「著作権が技術の将来を決めていいのか?」
「ベータマックス訴訟で、ビデオデッキが違法という判決が出ていたらどうなっていたか」。岡村弁護士は、Winny開発者逮捕がP2P技術の進展を妨げる可能性を指摘した。
「ベータマックス訴訟で、ビデオデッキが違法という判決が出ていたらどうなっていたか」――6月28日、東京電機大学で行われたWinny事件を考えるワークショップで岡村久道弁護士は、Winny開発者逮捕がP2P技術の進展を妨げる可能性を指摘した。
ベータマックス訴訟では、ハリウッドの映画会社がソニーを相手取って「ビデオデッキは著作権侵害に加担している」として訴えた。ソニー側が1984年に逆転勝訴し、著作権と新技術、私的複製とフェアユースをめぐる分水嶺となった。「違法判決が出ていれば、ビデオデッキはなくなっていただろうし、DVDレコーダーも開発されたかったかもしれない」(岡村弁護士)。
ただ、P2P技術が著作権法違反に悪用可能なことは事実だ。岡村弁護士は「違法にも合法にも使える技術に白黒つけるのは難しい」と、P2Pファイル交換ソフト「Aimster」が音楽ファイルなどの著作権を侵害したとして訴えられた裁判を紹介した。
同裁判で米控訴裁は、「セクシーなドレスの商人は、彼の顧客の何人かがそれを着て売春していることを知っているが、有罪ではない。しかし、マッサージができるが、客にセックスだけを売ってマッサージを行わない女性を雇っているマッサージ店のオーナーは、売春のほう助者および教唆者だ」という例を示し、合法・非合法両方に使えるものは、その影響の大きさを測った上で判定する必要があるとの見解を示している。
さらに岡村弁護士は、「新しい技術は、先人の業績の上に乗って伸びるもの。著作権という小さな枠組みだけで技術を規制していいのだろうかと疑問だ」とし、著作権保護の観点だけから技術の進展を阻害するの乱暴だとの見解を示した。
日本の司法はサービス提供者を正犯に仕立て上げる
岡村弁護士はまた、アメリカのP2Pファイル交換ソフト「Napster」に関する訴訟と、日本の「ファイルローグ」への差し止め命令とを比較し、日本の司法の強引さを批判した。「Napster裁判では、Napsterはユーザーの著作権法違反の共犯・ほう助犯として扱われたが、ファイルローグ事件では、サービス提供会社自体を無理矢理正犯にした。日本の司法は、実際に著作権侵害したユーザーではなく、サービス提供者側を“ヤクザの親玉”と見て処罰の対象にする傾向がある」(岡村弁護士)。
Winny事件では、交換されるファイルの内容をサービス提供者側で管理可能だったかどうかの視点が抜け落ちているとも指摘。P2Pファイル交換ソフトが著作権法違反で訴えられた「Grokster・Morpheus事件」では、交換されるファイルの内容が管理者側でコントロールできないため、サービス提供者に管理責任はないとの判決が出た。これを受けて全米レコード協会(RIAA)は、管理者やソフト開発者側ではなく、ユーザーを大量提訴する作戦に方向転換している(関連記事参照)。
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