News:アンカーデスク 2003年8月11日 11:29 AM 更新

「1CCD DVカメラ」が狙う次のステップ(2/2)


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 しかし200万画素クラスのCCDを使えば、Wideモードにしたときに、縦を切るのではなく、本当に横を伸ばすことができる。従って解像度の面で、従来とは比較にならない。今まで割とインチキクサイ目で見られて日陰者扱いであったWideモードだが、メガピクセルCCDの恩恵を最大限に享受するには、Wideモードで使ってこそなのだ。


200万画素のWideモード。DVDのスクイーズと同じで、横の拡大だけで済む

1CCDの弱点

 メガピクセルについてここまで語ってきたが、これは基本的に1CCDカメラの話である。デジタルカメラでは1CCDは当たり前だが、ビデオカメラの世界では低価格なのが1CCD、高級機は3CCDと相場が決まっている。

 1CCDの弱点は、色再現性の悪さだ。光をプリズムで分光し、RGBそれぞれに対して本当にCCDを3個使うのにくらべ、1CCDでは輝度を稼ぐために補色フィルタを使うことが要因である。なぜビデオではこれほどまでに輝度を稼がなければならないかというと、インターレースで撮影するために、シャッター速度を1/60秒以下に落とせないからである。

 よく補色フィルタは透過率が高いと説明されているが、なぜ透過率が高いのか、原理的に説明されたことはあまりないようだ。

 基本的にカラー信号を作るには、RGBの信号が必要である。これが光の三原則である以上、原理的には変わることはなく、補色フィルタとはいえども最終的にはRGB信号にしなければならない。まずはこの色環図を見て頂こう。カラー信号の基本であるRGBは、それぞれ三角形の頂点に位置している。その補色であるCMYは、その三角形の頂点の間に位置することになる。


原色の三角形に対して補色の三角形は、ちょうど色位相の間に入る

 例えばRの信号を作るためには、隣接するYとMのフィルタで取り出した色を加算する。光学的な加算なので、色位相はその中間であるRへ傾くが、輝度はフィルタ2個分が加算されるので明るくなる。そしてその分、色味としては薄くなる。このRGBに変換したときに輝度が高くて色味が薄いということが、すなわち透過率が高いという意味なのである。


二つの補色を加算したものから1原色を取り出す

 この補色フィルタから作り出されたRの信号は色味が薄くなっているので、これを後処理で純粋なR信号になるまで“持ち上げて”やらなくてはならない。光量が十分にあるときには、薄くなっているとはいえそれなりの色味が取り出せるので、あまり問題はない。しかし曇天や室内など光量が足りないところでは、取り出せる色味自体も少なくなってしまい、正確な色が再現できなくなってしまうのである。これが補色フィルタが色再現性が悪いと言われるゆえんである。

 このような補色フィルタの色の悪さを嫌うするならば、残る選択肢はフィルタをRGBに、すなわち原色フィルタを搭載するしかない。1CCDビデオカメラで最も早く原色フィルタを搭載したのはキヤノンで、1997年、同社初のDVカメラ「MV1」から既に原色フィルタを採用している。

 だが原色フィルタの採用は、皮肉なことにメガピクセルの壁に阻まれることになる。キヤノンでは「IXY DV2」以降、補色フィルタになってしまった。メガピクセルCCDからのRGB動画信号の読み出し速度に対応できる信号処理デバイスを作るのに手間取ったのだという。

 そしてようやくこの夏の新モデル、「FV M1」と「IXY DV M2」では、メガピクセルでありながら原色フィルタが復活している。同じくソニーも新モデル「DCR-PC300K」で、原色フィルタを採用した。

1CCDがハイエンド機に

 メガピクセルの勢いは止まることを知らない。最近では3CCDの一つ一つがメガピクセルというバケモノみたいなカメラまで登場している。こうなってくると発色の違いは、“プリズムで分光する派”と“フィルタで分光する派”の問題になってくる。

 コンシューマー業界において、いくら発色がいいと言われながらもなかなか3CCDがメインストリームにならないのは、やはり3CCD機はコストがかかるし、小型化も難しいからだ。また静止画設計のやりやすさからしても、1CCDのほうがデジタルカメラのノウハウが生かせる分、メーカーにとっては楽になる。

 発色の問題は、原色フィルタで解決のめどが立っている。最近ではソニーが3色の原色フィルタにエメラルドを加えて4色にするなんていう技術も発表され、1CCD機の発色はさらに前進しそうだ。エメラルドというのがどのぐらいの色位相なのか、簡易的な図版からは判然としないが、おそらくシアンのもうちょっと緑に転んだあたりだろうか。

 人間の目は緑を中心にして感度のスペクトルが広がっているので、緑色付近の感度が非常に高い。

 また日本には古くから青色系の染料が多いことから、GからBにかけての微妙な色分けは得意とするところである。青磁色、緑青色、青竹色、浅葱色、納戸色、藍、紺、瑠璃色、露草色、群青、藍鼠など、外国人からみればどーでもいいっつーか同じだろマジでぐらいの違いにも、いちいち名前を付けてきた。そのあたりの感度を強化することで、より発色を正確にしようということだろう。

 当然日本人開発者もその目を持っているわけだから、この発想もうなずける。さらに全く関係なさそうな赤の発色も改善されたとあるのは、エメラルドがだいたい赤の補色の位置にあるので、このデータを使って何らかの差分処理を行なうのであろう。

 まあ要するにだ、ビデオカメラは200万画素オーバーのメガピクセルCCDと原色フィルタの採用で、今や原理的にも3CCD機に劣らぬ解像感と色再現性を得ることができるようになった。ではそれがバリバリ売れるかというと、そこにはまた一つの壁があるのも事実だ。

 それというのも、「ハイエンドは3CCD」という神話を作ってきたのは、他ならぬビデオカメラメーカーなのである。もっともそれは架空の神話ではなく、“過去に置ける事実”ではあるのだが。“もう1CCDでも大丈夫ですよ”という新常識が果たしてどれぐらい通用するのか、また浸透するのにどれぐらい時間がかかるものなのか。

 カメラメーカーは、今度は自分自身が作り上げてきた壁と戦って行かなくてはならなくなっている。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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[小寺信良, ITmedia]

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