに、2010年にはロケットエンジンの噴射口並みに、さらに2015年頃には太陽の表面並みに高くなる」と述べているほどだ(関連記事)。

 つまり、CPUの熱問題は相当深刻で、もはや何らかの抜本的な手を打たない限り今後の高速化は難しい。この認識は数年前からIntelなどチップベンダーやPCメーカーにはあったわけだ。

トランジスタのスイッチングと発熱の関係

 では、そもそもCPUなど半導体チップはなぜ発熱するのか、そのメカニズムを見てみよう。

 CPUに限らず、現在の半導体技術による集積回路の消費電力は、動作速度(クロック周波数)と回路のトランジスタ数に比例し、さらにその電源電圧の2乗に比例するという性質がある。そして、次のような理由で高性能化に伴って消費電力が増える。

(1)CMOS回路ではトランジスタがスイッチングするたびに、瞬間的ではあるが大電流が流れる。そのため動作速度(クロック周波数)が上がれば、単位時間あたりの回路のスイッチング回数が増えるため、流れる電流が増える。つまり、電力=電流×電圧(P=IV)なので消費電力が増える。

(2)CPUには命令デコーダをはじめ、演算回路、バス制御回路など多数の「ランダムロジック」と呼ばれる回路が含まれている。メモリのような整然とした内部構造を持つ回路では、ある瞬間に動作している回路部分は、選択されたメモリを構成するトランジスタに関連する部分だけである。しかし、ランダムロジックはある瞬間、同時にスイッチングするトランジスタの数は不定で、より効率的な処理を行えば行うほど、多くのトランジスタが同時に動作する。

 相対的に回路が複雑な分、動作の仕組みも複雑なので、同時に動作する回路は多い。つまりランダムロジック回路ではトランジスタ数が多くなれば、単位時間あたりに発生するスイッチング動作が増え、消費電力も増えることになる。

(3)動的に動作している回路の消費電力は、(電圧の2乗)÷(電源に対する回路のインピーダンス)で求めることができる。すなわち、前述したように電圧の2乗に比例して消費電力は増える。

(4)そのほか、チップと外部を接続するピン数が増えると、消費電力は大幅に増える。外部回路を駆動するバッファ回路が、コア電圧とは別に3.3Vで駆動されるGTL+などのロジックインタフェースで構成されているためだ。

 また、少々細かい話題だが、回路の漏れ電流問題や、回路の抵抗・容量成分によって電源からの電力供給が遅延するRC遅延問題などもある。実際の回路における消費電力の計算には、さまざまな要素を考慮しなければならない。

半導体と熱

 現在、CPUやチップセットなど大部分の半導体チップは、超高速通信用など一部を除きシリコンを主材料として製造される。その名の通り、半導体は普段は電流を流さないが、特定の条件を満たせば導体となるデバイスだ。

 例えば、メモリやCPUなどの内部に作り込まれる「FET(電界効果トランジスタ)」には、ソース、ドレイン、ゲートの3つの構成要素があり、普段はソースとドレインの間には電流は流れない。だが、ゲートにある電圧を加えるとソースとドレイン間で電流を流すようになる。

 しかし、こうした半導体としての動作は、シリコンがある温度を超えると正常に機能しなくなるばかりか、素子自体が熱で破壊されてしまうことがある。そのため、各チップは正常動作時における設計上の最大放熱量をTDP(Thermal Design Power)と呼ぶ値で定めている。

 これは、熱設計電力とも訳されるが、その意味は発熱量を仕事量に換算したもので、少なくともこの値以上の放熱を行わなければチップの温度上昇が止まらなくなる(いずれ熱破壊する)という値だ。

 簡単に言えば、TDPが高いチップほど発熱量が多く、より熱的に厳しい状態にあると言える。この値を超えないように、TDPが高いチップにはヒートシンク付きの冷却ファンが取り付けられることがある。だが、こうして放熱された熱はPCの筐体内にたまるため、筐体内の温度が上昇し続けるようなら、温度を下げるための冷却ファンが必要になる。

熱伝導効率の高いパッケージで効率的な放熱を実現

 CPUが高速化すると、高速なクロックやデータの入出力など回路の安定動作のために、外部の回路との接続を最短距離で実現するため、パッケージの小型化が欠かせない。例えば、IntelのPentium 4を見ればわかるように、最新のCPUはピン数が多いにもかかわらず、大変に小型化されている。

 しかし小型化は、熱の観点からはいっそう不利な状況にあると言える。そこで、小型化と同時にヒートシンク(放熱板)やヒートスプレッダー(熱拡散板)を搭載し、熱密度を下げ、放熱効率を高める工夫も行われている。

[宇野俊夫, ITmedia]

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