MERCURY WORLD JAPAN 2005で「日本のITの光と影―日本の未来」と題する講演を行った西和彦氏は、コンピュータ技術の進化の歴史を俯瞰(ふかん)しながら、失敗と成功の要因を分析し、現在の日本のIT業界における課題と今後の挑戦分野を指摘した。
8ビットパソコンによるBASICの時代が到来した1970年代半ば以降の日本のITの歴史は、米IBMや米マイクロソフトと密接なかかわりを持った西氏の個人史と重なる。
「大きなハードは消滅する」。パソコンの未来を予測する1つのポイントとして、西氏はハードウェアのサイズに注目する。
1981年にIBMパソコンの製作企画に参加し、それ以後のパソコンの栄枯盛衰を見てきた西氏にとって、パソコンのハードウェアサイズは時代を経るごとに減少傾向の速度を加速させているようにみえる。確かに、大型の汎用コンピュータはパソコンにとって代わられ、その後、時代はノートPC全盛へと推移した。
では、そのあとに何がくるのか。パソコンの技術から派生する1つの方向性として携帯電話を挙げるのは不思議ではない。
一方で、パソコンに搭載されるプロセッサはいよいよ64ビットとなる。「64ビット時代はUNIX系のGUIが主流となる。UNIX PCによるアップサイジングの時代であり、ワークステーションの定義が変わる」と西氏はいう。パソコンの性能向上は、PCサーバを大量に接続し、大型コンピュータと同等の機能を実現させようとする“パソコンのアップサイジング”という動きを引き起す。グリッドコンピューティングはこのような動きの具体例だろう。
ただし、情報システムの社会における位置付けの重要度は年々高まり続け、いまでは「止めることができない機械」としての姿が当然とされるようになってきた。すると、パソコンの信頼性に対する問題が重要となってくる。
ハードウェア分野ではCPU、ハードディスクといった部品レベルの信頼性、そして、OS、データベースエンジン、ソフトウェアに至るまで、信頼性という観点からみて安心できるレベルに達する「部品」はほとんどないのが実状だという。これらの状況を踏まえ、西氏は「冗長性を持った部品の設計および、システム設計と最大規模での実データによる試験を行う必要がある」とする。
メディアの在り方についても卓見を示した。西氏が1990年に考えた「21世紀のシナリオとアクション」では、人々はインターネットという新しいメディアを、テレビや電話のような既存メディアと同じような位置付けで利用していくとしている。当時の認識では、パソコンは、あくまで「パソコン」という一部の人々が使用する特殊な機械として存在していた。
今でもこの認識が完全に払しょくされているわけではないが、1990年当時と比較すれば、インターネットはパソコンという端末の呪縛から解放された1つのメディアとして、その存在を主張し始めており、西氏の予測が的中していたことがうかがえる。
さらに西氏は大胆な予測を披露した。「すべてがインターネットに載る日がくる」
201X年、WebとIP電話とネットTV、すなわち、通信と放送すべてがインターネットに載る日がくるとする。その結果生まれるのは、郵便、出版、新聞など、すべての既存メディアを包含した総合メディアシステムだ。文字通りのブロードバンド時代の到来というわけである。
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