News | 2003年10月24日 10:55 PM 更新 |
秋田道夫、というインダストリアルデザイナーがいる。かつてトリオ(現ケンウッド)に在籍し、その後ソニーに移籍、伝説を残しつつフリーとなり、現在も旺盛に活動するインダストリアルデザイン界のカリスマだ。古巣のソニーが発表した高級ブランド「QUALIA」や携帯電話のデザインはどう映っているのか、語ってもらった。
建築デザインに勝ちたい
コピー機と、PCが3台置かれているデスク、そして来客用の小さいテーブルと椅子2脚──日本のインダストリアルデザイン界のカリスマは、東京・代々木の閑静な住宅地にあるアパートの6畳間にオフィスを構えている。
――意外な場所にオフィスを構えていらっしゃいますね。
実は以前、いかにもかっこいい事務所を借りていたことがありましたが、デザインの質とはなんの関係もなかった。その時に気が付いたのは、私がデザインしたものが部屋に勝てないんですよ。インダストリアルデザインは建築デザインには勝てないのです。空間に対して建築は圧倒的な支配力がある。それを建築家が意識しているかどうかは別として、とにかく勝てない。その“勝てなさ感”が結構いやで(笑)。
同じデザインという仕事でも、向こうは支配する側で、こちらは支配される側になってしまう。ですが、私がデザインしたあの1本入りワインセラーであれば勝てる可能性がある。オブジェになり得るインダストリアルデザインこそが建築デザインに勝てるのです。
普遍、あるいは飽きが来ない=「大人」
――あのワインセラーが建築に勝てるという理由は?
大人という言葉は嫌いだけれど、“普遍”だったり、“見て飽きが来ない”という言葉が“大人”という言葉と置き換えられると考えています。
あのワインセラーは、1930年代でも成立するであろう世界観、ということでやっています。中に入っているデバイスが違っていて水や氷で冷やしているのかもしれないけれども、外観的には今から70年前でも成立していたと思います。
僕は、過去からあったものを使えば未来でも飽きが来ないとずるく考えているんですよ。ギリシャ神殿とかピラミッドは好きですね。ピラミッドでも、上が平らになっている南米系のとかが結構好きです。昔プリンタのコンセプトデザインで使ったこともあります。それらはただ単純に残っているものですが、だけど今まで残っているわけですから、100年たっても形状としては滅びないでしょう。
僕がデザインを見るようになって30年くらいですが、ポストモダンという80年代の盛り上がりの尾ひれの時代も知ってますし、そのときもてはやされた物が、見る影も無く消えていっているわけです。その当時、アクリルで全部作ったようなモダンの極地のようなカフェがあるのですが、お店が景気悪くなったり古くなってしまうと必ずリニューアルされてしまうわけです。見るも無残な過去になってしまう。
ピークだったものがいともたやすく落ちていく。バブルの崩壊と一緒なわけです。そういうのを経験していると、今を冷静に生きれるはずなんです。
[大出裕之, ITmedia]
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