News 2003年8月1日 01:08 AM 更新

新スーパーCCDハニカムの大本命「SR」が登場しない理由

富士写真フイルムが今年1月に発表した2バージョン仕様の「スーパーCCDハニカムIV」。順調な製品展開をみせる「HR」に対して、新CCDの大本命といわれている「SR」は、搭載第一弾デジカメが二度にわたり出荷を延期するなど、いまだに製品が登場しない。その理由とは?

 富士写真フイルムが今年1月に発表した独自CCDの第4世代モデル「スーパーCCDハニカムIV」は、性能の異なる2つのバージョンが用意された。

 1つは、同社独自の微細化技術によって画素密度を第三世代に比べて約2倍に高めた「スーパーCCDハニカム HR」だ。1/1.7インチサイズのCCDは有効画素数が635万画素となり、ハニカム処理で1230万画素(4048×3040ピクセル)という“超”高解像度の画像を撮影できる。

 このHRを搭載したデジカメは、今年2月に発表した「FinePix F410」や、4月発表の「FinePix A310」がすでに店頭に並んでおり、先日7月29日にはHR搭載モデル第三弾となる「FinePix S5000」も発表された。


HR搭載の「F410」(左)と、「A310」(中央)、「S5000」(右)

 このように順調な製品展開を行うHRに対して、スーパーCCDハニカムのもう1つのバージョン「SR」を搭載したデジカメは、新CCD発表から半年以上が経過した今になっても店頭には姿を現していない。

 SR搭載デジカメ第一弾となる「FinePix F700」は、今年2月にHR搭載第一弾のF410と同時に発表された。この時に発表された発売日は「5月上旬」。しかし4月になって、部材調達の遅れなどを理由にF700の発売を「夏ごろ」に延期すると発表。さらに6月末には、F700の発売時期を10月に再延期した


SR搭載デジカメ第一弾となる「FinePix F700」は、いまだに店頭に姿を現さない

 二度にわたる発売延期は、販売店重視のマーケティング施策を展開する同社にしては珍しいこと。常に10数機種をラインアップしている生産能力からみても、「部材調達の遅れ」という理由はいささか理解しがたい。そうなると「2月発表、延期また延期で10月発売」という異例の事態を招いた犯人は、これまで使ったことのない新デバイス「SR」ということになる。

 先日のS5000の発表会で電子映像事業部営業部長の青木良和氏は「SR搭載デジカメの発売延期に関してはご迷惑をかけているが、今やっと生産が開始した。発売は10月とアナウンスしているが、できれば少しでも早く市場に出したいと思っている。“遅くとも10月”という状況なので、早ければ9月中にも販売をスタートしたい」と語る。

銀塩を超えるための「新規構造」が生産遅れの原因に

 “高画素化”を狙ったHRが従来の微細化技術の延長線上に位置する製品なのに対して、第三世代に比べてダイナミックレンジを約4倍にした“画質重視”のSRは、ダイナミックレンジの向上を図るためにスーパーCCDハニカムにこれまでにない新規構造を採用した。それが、特性の異なる2種類の撮像素子をハニカム内に収めた「主画素(S)/副画素(R)」の構造だ。(SRの詳細は別記事を参照)


主画素/副画素という特性の異なる2種類の撮像素子を持つ新規構造のSR

 近年のデジカメは高画素化競争で1画素あたりの撮像素子はどんどん小さくなり、ダイナミックレンジ/感度/S/N比など画質に影響する特性の低下を招いていた。特に、ダイナミックレンジの低下によって、明るい部分が白くつぶれてしまう“白とび”現象が発生し、これがデジカメ画像が銀塩フィルムに劣るといわれる最大の原因になっていた。

 SRでは、銀塩フィルムで使われているダイナミックレンジ向上の手法を応用。感度の高いS画素と、ダイナミックレンジが広いR画素という2種類の性質の異なる画素を用意し、2つの画素信号を最適に加算する事によって、感度とダイナミックレンジの両方を向上させている。

 S5000の発表会終了後、SR搭載デジカメ発売延期の詳細を青木氏にたずねたところ「主画素(S画素)と副画素(R画素)という2つの違う画素を1つにまとめるという方法は、今までのCCDにはない画期的な技術。それだけに、CCDの設計と画像処理の設計とがからみあって、構造的に大量生産が非常に難しかった」と語り、F700発売延期の原因が、CCD(SR)生産の遅れであることを明らかにした。

 「今年前半の時点では、SRの特殊構造ゆえに1枚のウェハーから生産できるCCDの数が従来に比べて圧倒的に少なく、コスト面から大量生産に踏み切れなかった。ここ最近になって、やっとコストに見合うだけのCCD数を1枚のウェハーから生産できるようになり、発売の見通しがついた」(青木氏)

 同社にしては珍しい横型スタイルのスタンダードなコンパクトデジカメを、SR搭載第一弾製品にしてしまったことも、発売延期の要因になっているようだ。

 「F700は、国内よりもむしろ海外で評判が高まっており、引き合いも日を追うごとに増えている。国内だけの少ない数量ならもっと早く発売できたかもしれない」(青木氏)

 当初の予定(5月)通りに第一弾が発売されていれば、同社のこれまでのデジカメラインアップ展開から考えると、今ごろはHR同様に第二、第三弾という声が上がっていてもおかしくなかった。

 「とりあえずは、発売が遅れているF700を一刻も早く市場に投入することが先。SR搭載第二弾の計画はもちろん進んでおり、F700の生産が順調に進めば、年内にも次のSR搭載新製品をお知らせできるかもしれない」(青木氏)

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[西坂真人, ITmedia]

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