クラウドやAIの活用が急速に進む一方で、それを支えるデジタル人材は不足している。この課題に対して、検定制度の創設や教育機関への支援といった取り組みを続けてきたのがさくらインターネットだ。「クラウドの会社」というイメージが強い同社だが、実は長年にわたって日本のIT人材教育に注力してきた。
2026年5月、同社はオンラインイベント「さくらのIT教育カンファレンス2026春」を開催。検定制度や教育機関への出前授業など、学びを社会へ届けてきた幅広い取り組みを紹介した。なぜ同社はここまでIT人材教育に全力を注ぐのか。具体的な支援内容や背景にある思いを同社に聞いた。
さくらインターネットの教育支援は多岐にわたる。象徴的な取り組みの一つが、2023年3月に国立高等専門学校機構と包括連携協定を結んで本格化させた「高専支援プロジェクト」だ。その対象は2025年度には31校まで拡大している。教員どうしのネットワークを通じ、口コミで広がったという。
学校でのクラウド教育は座学が中心になりがちだった。そこで同社は、計算資源と教材を提供し、自社の講師を派遣する出前授業を実施している。クラウドの物理的な土台を実地で見るデータセンター見学研修も用意し、学生が「実際のクラウドに直接触れて学べる」実践的な体験を届けてきた。
「クラウド環境自体は、10分もあれば作れてしまいます。頭の中でもやもやしていたものが、一度作っただけであっさり腑(ふ)に落ちる。その瞬間に、学生の世界はがらりと変わるのです」とさくらインターネットの亀田治伸氏は語る。
支援の成果はすでに具体的な形で表れている。全国の高専生が参加する無線技術のコンテスト「WiCON」では、同社が提供した計算資源を活用した学校が最優秀賞を獲得した。
ものづくりを得意とする高専生にとって、自由に試せる計算資源は格好の素材になる。しかし同社が授業を永続的にサポートできるわけではない。情報科目の指導が担当教員の力量に左右されるという課題もある。そこで教材やノウハウを学校に残し、教員へスキルを引き継ぐ「自走支援」にも注力している。
計算資源は基本的に無償で提供する。また、高専在学生向けには「みらいサーバー」と銘打ったクラウド無償提供プログラムも用意している。現役の高専生であれば、在学中は「さくらのクラウド」を無償で利用できる。
このような支援を行っている一方で、実務を担う技術者を育てる観点から、知識を体系化して客観的に評価できる取り組みも進めている。その役割を担うのが、2024年9月に開始した「さくらのクラウド検定」だ。デジタル技術の基礎からクラウドコンピューティングのアーキテクチャ設計まで幅広く学べる認定試験で、合格者は1200人を突破している。企業にとっては人材育成の指標として、教育機関にとってはカリキュラム設計のベースとして活用できる点も特徴だ。
同社は2026年に入ってこの検定を再編した。クラウドの基礎を扱う従来の試験を「ベーシック」として維持しつつ、より実践的な上位試験「アドバンスド」を新設した。「実際に手を動かして構築した経験がないと解けない、現場さながらの問題も含めています」
さくらのクラウド検定はハードウェアなど土台にある物理レイヤーも学べる。 「クラウドは、突き詰めればデータセンターにある物理的なハードウェアの上に成り立っています。完成された機器の上でソフトが動くという感覚しか持たないと、トラブルの原因に気付きにくい。土台に物理があると理解しておくことには、確かな意味があります」
2026年9月にはAIの基礎から同社が提供するAIサービスの実践までを一貫して学べる「さくらのAI検定」の第1回試験も予定している。重視するのは、AIを使う力だけでなく、その中身を理解する力だ。同社の生成AIモデルを使える基盤プラットフォームサービス「さくらのAI Engine」で実際にスクリプトを動かすハンズオンも組み込み、初学者から実務層まで、実践的にAIを理解できる設計となっている。
クラウドとAIの知識は、本来セットで身につけるべきものだ。同社がクラウド検定のベーシック、アドバンスド、そしてAI検定を一続きのラインアップとしてそろえているのも、これらをまとめて学んでほしいという考えからである。検定が証明するのは、特定のサービスの操作にとどまらない。
「クラウドが日本の社会をどう支え、AIが社会をどう変えていくのか。その中身まで含めて知識を身につけてほしいと考えています。そこで得た知識は、どのクラウドサービスでも通用するはずです」
こうした知識を広く社会に届けるため、同社はこれらの検定の学習教材をすべて無償で公開し、再利用も認めている。教育機関や自治体、企業が自前の研修や講座を立ち上げる際、一から教材を作る負担を肩代わりする狙いもある。実際にAI関連の教材は月間数百件のダウンロードがあり、教育現場や社内研修での活用がすでに進んでいるとみられる。
こうしたIT教育支援や検定制度の整備に同社はなぜここまで注力しているのか。その根底には、同社ならではの強い問題意識と危機感がある。
デジタル庁が募集した「令和8年度ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に採択されたパブリッククラウド「さくらのクラウド」と、GPUインフラストラクチャー、この2つを軸に国内でクラウドサービスを展開する中で得た知見を、日本全体のデジタル競争力の底上げやデジタル人材不足の解消に役立てたいというのが出発点にある思いだ。
もっとも、日本でデジタル人材の育成は進みにくい。亀田氏は、「海外と異なり、解雇のリスクが少なく、雇用が守られている環境の中で学ぶ形が基本のため、強い学習意欲が湧きにくいことや、英語を苦手とすることで最新情報の取り込みが遅れることが原因だと考えています」と分析する。しかし、そこには反転の余地があると見る。
「言語の壁は、テクノロジーの進化によってほぼ解決されつつあります。ここから日本が巻き返す手段は十分にある。その後押しをするのが私たちの役割だと考えています。教育に関する活動は、当社のサービスを売るためだけのものではありません。さまざまなデジタル技術に触れるハードルを下げ、その中から新しいビジネスのアイデアが生まれてくれば良い。それが私たちの思いです」
同社は学ぶ一人ひとりの不安にも向き合う。AIの進展により、最初に仕事を奪われるのはエンジニアではないかと身構える人は少なくない。そんな人たちに対して、亀田氏はこう背中を押す。
「不安なら動くべきです。かつてECサイトが登場したときも営業職はなくなると言われましたが、人対人の仕事として残りました。AI化が進んでも、仕事そのものが消えるわけではなく、作業の一部が効率化されるだけ。大切なのは、そこで浮いた時間に何を学ぶかです。だからこそ、新しい技術に興味を持ち、楽しんでほしいですね」
新しい技術を面白がり、自ら学び続ける。そんな一人ひとりの前向きな歩みを支えるために、同社は学びのインフラを提供している。国産クラウドを開発する企業が、自社製品の普及という枠を超えて整える「学びの土台」は、IT教育に課題を抱える企業や教育機関にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけになるだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2026年8月7日