News 2003年7月17日 10:59 PM 更新

日米2社の協業が“電力不足”を救う?――三洋とIR、電源制御回路の新会社

三洋電機と米International Rectifier Corporation(IR社)が、インバータ(可変速モーター制御)モジュールの開発を行う新会社を設立を発表。電源制御モジュール分野のリーディング企業2社による最強タッグは、全世界的に社会問題化している“電力不足”に、福音となるかもしれない。

 現代社会は、エレクトロニクス製品に囲まれた生活が当たり前となっている。だが、米国や中国などでは電力不足が日常茶飯事になっており、国内でも今年の夏は、原子力発電所の停止などによって電力不足が身近な問題になりつつある。

 全世界的に社会問題化している“電力不足”問題に、福音となるかもしれない新会社が、日米エレクトロニクスメーカーの最強タッグで今秋立ち上がる。

 三洋電機と米International Rectifier Corporation(IR社)は7月17日、家電機器などの電源制御に使われる「インバータ(可変速モーター制御)」モジュールの開発を行う新会社「IR-SA Integrated Technologies Corporation」を今年10月1日に設立すると発表。同日、両社が都内で記者会見を行い、新会社設立の経緯や事業戦略について語った。

 IR社は、パワー半導体分野では欠かせないMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)に関する基本特許を所有し、パワーMOSFET市場でトップシェアを誇る電源制御モジュールメーカー。MOSFETは電界効果トランジスタの一種で、MOSFETを組み合わせたCMOS回路は、バイポーラや接合型FETといった他のトランジスタ回路に比べて消費電力を極めて小さくできる。そのため、現在ではほとんどの大規模LSIで、MOSFETを使ったCMOS回路が用いられている。

 三洋電機は、1986年に業界で初めて家電機器用モーターのインバータ駆動回路をワンパーケージ化したインバータモジュールを量産化。IR社との協業はIR社製のIGBT(Inerted Gate Bipolar Transistor)やドライバICの使用を開始した1995年からで、2001年11月からはOEM形態で三洋電機のインバータモジュールをIR社に供給するという協力関係を築いていた。


三洋電機のインバータモジュール(左)と、IR社にOEM供給したもの(右)

 エアコン、冷蔵庫、洗濯機など家電機器に使われているモーターの制御をインバータ化すると、消費電力を大幅に低減できることから、インバータモジュールへの需要が近年高まっている。

 三洋電機専務でセミコンダクターカンパニー社長の田中忠彦氏は今回の新会社設立について、「当社はこれまで、環境/CS/ネットワークというキーワードでビジネスを進めてきた。そして今、環境面で電力エネルギーの消費をいかに減らすかが全世界的に注目されており、家電製品の省電力化に貢献するインバータへの期待も大きい。当社の持つモーター制御のシステムモジュール化技術と、パワーMOSFETでシェアナンバー1のIR社の技術を組み合わせることで、小型で高性能なインバータモジュールを開発し、世界のエネルギー節減に貢献したい」と語る。

 新会社の資本金は両社がそれぞれ50%ずつ出資する。マーケティング/製品企画/開発までを新会社で行い、生産はそれぞれの親会社に委託。生産品の販売は両社がそれぞれの販売網を通じて実施。当面は家電製品向けのインバータモジュールから開発し、順次対応製品を広げていくという。今秋をめどに、米国カリフォルニア州に新会社を設立する予定だ。

インバータで電力消費を半分に

 国内では、エアコン、冷蔵庫、洗濯機といった家電製品の大半にインバータが搭載されているが、全世界的に見ると家電製品のインバータ化率はまだ低い。

 「エアコンを例にとってみても、日本国内ではインバータ化率が90%以上になっているが、日本よりもはるかに大きな市場である中国ではまだ3〜5%という状況。そして、今年も中国は電力不足になると予想されている。家電製品の電源制御システムをインバータ化すると、電力消費は従来の半分以下になる。白モノ家電自体は成熟市場だが、インバータ化率を考えると、新会社には大きな市場があると見ている」(三洋電機)

 新会社が開発するインバータモジュールには、三洋電機独自の高密度実装技術が数多く生かされる。なかでも、ベース基板にアルミ板を使用して放熱性を高めた絶縁金属基板技術(IMST)は、高集積化が進む現在のエレクトロニクス製品の熱対策問題にも非常に有効なテクノロジーだ。両社の技術を結集して作られる小型・高性能インバータモジュールは、白モノ家電以外にも応用範囲が広そうだ。

 「高電圧や大電流に強く、放熱性に優れた両社の技術メリットは、白モノ家電以外にも、PDPやオーディオといったAV製品にも生かせる。第一弾は白モノ製品向けインバータモジュールだが、順次応用範囲を広げていきたい」(三洋電機)


本格的な協業に向け、ガッチリと握手を交わす三洋電機専務の田中忠彦氏(左)と、IR社CEOのアレックス・リドウ氏(右)

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[西坂真人, ITmedia]

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