News 2003年10月24日 10:55 PM 更新

「QUALIA」から携帯電話まで、カリスマが語る工業デザインの“堕落”(2/3)


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誰が見ても分からないデザインをするのに忙しい、というのはいかがなものか

――デザインの基本姿勢を教えて下さい

 例えばいつも「人と時間が足りない」と忙しそうにしているデザイナーがいる。その仕事を見ると、一見単純な造形に見えて、実はあらゆるところにアールがつけられているとか、だんだんとアールの大きさが変わっていくとか。とにかく普通の人が見ても気が付かない技のオンパレードなわけですよ。彼にはそれがアイデンティティなわけです。

 でも僕は、四角なら四角で3Dのソフト上で引き出していけば済む。5秒でいい。しかし彼は誰が見ても分からないようなことに1日以上かけるかもしれない。それをもって2日でできる仕事を1週間かかると言っているのは理解できない。

 私が時間をかけて磨いて欲しいのはその四角のおおもとのプロポーションとそのバリエーションの検討であって、それこそ時間をかけなければいけない部分なのです。

 僕は書道にたとえるんですが、書家が筆で点を打っただけで白い紙に緊張感がみなぎるような行為、最後には点を打つこともなく、書家が「これは降り積もった雪に落ちる白い花びら」と語れば、そこに景色が発生する──というのが僕の究極のデザインの考え方です。

コンドームをかぶった村正でいたい

 僕の生き方として、コンドームをかぶった村正がいいと思っています。生身はいやだし、竹光でもいやなんです。本物だけど切れない、本当のときしか本気は出さない、そういう生き方が自分としては美しいなと。

 本当に切れたら、痛いですよ。痛々しいですよ。僕は長生きしたいし、恒久的なことをやって、自分がやったことが世間にこういう影響力があるんだな、というぽちぽちとした影響力が好きですね。

 あのワインセラーはある意図を持ってやっているので、僕の好みををフルに発揮しているか、というとそうではない。自分の好きにするとしたら、本体の色も白にしたかもしれない。僕自身は夜の世界よりも朝日に似合うもののほうが好きなんです。

 でも“デザイナーは役者にならないとけない”という意味では役に徹して、ワインセラーはちょい悪役をやったんです。趣味趣向のかなり偏った、女たらしの、車で言うとブガッティのような屈折した車に乗るようなおじさんをイメージしました。僕自身は自転車でいいんだもん、という世界観ではありますが(笑)。



ソニーがCOMDEX/Fall 2000で参考出品したBroadband Gate。秋田道夫らしくない作品のひとつ

ユニクロの社長の依頼なら、面白い仕事をするかもしれない

――非常に矛盾しているとも言えますね

 ぽちぽちたわたわしていたい、と言っておきながら、デザインしたものがぽちぽちしていないわけですよ、かちんかちん、しゃきんしゃきんです(笑)。でも、観念としてはそうなんです。非常に矛盾した生き方をしています。でもそれは陰と陽みたいなもの。

 僕自身、形を作るということについては相当自信があるわけです。でもそれを生かすすべがあまりにもない。

 骨があるクライアント、例えばユニクロの社長の依頼だったら僕は面白い仕事をするかもしれない。そういうインパクトです。実際の役者もそうですが、脚本家なり監督がなにを要求するかによって化ける可能性は多々ある。僕の場合、単なる役者ではないかもしれないけれど、プロデューサーが重要であるということは分かっているつもりです。

 それからすると、ワインセラーは久々の出会いだったような気はします。自分が好きとか嫌いとかではではなくて、ここで悪役をやったら最高だよね、と言われたような気がしますよね。そういうことができると思ってくれたこと自体がうれしいです。こういう出会いをしたいと思うのですが、なかなかない。


QUALIAは、昔の人がすごいと思うであろうものでしかない

――かつてソニーに在籍していた秋田さんから見たQUALIAはいかがでしょう?

 実物を見ていないし触ってもいないのでしっかりとした感想は言えないのですが、あのCDプレーヤーなどは僕にやらせてたら絶対すごかっただろうとは思っています。

 今のQUALIAは、オーディオとしてどうあるべきかについて時間を割くやり方ではなく、どうすればスタイリッシュになるかの方にウエイトがかかってデザインをした印象は否めないですね。

[大出裕之, ITmedia]

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