「ビジネスP2Pは別物」――差別化図るP2P企業:Winny事件を考える
Winny事件の影響から、「P2Pイコール悪」という図式の定着が懸念されている。P2Pを使ってビジネスを展開する企業はどのように逆境を乗り切るのか?アリエル・ネットワークの小松社長に聞いた。
匿名性を排除した「ビジネスP2P」というコンセプトを押し出し、P2Pソフト市場を成熟させていく――。Winny事件の波紋が広がる中、アリエル・ネットワークの小松宏行社長はこんな戦略を描く。
違法ファイル交換の横行は、「匿名性に起因するところが大きい」と小松社長は見る。「(P2Pを使わず)サーバからファイルをダウンロードしても著作権侵害。ファイル交換の先駆けとなったNapsterでは、単にスケーラビリティを与えるためにP2Pが使われただけ。今後は、P2Pよりも匿名性をどのようにとらえるかが問われると思う。匿名性が排除された現実の社会では、簡単に犯罪を起こせないものだ」。
同社はP2Pを基盤とするグループウェアの開発で知られる。P2Pを商用利用する上で、匿名性の排除は不可欠だと小松社長は話す。
「P2Pイコール悪」という図式の定着が懸念される中、小松社長によるとP2P企業のとるべき方針は2つある。「一つはP2Pを看板にしないこと。もう一つは(匿名性の有無で)P2Pには2種類あると訴えるパターンだ」。
同社は、完全に匿名性を排除したP2Pを「ビジネスP2P」と称し、後者の方針を打ち出していく。日本のP2P業界全体もその方向に向かっている。業界として、ビジネスP2Pは別物だと公にアピールする戦略を採る可能性も、「あると思う」。
小松社長は、サーバ型のシステムよりもP2P型の方が匿名性の排除は容易だと話す。「サーバ型のシステムでは、クライアント側の情報を入手するのにCookieくらいしか選択肢がない。P2Pでは双方向通信が可能。ユーザーにIDを発行して行動履歴を取ることができる」。
同社が開発したグループウェア「ArielAirOne」は、あらかじめこうした事態を想定し、あらゆるノードにIDを割り振る設計にした。これにより匿名性を排除したほか、IDの発行に対して課金するモデルも構築できたという。
匿名性を除くことが十分な犯罪抑止力になる、との考えだが、著作権者側からはデジタル著作権管理(DRM)技術を組み合わせたさらに強力な防止策を求められることになると見ている。「IDの発行とDRMを組み合わせれば、コピーコントロールCD(CCCD)と同程度の強固な著作権保護システムが築けるはずだ」(小松社長)。
これは個人的な意見だがと断りを入れた上で、小松社長は次のように話した。「いま振り返って考えると、音楽配信ではP2P技術を利用したNapsterが契機になったと思う。当時のデジタルコンテンツにはDRM技術が欠けていた。この問題を解決しようという真剣な取り組みがそこで起きて、DRM技術を利用するビジネスが急速に発展したのではないか。米国ではiTunesのようなオンラインでの楽曲販売が広まっている。新しい技術を適用することにより、問題のあった技術の流れを変化させている。技術はこうした経緯をたどりながら成熟していくのかもしれない」。
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